メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
638 / 684
33.魔大陸

9.竜鱗の刃

しおりを挟む
 天之五閃。

 それは約580年前に結成された五人組。その後、400年以上に渡って、メンバーの変更が行われていなかった。

 しかし、160年ほど前、メンバー変更があった。

 <灼熱の遊び人>を倒したことでメンバー入りし、その後も鍛え続けた馬鹿。
 それこそが今、コストイラ達の前で立ち塞がっている敵だった。

 <神速の刃>が速度スピードに特化しているとするならば、<竜鱗の刃>は筋力パワーに特化していると言っていいだろう。それが察せられるほどの威容威圧を放つ仁王立ちをした姿で、こちらを待っていた。

『エレストの奴を下したらしいじゃねぇか。やるな、ガッハッハ!』

 豪快に笑うそいつは、何かを期待するかのように見ている。

『やったのは誰だ? 一人か? 全員チームか?』
「オレ一人だ」
『ハッ! だろうな!』

 なぜ、この男が予想をつけられたのか分からないが、男のオーラが語っている。さぁ、戦うぞ、と。
 それに応えるようにコストイラは前に出る。

『いいな、お前! アイツとは一対一サシだったんだろ?』
「あぁ」
『あぁ、いいな、それ。ならオレとも一対一サシだぜ! 回復なりなんなり、準備を済ませな! オレは万全で戦うことを望むぜ!』

 なぜか楽しそうにしている男に疑問が出てくるが、準備をしろというのであれば、従っておこう。

『遠慮なんてすんじゃねぇぞ。オレを超えてみせろ。ま、簡単に超えさせる気はねぇがな』

 地面に垂直に刺さっている大剣を引き抜いた。
 しかし、想像を超える大きさだった。何か、3m以上もない?

 大剣を引き抜く際に、地面が割れた。

『さぁ、来い! オレは魔物だ! 殺す気で来い!』

 男が大剣を振り下ろし、剣先をコストイラに向ける。エレストもやっていたが、流行しているのだろうか。

『オレは第十代勇者! <竜鱗の刃>シムバ!』
「オレは勇者の右腕、<駿足長阪>コストイラ!」

 シムバは岩石を砕き、その生じた小石群を野球のシートノックのように打った。石の礫が高密度でコストイラを襲う。
 高速で飛来する礫は、しかし、エレストの神速よりも遅かった。あれについていけていたコストイラなら対処など容易い。コストイラは刀を振り、一つ一つを潰していく。

『愚策! そして悪手!』

 いつの間にかシムバは目の前にいた。エレストに比べると、シムバの剣は遅い。遅すぎると言ってもいい。
 しかし、コストイラの意識のいくらかが礫に向かっている。振るわれる鉄塊に刀を挟むことで防ごうとする。

 エレストの時はこれで防ぎきれた。だが、シムバは違う。力の強さが違う。コストイラの体が軽すぎて飛ばされてしまった。

『ハッハッ! 軽い軽い!』
「オレ、これでも100㎏超えてんぞ!」
『ハハハ! 軽い軽い!』

 コストイラはゴロゴロと転がり、シームレスに立ち上がり、唾を吐いた。

「お前はいくつ何だよ!」
『800!』
「嘘だろっ!?」

 800㎏を超えるなど、体格から見ても無理がある。有り得ないわけではないが、そう見えないのだ。肩幅はあるが、身長は203㎝、800㎏もあるように見えない。
 しかし、800㎏に納得してしまう原因があった。

 シムバの所持している武器だ。250㎝はあろう鉄塊。大剣などと称していたが、どう頑張っても鉄塊にしか見えない。低く見積もっても、2,300㎏はありそうな鉄塊を軽々と振り回すのだ。
 相応の魔力や筋力があったとしても、それなりの体重がなければ、重心が武器の方に移ってしまい、振り回されてしまう。
 800㎏出ないにしても、それに近しい体重をしていることだろう。

 シムバの射程範囲に入った瞬間、コストイラ目掛けて斜めに振る。
 コストイラはそれを屈んで避けた。膝を伸ばしながら、刺突するように疾駆する。

 シムバの右腕はすでに振り切られている。まだ戻ってこれない。しかし、左の拳はすでに硬く固められてる。拳骨がコストイラを襲う。
 殴る空間スペース速度スピードも足りていなかった。だからこそ、ワンバウンドでコストイラは立ち上がることができたのだ。
 もしすべての条件が満ちていたならば、きっと肉を弾けさスプラッシュしていただろう。

 冷や汗が背筋を凍らせてくる。
 もしも当たっていたならば、一撃死ワンパン。それを意識せざるを得ない。

 それほどの強敵。そんなの、ワクワクするしかないじゃねぇか。
 コストイラがサメのような笑みを浮かべた。

『ハッ! あの女が負けるわけだ』
「は?」
『楽しそうにしやがってってことだよ』

 シムバも自然と笑っていた。コストイラに嫉妬してしまう。

 シムバは左手一本で服を破り、上半身を晒した。鍛え抜かれ、イジメ抜かれた肉体美に、感嘆の息が漏れる。

『あのクソババァカーミラの言う事なんか知らねェ! 恋しやすい乙女エレストの事もどうだっていい! 待ち惚けの姫君アイケルスも構ったりしねェ!』

 メキメキと上半身が盛り上がり始める。ただ筋力増強パンプアップではなく、皮膚の内側から竜の鱗が出現してきた。

『さぁ、オレを見ろ! オレとの戦いだけに集中しろ! オレとの闘争にだけ注目しろ!』

 シムバが吠える。

 その告白に対し、コストイラは炎を纏うことで対応した。
 シムバは凶獣のような笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...