メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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33.魔大陸

17.アタシが来た!

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「橋じゃねぇじゃねぇか」

 コストイラが恨めしそうに呟いた。

 別にそれは誰かに向いているということはない。しかし、最初に橋を見つけたアストロは、何とも申し訳ない気持ちになった。
 現在、勇者一行は湖の三分の二まで踏破していた。橋、ではなく手漕ぎボートで。

 まず、コストイラ達は少し古びていて、足元を貫いてしまいそうな橋を渡っていた。約50歩ほど歩いたところで、先頭を歩いていたコストイラは気付く。あれ? ここってもしかして、橋じゃなくて船着き場じゃね?
 古びた板橋の先端付近では、錆びてしまい、もう動かない舟達が置かれていた。

「どれもこれも、使えそうにないな」
「お、使えそうなものあんじゃん」
「……手漕ぎボートじゃん。腕死にそうじゃん。私、片腕しかないけど」

 コストイラが壊れている舟に触れると、そのままゴボゴボと沈んでいった。アシドは木製の手漕ぎボードを見つけ、ユラユラ揺らしている。まさかここでアストロが自虐ネタを入れてくるとは思わなかった。
 一隻目にコストイラとアシド、アストロが乗り込み、二隻目にアレン、エンドローゼ、シキ、レイドが乗る。

「さて、出発するか」
「いや、ちょっと待て」

 レイドがオールを手に力を入れようとした時、その前にいるコストイラが止めた。

「どうした」
「何か来るぞ」
「何? では、逃げた方がよいか?」
「いや、そんなんじゃない。というか、あいつ、知っている奴だな」

 レイドが目を細めると、こちらに走ってくる何者かが見えた。跳ね踊る白髪にピタッとしたシャツ、膝丸出しにしている短パン。

「シーキー!!」

 地下闘技場然のチャンピオンのフウが、全速力でこちらに走ってきていた。

「あれは」
「フウだな」

 アレンは若干名前を忘れていたが、コストイラが名前を出してくれたので助かった。

 フウは船着き場の古びた板橋に足を乗せる前に踏み切った。フウは両腕を広げ、シキに向かっていく。完全に抱き着く流れだ。
 シキは舟の上で、揺れないように飛んで、フウに回転蹴りを繰り出した。

「ポゥ!?」

 蹴られたフウが風の矢と化し、船着き場の板を突き破った。水柱を立てて沈んだフウに、アレンは飛び出さんばかりに目を見開いた。水の中には魔物がいると思うのだが、大丈夫なのだろうか。

「プハァ」

 フウはすぐに湖から戻ってきて、橋に上がった。水に入ったからなのか、痛かったからなのか分からないが、目の周りが特に濡れている。

「シキ、痛いぞ」
「……急に来るから」

 フウは頬に手を添えながら、子供のように頬を膨らませた。シキはどうすればいいのか分からず、目が泳いでいる。

「でも、アタシ強い。ハグで許す! てやろう」

 シキがどうすればいいのか、とアストロとアレンを見た。アレンもどうすればいいのか分かっていない。アストロはしてあげれば、と返した。

「ん」

 シキが両腕を広げると、フウは顔を明るくした。

「やったぜ」

 フウはガッツポーズをして、シキの胸にすっぽりと飛び込んでいった。
 コストイラは半眼を送りつつ、もう大丈夫だろう判断し、出発することにした。

「……じゃあ、行くかぁ」

 コストイラは間延びした声を出しながら、オールを漕ぎ始めた。
 フウに抱き着かれながら、シキは気付いた。この勢いを理由すれば、アレンと密着できるのではないだろうか!?

 ありがとう、フウ。

 シキは感謝を示すようにフウの頭を撫でた。フウは頭を撫でられた嬉しさに舞い上がり、抱き着く力を強め、さらに体を押し付けた。
 シキは抵抗することなく、そのまま体を後ろに倒した。

 ポスン。

「えっと、大丈夫ですか?」
「ん」
「ん? 匂い、甘い?」

 心配するアレンに対し、シキは無表情で答えた。そのちょっと甘い雰囲気にフウが反応し、シキのあるのかないのか分からない胸の谷間の匂いを嗅ぎ始めた。シキに羞恥がないのか、それとも余裕がないのか、これにも無抵抗だ。

 そんなわちゃわちゃをしている間に、湖の三分の二の位置まで進めていた。

 不意にレイドが口を開いた。

「何か、おかしくないか?」
「何がだ?」
「静かすぎる。というか、平和だ」

 アレンが耳を集中させる。波の音や風の音が聞こえる。しかし、異様な音は聞こえてこない。

「いつもだったなら、魔物が襲い掛かってくるはずだろう?」
「その感覚は、世間一般では異常側だと思いますが、確かにそうですね」
「なぜこちらを襲ってこないのだ」
「視てきているし、様子でも窺ってんじゃねぇの?」

 レイドの重い調子の質問に対して、コストイラは軽い調子で答えた。レイドが目を丸くする。

「それ、本当か?」
「本当、あそこで見ている」

 シキが見つめると、水面から目だけを出していた何かは、すぐに水に潜っていった。

「なぜ教えてくれなかった」
「いや、済まん。気付いているとばかり」

 コストイラが冷や汗を掻きながら、目を逸らした。
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