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33.魔大陸
11.最優の騎士王
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天之五閃。
その団体の選出基準は剣術が強いこと。その一点。ただそれのみである。そこに貴賤などなく、種族の差もない。
ゆえに、元貴族の令嬢でも。
夷狄の勇者でも。
泣斬馬謖の騎士でも。
世界を壊す精霊でも。
世界から隔離された超生命体でも。
誰でも成れるのだ。
その中でも異質なのが騎士だ。他四人は強さを目的としていた。何かしらの目的があったというより、最終的に強さそのものが目的となっていた。
元貴族令嬢の強さを求めていた理由は恋愛だった。そのはずだったのだが、強さを求めえるうちに当初の理由を置いてけぼりにして、強さを求めるようになった。
他三人も似たようなものだ。
しかし、その中でも首尾一貫して目的に向かい、目標として強さを追い求めた者がいた。
それこそが<最優の騎士>アスタットだ。
『見ればわかるその闘気。君が神速の淑女や豪快な紳士を下した若人だね』
無駄にキラキラとした王子様的オーラを放つ男に、コストイラは唖然とした。
爽やか。それが第一印象。
相手は騎士だ。ある程度の剣の腕はあるだろう。しかし、それが天剣へと至るに足るものなのか、疑問を持ってしまう。
『フム。荒い。エレストが教え下手なのは知っていたが、シムバは繊細さが足りないのだ』
「何言っているんだ?」
『おっと済まない。こちらの話だ』
自身の顎に触れながら熟考する様にツッコミを入れると、数々の淑女を落としてきた笑みを返してきた。
『成る程ね。君は言葉であれこれ言うよりも、戦いによって対話をするタイプと見た。よろしい。ならば、仕合おうではないか』
「ッ!?」
アスタットが剣を抜く仕草に比例してオーラが立ち上る。先程までの生温いオーラでは決してない。相手を確実に殺す、絶殺のオーラ。
濃密な死を感じ取り、コストイラは刀を構えた。否、構えさせられたというのが正しいだろう。
全力で訂正しよう。相手は先の二人より天之五閃といえる。その力がビンビンに感じ取れてしまう。
『私の名はアスタット。トレイニー帝国に仕える第十四代騎士団長。上から言われるのはあまり好ましく思っていないだろうが、あえて言わせてもらおう。死ぬ気で来い』
コストイラには分かる。この言葉は誇張でも冗句でもない。こちらが本気の死ぬ気で行かなければ、ただ無惨に殺される。そんな簡単な話だ。
『フム。そちらから来ないというのなら、こちらから行こう』
絶殺のオーラを纏ったまま、アスタットは肉薄した。振られる剣に刀を合わせてガードする。
力、速度、技術、全てが一級品。今の一撃でそれが分かってしまう。五段階評定でいえばオール5。レーダーチャートにすれば綺麗な五角形が描けるだろう。
しかし、そこでアスタットは止まらなかった。剣の向きを絶妙に変え、刀を弾くと、開いた顔面に拳を叩き込んだ。
コストイラは何とか地面に片手を着くと、そのまま弾いて立ち上がる。コストイラは驚いた顔をしている。まさか騎士がこのような戦い方をするとは。
騎士道とは、騎士が護るべきとされる精神のことだ。勇気や名誉を重んじ、弱者を大切に扱う。
いかなる時も正々堂々で、勇敢に立ち向かい、弱者を護る。
さて、ここで登場する正々堂々とは何か。
アスタットの答えは、同じ土俵で戦うこと、だ。
相手が剣で戦うというのなら剣で戦い、相手が卑劣な手を使うというのなら卑劣な手を使う。
それがアスタットの騎士道だ。
そして、ここで、騎士、剣士、冒険者の違いについても考えておこう。
騎士とは護る者だ。正々堂々と戦い、自らが護ると決めたものを護り通す。それが騎士だ。
