メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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33.魔大陸

8.より早く・より速く・より疾く

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 エレストの純情な思いが、満開の桜のように咲き、今この場と同じように花吹雪いた。

 戦いやすいように短く揃えた髪も、好意を寄せている相手が望むというのなら、伸ばしてもいいと思えてしまうのは、まるで恋する乙女のようだ。

 それを自覚してしまうと、エレストの頬が熱くなってしまい、苛立ってくる。今は戦中だぞ。
 高揚していくたびに、速度が増していく。それに合わせて、コストイラも限界を超えて追い着いてくれる。それがまた、高揚につながる。まさに永久機関。

 燃える瞳と濡れる瞳が合う刹那、世界の時が、動きが、全てが止まって感じた。

 もう少し。もう少しだけ。後、ほんのもう少しだけ、この瞬間を。この夢を見させてほしい。
 このまま、私は徒桜で構わない。嗚呼、かつての弟子も同じ気持であったのだろうか。

 エレストが細剣を猛スピードで振り下ろす。コストイラは刀を横にして受けながら、腰を落とした。エレストはそのコストイラの膝に足を乗せ、もう片方の足の膝をコストイラの鼻に叩きこんだ。
 コストイラの鼻が潰れ、空気が行き来できない。
 エレストはそのまま膝打ちをした右足を伸ばし、コストイラを蹴り飛ばした。

 コストイラは何度もバウンドして、その間、何度も顔面をぶつけたおかげで鼻が戻った。蛇口を捻ったように鼻血と鼻水が出てくる。

 嗚呼、シムバ。
 嗚呼、アスタット。
 嗚呼、アイケルス。
 嗚呼、ヲルクィトゥ。
 嗚呼、ナギ。

 申し訳ない。こいつが一番だ。チョーサイコー。

 エレストが腰を落とし、居合のような体勢を取った。
 コストイラはゆらりと立ち上がり、ゆっくりと刀を構えた。

 地が爆発した。アレンの眼にはもう映らない。レイドやアストロでも無理だ。エンドローゼでもギリギリ。アシドとシキしか目撃できない。

 コストイラとエレストの刃が交わる。火花が散る中、それ越しに二人の視線が絡まる。二人の睨みが交わる。
 コストイラが刀で剣を弾き、二人は距離を取った。

 今度はコストイラから動く。コストイラの瞳に宿っていた炎が体へと広がっていく。コストイラは疾駆し、エレストの周囲を、円を描いた。
 どうせ炎など、速度でもって突っ切ればいいわけだが、意中の相手の策に嵌まってやろう。

 炎の尾を引きながら、コストイラが刀を振るう。
 エレストは細剣を合わせる。エレストのパワーが上がっているように感じる。
 それは速度が原因だ。速さがあるからこそ、それが遠心力やら重さやらに加わってくるのだ。
 だからこそ、力も増していくのだ。

 コストイラもエレストも、刃に気持ちを乗せ、切り結んでいく。

 雨も空気も時間も、二人には切れない。そんな未熟な果実二人は次々と切り結んでいく。
 その未熟さを捨ててしまいたいと、両者が思った。その気持ちが重なった時、両者が同時に刃を振り抜いた。

 伸びていた時間が急速に収束していく。
 舞っていた桜の花弁がひらひらと落ちていく。

 エレストがゆっくりと細剣を収めた。

『フゥ』

 短く息を吐き、エレストは倒れた。最初俯せとなり、すぐに仰向けになった。

 コストイラが刀を収めた。

『……私に情けをかけるつもりか?』
「は?」

 エンドローゼが慌てて近づこうとして転ぶのを目撃しながら考える。

「情け、か。つもり、殺せ、と?」
『……あぁ、そうだ』
「オレはもうボロボロだ。今のお前よりもえげつないぜ」
『それでも、勝者はお前だ、コストイラ』

 エレストが倒れていながら、それでも力強くコストイラを睨みつける。

「というか、おかしいだろ、お前の理論」
『何がだ』

 エレストは少しだけ微笑んでいる。何かを期待しているようだ。何かは分からないが、自分の考え自体を話す。

「何で敗者が勝者に命令するんだよ」
『フフッ……』
「何笑っているんだよ」

 エレストは右腕で目元を隠した。

『あぁ、やはり、あの人に似ている』

 エレストは満足したように笑みを浮かべ、目を瞑った。
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