604 / 684
32.次元の狭間
34.鬼と悪魔
しおりを挟む
大爆発が起こった。
しかし、コストイラは生きている。
「ガハハ! 何死を受け入れてやがるんだ?」
豪快な笑い声が上から来る。
瓢箪を腰から下げる3m大の男がそこにいた。
「レイベルス!?」
「フン! 大男一人増えたところで何だというのだ! 殺せ! 殺せ!!」
レイベルスは自身のこめかみをコリコリと掻きながら、困ったような顔をする。
「……何だ、アイツ?」
「さぁな。元五重塔の住民であるマーエン教だ」
「マーエン……? あぁ、イーラのところの宗教か」
「イーラ様だ!」
「来る!」
『ゴォア!』
敬神の念を抱く相手を呼び捨てにされ、激情に駆られるフェリップの令を受け、エイルドラゴンとフレアドラゴンが突進してくる。
「……向かう相手くらい考えろ、獣風情が」
レイベルスがコストイラの肩に手を置き、後ろに押しやった。コストイラが文句を言う前に、レイベルスはエイルドラゴンの下顎を拳で打ち抜いた。
エイルドラゴンの頭部を覆っている骨格が砕け、顔の半分が陥没している。
「は?」
「え、マジ?」
フェリップは空色の瞳を丸くして呆然とし、コストイラ達はその攻撃一撃の威力にドン引きした。
レイベルスは左腕を引き戻す勢いを利用して、右ストレートをエイルドラゴンの顔面に叩き込んだ。その威力は先程のアッパーよりも数段高く、エイルドラゴンの頭が弾けた。
ある程度長い手腕を伸ばし、近づいてきていたフレアドラゴンの顔を掴んだ。炎竜は焦りながら逃れようとするが、鬼の力を振り解けない。それどころか、鱗が砕けている。
「な、グレートドラゴン! カオスドラゴン! 何とかしろ!」
レイベルスはフレアドラゴンの首を掴んだ。
「なぜ動かない! 行け! 殺せ!」
レイベルスは両腕に力を込めた。鬼の中でも一、二を争う暴力の持ち主だ。炎竜の首はブチブチと既に耐えきれていない。
「くそ! もう俺がやるしかない!」
フェリップが走り始めた途端、レイベルスはフレアドラゴンの首を引き千切った。
レイベルスとフェリップの間にコストイラが入った。
「これ以上いい格好させるかよ!!」
「チッ!」
「なら任せようじゃねぇか」
フェリップは顔いっぱいに不満を爆発させ、空色の瞳を金色にした。
魔眼だ。間違いない。しかし、何の能力か分からない。
フェリップは指揮者の指揮棒のような剣を抜いた。四ツ目を失った男史上最速に近い速度で細剣を振るう。
アレンは目を丸くした。アレンでも思ってしまった。
遅い。アレンの目から見ても遅い。まぁ、視認できることと、体が動くことは別である。
フェリップが細剣を振るう。
コストイラは何のモーションもなく跳躍し、細剣を躱した。そして拳のように固めた足で、フェリップの顔面を蹴る。
フェリップの鼻頭が折れ、背から倒れてしまう。
その時、ズズンとグレートドラゴンが倒れた。もう目に光がない。完全に死んでいる。
フェリップは後転して四つ足となる。
頭が上手に働いてくれない。なぜグレートドラゴンが倒れている? なぜ原初の魔竜と素手でやり合える奴がいる? そして、今、俺は何をされた?