剣士とは剣を扱う者だ。剣を道具としてではなく、己としてみない。
己が一部とする者だ。
強く、鋭く、研ぎ澄まされたものであり、曲がらない信念と重ねる者がいる。アスタットはそう思わない。
それは剣の特性であるため、剣士の特徴ではない。剣士であれば、それらを内包するべきだ。
剣士は剣に振り回されてはいけない。剣のみに固執してはならない。
冒険者とは何でも成れる者だ。
剣でも魔術でも、王子でも乞食でも、守護のためでも日銭を稼ぐためでも、何でもいい。とにかく、誰でも成れる。
勇者はこの三つの中でいえば冒険者だ。
つまり、目の前の侍は冒険者だ。
しかし、目の前の侍はアイケルスを護り、救うという役目を担っている。侍は騎士に成らなければならないのだ。
人は役割を持っている。アスタットだってそうだ。
同時多発的に侵略が行われた時も、おおよそ個の力のみで守り切ってみせた。護るべき人を死なせないために強くなった。
しかし、アスタットの考える自身の役目は、後続の育成だった。アスタットの種族であれば、いつまでもこの国を守り続けることもできただろう。それは国のためにならない。
そう考えたアスタットは後続の育成に力を入れることにした。
だが、いつまで経っても後続は育たない。アスタットという強力すぎる後ろ盾が存在してしまうため、何かあっても彼が何とかすると思われてしまったのだ。
誰も後ろを追ってきてくれない。追おうとしてきた者も、アスタットの強大すぎる力を前に心を折った。
侍は追うどころか超えようとしてくれている。それだけで好感が持てる。最初に一度は驚いたものの、その後は対応してきた。
良い。かなり良い。遥かに良い。凄く良い。強くなりたいという思いがある。伸びようとする気持ちがある。
エレストやシムバが興奮するわけだ。戦闘音や熱波がここまで伝わってきた。
この若人に後足りないものは相対する心構えだ。
鍛えてやろう。伸ばしてやろう。
我は導き手。その精神性、心構えを調教してやろう。
その団体の選出基準は剣術が強いこと。その一点。ただそれのみである。そこに貴賤などなく、種族の差もない。
ゆえに、元貴族の令嬢でも。
夷狄の勇者でも。
泣斬馬謖の騎士でも。
世界を壊す精霊でも。
世界から隔離された超生命体でも。
誰でも成れるのだ。
その中でも異質なのが騎士だ。他四人は強さを目的としていた。何かしらの目的があったというより、最終的に強さそのものが目的となっていた。
元貴族令嬢の強さを求めていた理由は恋愛だった。そのはずだったのだが、強さを求めえるうちに当初の理由を置いてけぼりにして、強さを求めるようになった。
他三人も似たようなものだ。
しかし、その中でも首尾一貫して目的に向かい、目標として強さを追い求めた者がいた。
それこそが<最優の騎士>アスタットだ。
『見ればわかるその闘気。君が神速の淑女や豪快な紳士を下した若人だね』
無駄にキラキラとした王子様的オーラを放つ男に、コストイラは唖然とした。
爽やか。それが第一印象。
相手は騎士だ。ある程度の剣の腕はあるだろう。しかし、それが天剣へと至るに足るものなのか、疑問を持ってしまう。
『フム。荒い。エレストが教え下手なのは知っていたが、シムバは繊細さが足りないのだ』
「何言っているんだ?」
『おっと済まない。こちらの話だ』
自身の顎に触れながら熟考する様にツッコミを入れると、数々の淑女を落としてきた笑みを返してきた。
『成る程ね。君は言葉であれこれ言うよりも、戦いによって対話をするタイプと見た。よろしい。ならば、仕合おうではないか』
「ッ!?」
アスタットが剣を抜く仕草に比例してオーラが立ち上る。先程までの生温いオーラでは決してない。相手を確実に殺す、絶殺のオーラ。
濃密な死を感じ取り、コストイラは刀を構えた。否、構えさせられたというのが正しいだろう。
