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32.次元の狭間

35.英雄願望

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 英雄になりたい。
 そう願うようになったのがいつの事なのかなど、覚えていない。
 しかし、ある時から、皆を救える正義のヒーローに憧れるようになった。

 英雄になりたい。
 ゆえに、どのような状況でも対処できる天才である必要があった。
 どうすれば英雄になれるのか、あらゆる文献を読み漁り、英雄の身体能力を手に入れるために武道を習った。

 英雄になりたい。
 その気持ちだけではただの少年の夢だと気付き、行動に移した。
 彼の基準上、悪である者を平然と殴り、不良グループに単騎で乗り込んだ。
 これらの行動が英雄に繋がっていると思って疑わなかった。

 英雄になりたい。
 その思いを異常なほど募られていた時、ひょんなことから異世界転移をした。
 理解できなかった。しかし、神様がこの世界を救ってくれと言っているのだと納得した。

 彼は団体行動が苦手だった。しかし、組織に属し、情報収集を行った。

 そんな時だった。勇者の存在を知ったのは。
 許せなかった。英雄は自分であって、勇者も自分である。

 だから、彼は勇者を殺すことにした。贋作うそつきなどいらない。世界を救うのは自分だ。

 しかし、自分は負けたのだ。
 正直、かなり悔しかった。今まで負けなしだった故、余計に、だ。

 だが、同時にそれが当然のことだと思う自分もいた。英雄は常勝無敗ではない。いつか敗れて強くなるイベントが挟まる。定番の流れだ。

 のちに彼は魔眼を手に入れる。
 これで次に会った時に勝てる。

 そう考えていた時、勇者一行に再開した。





「ぬ? あれも知り合いか?」

 レイベルスが一点を指差す。

 コストイラ達はそこを見る。そこには、右腕のない金髪の男がいた。薄く笑みの張られた顔は、どこか不気味で、長く見ていたいという気を失せさせる。

 ヴェスタがゆっくりと剣を抜いた。

「見せてやろう。これが強化された英雄の力だ」

 すでにヴェスタの剣は虹色のオーラを纏っている。コストイラの記憶が正しければ、あれは必殺技であったはずだ。最初から全力で来る。
 崖を砕きながら、距離を詰めていく。

 一歩、コストイラが前に出る。

「勇者の右腕<駿足長阪>のコストイラ」
「っ!? 光の守護者<破邪顕正>のヴェスタ」

 あの時とは逆の名乗り、それにヴェスタが口角を上げた。

 あの時以上に軽量化された大剣の切っ先をコストイラに向けた。

 大剣とは思えない速度の刺突だった。最初から全力で、最速の決着を。

 しかし、コストイラはそれを拒んだ。大剣を横から叩き、軌道を逸らしながら自身は独楽のように回り、首を狙う。
 ヴェスタは頭を下げ、刀を躱す。ヴェスタの輝くような金髪が数本舞った。ヴェスタは大剣を引き戻しながら、低い姿勢のままコストイラのリバーにブローをかます。
 コストイラは体をくの字に曲げ、拳を無理矢理回避した。無茶な体勢のまま動いていた体を戻すように膝を顔面に叩き込んだ。

 鼻と首に痛みが走る。速度が失われ、重力に従って落ちる。ヴェスタは手で押して、コストイラから距離を取る。
 コストイラが立て直す前に地面が爆ぜる。

 コストイラは高速で迫る大剣に丁寧に対応していく。一つ一つ確実に。

 ヴェスタが焦り始める。コストイラは真顔のまま、すべてに対応している。

 おかしい。僕は転生者だ。それなりの能力チートを得ているはずだ。しかも、金色の魔眼という強化イベントまで来たじゃないか。

 ヴェスタの金に輝く瞳がコストイラの姿を捉えている。しかし、姿が一つではない。六つの姿がこちらに武器を振っている。
 上段。横一閃。振り上げ。袈裟掛け。胴斬り。突き。全てに対処しようとすれば、中途半端になって死んでしまうかもしれない。

 避ける。

 繰り出されたのは胴斬りだった。ヴェスタの腹筋に赤い筋が入る。

 しかし、避けた。ここから反撃に出てやる!
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