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33.魔大陸
28.孤児院の役割
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「ご、ご、ごめんなさい、み、皆さん。あーと、で、い、い、いっぱい怒られ、まーすか、ら」
エンドローゼは別の部屋から、隠し通路を通って隠し部屋に向かっていた。
過去に一度だけ入ったことがある部屋だ。覚えているのは、かか様が孤児院の子の胸にナイフを刺している場面。その後の直接対決、そしてゴール家との出会い。
あの日は特別な一日だった。濃すぎる一日。衝撃的すぎる事実。
私はその真実に目を向けることなく、逃げてしまった。
だから、私はこの孤児院を知らない。
だから、私は本当の姿が分からない。
だから、私は真実を知らない。
だから、私は弱虫なのだ。
だからこそ、
「お、お、おしえて、かか様」
「おや、エンドローゼじゃないかい。帰ってきていたのかね?」
3m近い背を無理矢理折り曲げた怪老がそこにいた。本人的には優しい笑顔のつもりなのだろうが、どこか裏があるような気がしてならない。
「おやおや、そんなに私を睨みつけて。もっと愛らしい目を向けてくれないかい? 私ぁ恐いよ」
かか様は体を揺すって笑っている。
「エンドローゼ。貴女は綺麗を目をしているんだ。もっと大事にしなくちゃいけないよ。あぁ、貴女のような目が私のだったら、それはそれは素敵なんだろうね」
慈しむように、憐れむような声をしている。
「な、なに、な、何を言ってーいるの?」
「いらっしゃい。貴女には、ここまで辿り着いた貴女には、あの日の真実を、この施設のことを教えてあげようじゃないかね」
かか様が狭い通路の奥に設置された扉を開けた。
その中は、かつて見た、孤児がナイフを刺された場所。手術台のような人を横たわらせる小さなベッド、固定するための革ベルト。何かを切る用のナイフや刳り貫く用のスプーン。その他凶悪な道具達。どこを切っても手術室ではない。
「ほら、おいで。この奥までおいで。この先が真実の一つだよ」
エンドローゼはゆっくりとしていて、それでいて確実に後ろをついて行った。
奥の部屋には人形が置かれていた。15㎝~50㎝程のぬいぐるみや人形が所狭しと鎮座している。
しかし、そのぬいぐるみや人形達はすべて目玉がなかった。
「目ー玉が、な、ない」
「えぇ、えぇ、そうよ、エンドローゼ。これを見ておくれ」
腰を90度並みに折り曲げた怪老が、一つの瓶を持ってエンドローゼに見せつけてきた。瓶の中身は培養液のようなもので満たされており、青い目が五個、六個入っていた。
「え?」
「綺麗な目ん玉だろ?」
「あ、あの日の?」
「ん? あぁ、そうさね、あの日、エンドローゼが見た孤児の眼だ。名前はチャーリー、夢はお父様と同じお医者さんだ。あとは冒険者に成りたかったホッブズに、お姫様に憧れていたチェルシーだ」
「な、なんで」
「うん?」
うっとりとした顔で、培養液の入った容器に頬擦りしている。エンドローゼは唇を震わせ、何とか意味のある音を出すと、かか様はその音に首を傾げた。
「な、な、何で、そーんなに、へーいぜんと、は、は、話せるのーです、か?」
「そりゃあ、私ぁ目ん玉が好きだからさ。私ぁ子供も好きだよ? でも、目ん玉の方が好き。貴女だって、好きと好きが重なったら、より好きな方を優先させっだろ?」
ごく普通、ごく自然、ごく当然のことのようにかか様が答える。
やはり駄目だ。話が通じない。価値観がまるで違う。
「あぁ、貴女の眼も素敵だ、エンドローゼ。そのお目眼を、私にもっと、魅せておくれ」
「くそ! エンドローゼの奴、どこ行った!?」
「あの娘、一体何を」
コストイラ達は大きな部屋を隅々まで探したが、エンドローゼの痕跡は一つも残っていなかった。まさか、部屋にすら入っていなかったのかと考え、その前までの廊下も調べることにした。
しかし、何もない。
タイムリミットの分からぬ状況に、勇者一行は焦ってしまう。そんな中、ドン、と微小な音と微細な震動がやってきた。エンドローゼが戦っているということか。
「くそっ! アイツ一人で戦っているってことか?」
気遣われたのだと感じ、コストイラは壁を殴った。拳一つ分凹んだ。それなりの威力だということが分かる。
「え、エンドローゼさんって戦えるんですか?」
「知るか!? アイツは今まで、前線で、本気で戦ってきたが、前線で、本気で攻撃しようとしたことがねぇ! オレだって、アイツがどれくらい戦えるかなんて、知らねぇ! だからこそ焦ってるんだろうが!」
「くそ! 私は何て無力なんだ!」
必死になって壁を触りながら、コストイラが叫ぶ。レイドも壊してしまうのではないかという勢いで壁や柱を触れていた。
脂汗を大量に滲ませながら、アストロは必死の形相で頭を巡らせる。そして、アストロは爪を噛み砕いた。
「シキ、貴女の空間把握能力で仕掛け、分からないの?」
「分からない」
「隠し通路の位置なら?」
「分かる」
「なら仕方ないわね」
アストロがシキに確認を取ると、道なら分かると返された。もう仕方ない。ある程度の倫理観は捨てることにした。
「シキ、壁を壊しなさい」
「いいの?」
「もうそんなこと構っていられる時間は過ぎたわ」
「承知」
シキはコストイラが殴った方と反対側の壁を蹴った。
中に入ったシキはキョロキョロと見渡すと、左側の通路を指差した。
「あっち」
「よし、行くわよ」
エンドローゼは別の部屋から、隠し通路を通って隠し部屋に向かっていた。
過去に一度だけ入ったことがある部屋だ。覚えているのは、かか様が孤児院の子の胸にナイフを刺している場面。その後の直接対決、そしてゴール家との出会い。
あの日は特別な一日だった。濃すぎる一日。衝撃的すぎる事実。
私はその真実に目を向けることなく、逃げてしまった。
だから、私はこの孤児院を知らない。
だから、私は本当の姿が分からない。
だから、私は真実を知らない。
だから、私は弱虫なのだ。
だからこそ、
「お、お、おしえて、かか様」
「おや、エンドローゼじゃないかい。帰ってきていたのかね?」
3m近い背を無理矢理折り曲げた怪老がそこにいた。本人的には優しい笑顔のつもりなのだろうが、どこか裏があるような気がしてならない。
「おやおや、そんなに私を睨みつけて。もっと愛らしい目を向けてくれないかい? 私ぁ恐いよ」
かか様は体を揺すって笑っている。
「エンドローゼ。貴女は綺麗を目をしているんだ。もっと大事にしなくちゃいけないよ。あぁ、貴女のような目が私のだったら、それはそれは素敵なんだろうね」
慈しむように、憐れむような声をしている。
「な、なに、な、何を言ってーいるの?」
「いらっしゃい。貴女には、ここまで辿り着いた貴女には、あの日の真実を、この施設のことを教えてあげようじゃないかね」
かか様が狭い通路の奥に設置された扉を開けた。
その中は、かつて見た、孤児がナイフを刺された場所。手術台のような人を横たわらせる小さなベッド、固定するための革ベルト。何かを切る用のナイフや刳り貫く用のスプーン。その他凶悪な道具達。どこを切っても手術室ではない。
「ほら、おいで。この奥までおいで。この先が真実の一つだよ」
エンドローゼはゆっくりとしていて、それでいて確実に後ろをついて行った。
奥の部屋には人形が置かれていた。15㎝~50㎝程のぬいぐるみや人形が所狭しと鎮座している。
しかし、そのぬいぐるみや人形達はすべて目玉がなかった。
「目ー玉が、な、ない」
「えぇ、えぇ、そうよ、エンドローゼ。これを見ておくれ」
腰を90度並みに折り曲げた怪老が、一つの瓶を持ってエンドローゼに見せつけてきた。瓶の中身は培養液のようなもので満たされており、青い目が五個、六個入っていた。
「え?」
「綺麗な目ん玉だろ?」
「あ、あの日の?」
「ん? あぁ、そうさね、あの日、エンドローゼが見た孤児の眼だ。名前はチャーリー、夢はお父様と同じお医者さんだ。あとは冒険者に成りたかったホッブズに、お姫様に憧れていたチェルシーだ」
「な、なんで」
「うん?」
うっとりとした顔で、培養液の入った容器に頬擦りしている。エンドローゼは唇を震わせ、何とか意味のある音を出すと、かか様はその音に首を傾げた。
「な、な、何で、そーんなに、へーいぜんと、は、は、話せるのーです、か?」
「そりゃあ、私ぁ目ん玉が好きだからさ。私ぁ子供も好きだよ? でも、目ん玉の方が好き。貴女だって、好きと好きが重なったら、より好きな方を優先させっだろ?」
ごく普通、ごく自然、ごく当然のことのようにかか様が答える。
やはり駄目だ。話が通じない。価値観がまるで違う。
「あぁ、貴女の眼も素敵だ、エンドローゼ。そのお目眼を、私にもっと、魅せておくれ」
「くそ! エンドローゼの奴、どこ行った!?」
「あの娘、一体何を」
コストイラ達は大きな部屋を隅々まで探したが、エンドローゼの痕跡は一つも残っていなかった。まさか、部屋にすら入っていなかったのかと考え、その前までの廊下も調べることにした。
しかし、何もない。
タイムリミットの分からぬ状況に、勇者一行は焦ってしまう。そんな中、ドン、と微小な音と微細な震動がやってきた。エンドローゼが戦っているということか。
「くそっ! アイツ一人で戦っているってことか?」
気遣われたのだと感じ、コストイラは壁を殴った。拳一つ分凹んだ。それなりの威力だということが分かる。
「え、エンドローゼさんって戦えるんですか?」
「知るか!? アイツは今まで、前線で、本気で戦ってきたが、前線で、本気で攻撃しようとしたことがねぇ! オレだって、アイツがどれくらい戦えるかなんて、知らねぇ! だからこそ焦ってるんだろうが!」
「くそ! 私は何て無力なんだ!」
必死になって壁を触りながら、コストイラが叫ぶ。レイドも壊してしまうのではないかという勢いで壁や柱を触れていた。
脂汗を大量に滲ませながら、アストロは必死の形相で頭を巡らせる。そして、アストロは爪を噛み砕いた。
「シキ、貴女の空間把握能力で仕掛け、分からないの?」
「分からない」
「隠し通路の位置なら?」
「分かる」
「なら仕方ないわね」
アストロがシキに確認を取ると、道なら分かると返された。もう仕方ない。ある程度の倫理観は捨てることにした。
「シキ、壁を壊しなさい」
「いいの?」
「もうそんなこと構っていられる時間は過ぎたわ」
「承知」
シキはコストイラが殴った方と反対側の壁を蹴った。
中に入ったシキはキョロキョロと見渡すと、左側の通路を指差した。
「あっち」
「よし、行くわよ」
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