メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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33.魔大陸

12.より弱く・より脆く・より孱く

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 エレストのような超速度スピード戦闘バトルとは違い、とても速いというわけではない。しかし、止まることがなく動き続けている。
 剣を振るい、刀で防御し、それを弾き、拳を握る。射線上に腕を挟み、防御の態勢、アスタットはわざとその腕を殴り、意識を向けさせると、コストイラの腹を蹴る。
 コストイラはゴロゴロと転がり、仲間の足元へと辿り着いた。
 すっくと立ちあがり、コストイラは鼻が触れそうなほどの近距離でアレンと相対する。

「アレン、解体用のナイフを貸してくれ」

「え?」

 唐突の提案に、アレンが目を丸くする。

「投擲用ナイフ」
「おっけ、サンキュ」

 シキから受け取ったナイフを数本懐にしまう。

「待ってくれてありがとうな」

 コストイラがお礼を言いながら、振り返る。そこにはアスタットがニコニコと待ってくれていた。

『モノの貸し借り程度ならば、私は何も言わない。参加するというのであれば、遠慮なしに潰すけどね』
「安心しろ、一対一サシだ」
『信用しよう。闘争において、君はとても真摯だ。嘘を混ぜることはあれど、息をするように吐くタイプではない』

 コストイラは仲間から離れるように歩き、刀を構える。アスタットも悠々と構えた。

 何か合図があったわけではない。ただ、同時に地が爆ぜた。

 シムバ以上エレスト以下の速度スピード、エレスト以上シムバ以下のパワーで刃を交えていく。

 コストイラは炎を纏い、全力を出しているが、アスタットはどこか余裕があるようだった。

 しかし、刃を交えるコストイラには分かる。アスタットは余裕の顔をしているだけでその内実に余裕はない。
 押せばいけるということではない。

 技と駆け引きをフル稼働して、相手に隙を作らせる。その能力が上回った方が勝つ。
 そう考えれば、劣勢なのはコストイラの方だろう。

 それでもまだ負けていないのは、それまでのコストイラの積み重ねがあったからだろう。
 逆にアスタットの方が焦り始めた。あの淑女ヒト達の子の才能が怖い。

 天才、などという言葉は使いたくいない。天賦の才自体はあるのだろうが、それを世界へ発露させるための努力を怠らなかったという結果によるものだ。まだまだ若いというのに、相当な苦労をしてきたのだろう。

『ム?』

 打ち合いの最中、ガクリとアスタットの膝が崩れた。
 それ幸い、今が好機チャンスと、コストイラは一気に攻めに転じた。

『食いつくなよ、童』
「な!?」

 アスタットは崩れた体勢を無理矢理コストイラの懐に捻じ込んだ。

 ここで、タックル!?

 社会的騎士道を持ち合わせているレイドは目を見開いた。
 相変わらず、社会的騎士道の欠片を集めたような攻撃だ。しかし、同時に素晴らしい攻撃である。

 サクリと肩に衝撃が走った。

 弾かれていくコストイラにはサメのような笑みが張り付けられている。
 距離的に確認できるところまでコストイラが飛ばされた時に、自身の肩を視認した。

 ナイフが刺さっている。タックルかどうか置いておいて、攻撃が来ると思っていたのだろう。だからこそ準備ができていた。

 嗚呼、素晴らしい。私は駄目だというのに、奪いたくなってしまうではないか。

『嗚呼、最高だね、君』

 アスタットは思わず笑みを溢した。
 この時間が永遠に続けばいいのに。

 そんなことを思いながらも、アスタットは決着のために駆けだした。アスタットは肩に刺さっていたナイフを投げつける。
 コストイラは弾きも回避もせずに、右肩で受け止めた。

『あぁ、きちんと学習しているな』

 愛弟子を見るかのように目を細め、笑みを深めた。

 アスタットが剣を振った。コストイラが刀を合わせる。この時、技術はアスタットの方が上だっただろう。しかし、策はコストイラの方が上だった。

 コストイラが円を描いたが、それ以上にアスタットの円の方が、錬度が高かった。

 刀が完全に手から離れる。
 コストイラの袖からナイフが飛び出してくる。

 二刀流。

 嗚呼、そこまで出来るのか。もう立派な騎士ではないか。
 胸にクロス状の傷を負いながら、アスタットは最高の笑顔を浮かべた。





「こ、これが、全ての騎士が崇拝する<最優の騎士王>の姿だというのか」

 レイドが衝撃を受けている。周りのアストロやアレンも少なからずショックがある。

 アスタットといえば、数々の名言や伝承伝説、書籍が存在している。普段の生活の中にすら溶け込んでいる。小さな子ですら知っている。

 その超有名人アスタットが、今エンドローゼに土下座している。ついでにコストイラも。

 怪我人である二人の傷が開いてしまう危険があるため、エンドローゼは背を戻すように言いながら、叱りつけている。

『ハッハッ。女性に叱られている時はまず謝り、話を聞くに限る。私は知らないことが多いからな』

 アスタットは遠い目をして、エンドローゼの声に耳を傾けた。
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