自身の鼻へと手をやり、ベキベキと鼻を真っ直ぐに治す。途端、蛇口を捻ったように血が流れ出てきた。
「イーラ様の、贄となるのだ!」
フェリップは立ち上がることなく、低姿勢のまま走り出した。
フェリップ史上最速の刺突を前に、コストイラはただゆらりと動いた。そして、フェリップの目に映らず、金の瞳でも判別できない程の速度と手数で動く。
フェリップは一つしかない瞳をあらん限りに見開き、動きを止めようとする。
しかし、その前にコストイラがフェリップの細剣を右足で踏んだ。一歩も動かせない。フェリップが焦りを交えた目でコストイラを見た。
その顔は勝ち誇るでも憐れむでもなく、ただ無表情。
「おぉ、神よ……」
フェリップはその一言を残して、首だけとなった。
しかし、コストイラは生きている。
「ガハハ! 何死を受け入れてやがるんだ?」
豪快な笑い声が上から来る。
瓢箪を腰から下げる3m大の男がそこにいた。
「レイベルス!?」
「フン! 大男一人増えたところで何だというのだ! 殺せ! 殺せ!!」
レイベルスは自身のこめかみをコリコリと掻きながら、困ったような顔をする。
「……何だ、アイツ?」
「さぁな。元五重塔の住民であるマーエン教だ」
「マーエン……? あぁ、イーラのところの宗教か」
「イーラ様だ!」
「来る!」
『ゴォア!』
敬神の念を抱く相手を呼び捨てにされ、激情に駆られるフェリップの令を受け、エイルドラゴンとフレアドラゴンが突進してくる。
「……向かう相手くらい考えろ、獣風情が」
レイベルスがコストイラの肩に手を置き、後ろに押しやった。コストイラが文句を言う前に、レイベルスはエイルドラゴンの下顎を拳で打ち抜いた。
エイルドラゴンの頭部を覆っている骨格が砕け、顔の半分が陥没している。
「は?」
「え、マジ?」
フェリップは空色の瞳を丸くして呆然とし、コストイラ達はその攻撃一撃の威力にドン引きした。
レイベルスは左腕を引き戻す勢いを利用して、右ストレートをエイルドラゴンの顔面に叩き込んだ。その威力は先程のアッパーよりも数段高く、エイルドラゴンの頭が弾けた。
ある程度長い手腕を伸ばし、近づいてきていたフレアドラゴンの顔を掴んだ。炎竜は焦りながら逃れようとするが、鬼の力を振り解けない。それどころか、鱗が砕けている。
「な、グレートドラゴン! カオスドラゴン! 何とかしろ!」
レイベルスはフレアドラゴンの首を掴んだ。
「なぜ動かない! 行け! 殺せ!」
レイベルスは両腕に力を込めた。鬼の中でも一、二を争う暴力の持ち主だ。炎竜の首はブチブチと既に耐えきれていない。
「くそ! もう俺がやるしかない!」
フェリップが走り始めた途端、レイベルスはフレアドラゴンの首を引き千切った。
レイベルスとフェリップの間にコストイラが入った。
「これ以上いい格好させるかよ!!」
「チッ!」
「なら任せようじゃねぇか」
フェリップは顔いっぱいに不満を爆発させ、空色の瞳を金色にした。
魔眼だ。間違いない。しかし、何の能力か分からない。
フェリップは指揮者の指揮棒のような剣を抜いた。四ツ目を失った男史上最速に近い速度で細剣を振るう。
アレンは目を丸くした。アレンでも思ってしまった。
遅い。アレンの目から見ても遅い。まぁ、視認できることと、体が動くことは別である。
フェリップが細剣を振るう。
コストイラは何のモーションもなく跳躍し、細剣を躱した。そして拳のように固めた足で、フェリップの顔面を蹴る。
フェリップの鼻頭が折れ、背から倒れてしまう。
その時、ズズンとグレートドラゴンが倒れた。もう目に光がない。完全に死んでいる。
フェリップは後転して四つ足となる。
頭が上手に働いてくれない。なぜグレートドラゴンが倒れている? なぜ原初の魔竜と素手でやり合える奴がいる? そして、今、俺は何をされた?
自身の鼻へと手をやり、ベキベキと鼻を真っ直ぐに治す。途端、蛇口を捻ったように血が流れ出てきた。
「イーラ様の、贄となるのだ!」
フェリップは立ち上がることなく、低姿勢のまま走り出した。
フェリップ史上最速の刺突を前に、コストイラはただゆらりと動いた。そして、フェリップの目に映らず、金の瞳でも判別できない程の速度と手数で動く。
フェリップは一つしかない瞳をあらん限りに見開き、動きを止めようとする。
しかし、その前にコストイラがフェリップの細剣を右足で踏んだ。一歩も動かせない。フェリップが焦りを交えた目でコストイラを見た。
その顔は勝ち誇るでも憐れむでもなく、ただ無表情。
「おぉ、神よ……」
フェリップはその一言を残して、首だけとなった。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる