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33.魔大陸
27.死の寵愛
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アストロの足取りが少し軽くなっている。憑き物が取れたかのような顔をしている。
父を送ることができた。全てのことを終わらせることができたわけではない。しかし、一番終わらせたかったことを終わらせることができた。
「よかったな、アストロ」
「えぇ、そうね」
アストロの笑顔を見れて、コストイラ達も嬉しそうに口角を上げた。
しかし、中でもエンドローゼだけが靉靆とした笑みをしている。
この場所やこの空気、この雰囲気。それらすべてが心理的な圧迫をしてくる。
整備されている石畳、暗闇を照らす白瓏石の街灯、技術を詰め込まれた石材の家壁。整理整頓された列をなす罍や水瓶が、この地の治安を示す。
人々の慶祝が聞こえる。人々の楽胥が届いてくる。対して恚怒は伝わってこないのに加え、哀慟も感じない。
平和そのもの。魔大陸にあるとは思えない程の平穏がここにある。
「さっきはオレ、シキ、アストロと続いていたが、今度はエンドローゼの狙い撃ちか?」
「え?」
突然、何かを言い出すコストイラに、エンドローゼが顔を向けた。
「いや、さっきから丘の上の方を見ているからよ。何を見ているんだ?」
コストイラに質問されて、改めてエンドローゼは丘の上の建物を見つめた。
あの部分の壁は破壊したはず。だというのに、壁が新品同様だ。高レベルだからこそ為せる視力で、建物の壁を観察する。
「あ、あ、あの建物は、孤児ー院、です」
「成る程」
コストイラはエンドローゼの一言で納得した。そうか、あれがエンドローゼの育った孤児院か。
しかし、アレンとシキはよく分からなかった。シキがアストロの袖を引く。
「どういうこと?」
「多分だけど、アレがエンドローゼの育った場所よ」
「……なんかちょっと前に、親、会わなかった?」
「え、えっと、あれは」
少し答えづらそうに目を逸らし、エンドローゼを見た。エンドローゼは気付いていないのか、こちらを見ずに丘の上の建物を見ている。余所見をしていたエンドローゼは、少し捲れていた石畳に足を躓かせて転んだ。
「ゴール家は孤児院からエンドローゼを買ったのよ。おそらくエンドローゼの性格は孤児院で形成されたのね」
「フゥン」
シキが周りに興味を持ち、自分から発言している。成長が嬉しくなる。アストロはシキの頭を撫でた。シキはキョトンとしている。
「寄るか?」
「は、はい」
「……そうか」
コストイラはエンドローゼの瞳に瞋恚を見た。
丘の上には二、三十軒の建物が建っていた。孤児院だけではないようだ。
「孤児院はこの先ねって、ん?」
アストロが道の先を指差すと、腕のない方の袖をエンドローゼがギュッと力強く掴んでいる。
エンドローゼの体表を大量の脂汗が流れている。目を見れば、眩暈をしていることも分かり、さらに激しい動機に襲われていることも分かった。
休憩した方がいいだろう。
しかし、エンドローゼは口を開く。
「行きましょう」
跳ねることのない力強い言葉。それを受けて、アストロは口を噤んだ。
一歩踏み出すごとに重圧がやってくる。胃に穴が空きそうだ。目尻に涙が浮かんでくる。動悸が激しい。眩暈もする。脂汗も止まらない。あれ? 呼吸ってどうするんだっけ?