全力で訂正しよう。相手は先の二人より天之五閃といえる。その力がビンビンに感じ取れてしまう。
『私の名はアスタット。トレイニー帝国に仕える第十四代騎士団長。上から言われるのはあまり好ましく思っていないだろうが、あえて言わせてもらおう。死ぬ気で来い』
コストイラには分かる。この言葉は誇張でも冗句でもない。こちらが本気の死ぬ気で行かなければ、ただ無惨に殺される。そんな簡単な話だ。
『フム。そちらから来ないというのなら、こちらから行こう』
絶殺のオーラを纏ったまま、アスタットは肉薄した。振られる剣に刀を合わせてガードする。
力、速度、技術、全てが一級品。今の一撃でそれが分かってしまう。五段階評定でいえばオール5。レーダーチャートにすれば綺麗な五角形が描けるだろう。
しかし、そこでアスタットは止まらなかった。剣の向きを絶妙に変え、刀を弾くと、開いた顔面に拳を叩き込んだ。
コストイラは何とか地面に片手を着くと、そのまま弾いて立ち上がる。コストイラは驚いた顔をしている。まさか騎士がこのような戦い方をするとは。
騎士道とは、騎士が護るべきとされる精神のことだ。勇気や名誉を重んじ、弱者を大切に扱う。
いかなる時も正々堂々で、勇敢に立ち向かい、弱者を護る。
さて、ここで登場する正々堂々とは何か。
アスタットの答えは、同じ土俵で戦うこと、だ。
相手が剣で戦うというのなら剣で戦い、相手が卑劣な手を使うというのなら卑劣な手を使う。
それがアスタットの騎士道だ。
そして、ここで、騎士、剣士、冒険者の違いについても考えておこう。
騎士とは護る者だ。正々堂々と戦い、自らが護ると決めたものを護り通す。それが騎士だ。
剣士とは剣を扱う者だ。剣を道具としてではなく、己としてみない。
己が一部とする者だ。
強く、鋭く、研ぎ澄まされたものであり、曲がらない信念と重ねる者がいる。アスタットはそう思わない。
それは剣の特性であるため、剣士の特徴ではない。剣士であれば、それらを内包するべきだ。
剣士は剣に振り回されてはいけない。剣のみに固執してはならない。
冒険者とは何でも成れる者だ。
剣でも魔術でも、王子でも乞食でも、守護のためでも日銭を稼ぐためでも、何でもいい。とにかく、誰でも成れる。
勇者はこの三つの中でいえば冒険者だ。
つまり、目の前の侍は冒険者だ。
しかし、目の前の侍はアイケルスを護り、救うという役目を担っている。侍は騎士に成らなければならないのだ。
人は役割を持っている。アスタットだってそうだ。
同時多発的に侵略が行われた時も、おおよそ個の力のみで守り切ってみせた。護るべき人を死なせないために強くなった。
しかし、アスタットの考える自身の役目は、後続の育成だった。アスタットの種族であれば、いつまでもこの国を守り続けることもできただろう。それは国のためにならない。
そう考えたアスタットは後続の育成に力を入れることにした。
だが、いつまで経っても後続は育たない。アスタットという強力すぎる後ろ盾が存在してしまうため、何かあっても彼が何とかすると思われてしまったのだ。
誰も後ろを追ってきてくれない。追おうとしてきた者も、アスタットの強大すぎる力を前に心を折った。
侍は追うどころか超えようとしてくれている。それだけで好感が持てる。最初に一度は驚いたものの、その後は対応してきた。
良い。かなり良い。遥かに良い。凄く良い。強くなりたいという思いがある。伸びようとする気持ちがある。
エレストやシムバが興奮するわけだ。戦闘音や熱波がここまで伝わってきた。
この若人に後足りないものは相対する心構えだ。
鍛えてやろう。伸ばしてやろう。
我は導き手。その精神性、心構えを調教してやろう。
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