パチンと叩くようにして頬を挟まれた。アストロが真っ直ぐにエンドローゼの目を見る。
「行くって、決めたんでしょ?」
「ふぁ、ふぁい」
そして、孤児院の前に来たエンドローゼは、ゆっくりと扉を開けた。大丈夫。今回仲間がいる。
二人すれ違う程の幅しかない廊下を歩く。
「この孤児院、妙に小さくねぇか?」
「そうか?」
コストイラが廊下の壁に触れる。アシドはコストイラの言っていることが分からず、眉を顰めてしまう。
「外観に比べてって話だよ」
「外観覚えてねぇや」
「……隠し扉とかありそう」
「あ、あ、ありますよ」
小さいと感じた理由を話すコストイラと後頭部を掻くアシドに、シキが確信して話す。エンドローゼも確信をもって断言した。かつて見た景色を思い出しながら、エンドローゼは目の前に部屋を睨んだ。
その部屋は大部屋だった。明らかに隠し通路のスイッチがありそうな部屋だ。
「どっかにありそうだな」
「あ、ありますよ。お、おお、覚えていませんが」
「過去にそんなことが?」
「あーり、ま、ますよ」
「面白そうだし、探すか」
コストイラは言うと、早速暖炉の中を調べ始めた。何か手慣れているが、過去にそんなことをしていたのだろうか。アシドは棚の上に置かれている調度品を触ってみた。アストロは壁にかけられているいる絵画の裏を見る。シキは床を這ってタイルを掻いている。アレンは棚や抽斗を調査している。レイドは机や椅子の下を探索している。
「何もねぇな」
「こっちもだ」
「絵画の裏にも何もないわ」
「机も、平板なものだ」
「ない」
「棚も抽斗も整理されています。何もなさそうですね」
「どうするんだ~、エンドロー……ゼ?」
互いが報告し合うが、何も成果がない。助けを求めるようにエンドローゼを呼ぶが、そこにエンドローゼはいなかった。
父を送ることができた。全てのことを終わらせることができたわけではない。しかし、一番終わらせたかったことを終わらせることができた。
「よかったな、アストロ」
「えぇ、そうね」
アストロの笑顔を見れて、コストイラ達も嬉しそうに口角を上げた。
しかし、中でもエンドローゼだけが靉靆とした笑みをしている。
この場所やこの空気、この雰囲気。それらすべてが心理的な圧迫をしてくる。
整備されている石畳、暗闇を照らす白瓏石の街灯、技術を詰め込まれた石材の家壁。整理整頓された列をなす罍や水瓶が、この地の治安を示す。
人々の慶祝が聞こえる。人々の楽胥が届いてくる。対して恚怒は伝わってこないのに加え、哀慟も感じない。
平和そのもの。魔大陸にあるとは思えない程の平穏がここにある。
「さっきはオレ、シキ、アストロと続いていたが、今度はエンドローゼの狙い撃ちか?」
「え?」
突然、何かを言い出すコストイラに、エンドローゼが顔を向けた。
「いや、さっきから丘の上の方を見ているからよ。何を見ているんだ?」
コストイラに質問されて、改めてエンドローゼは丘の上の建物を見つめた。
あの部分の壁は破壊したはず。だというのに、壁が新品同様だ。高レベルだからこそ為せる視力で、建物の壁を観察する。
「あ、あ、あの建物は、孤児ー院、です」
「成る程」
コストイラはエンドローゼの一言で納得した。そうか、あれがエンドローゼの育った孤児院か。
しかし、アレンとシキはよく分からなかった。シキがアストロの袖を引く。
「どういうこと?」
「多分だけど、アレがエンドローゼの育った場所よ」
「……なんかちょっと前に、親、会わなかった?」
「え、えっと、あれは」
少し答えづらそうに目を逸らし、エンドローゼを見た。エンドローゼは気付いていないのか、こちらを見ずに丘の上の建物を見ている。余所見をしていたエンドローゼは、少し捲れていた石畳に足を躓かせて転んだ。
「ゴール家は孤児院からエンドローゼを買ったのよ。おそらくエンドローゼの性格は孤児院で形成されたのね」
「フゥン」
シキが周りに興味を持ち、自分から発言している。成長が嬉しくなる。アストロはシキの頭を撫でた。シキはキョトンとしている。
「寄るか?」
「は、はい」
「……そうか」
コストイラはエンドローゼの瞳に瞋恚を見た。
丘の上には二、三十軒の建物が建っていた。孤児院だけではないようだ。
「孤児院はこの先ねって、ん?」
アストロが道の先を指差すと、腕のない方の袖をエンドローゼがギュッと力強く掴んでいる。
エンドローゼの体表を大量の脂汗が流れている。目を見れば、眩暈をしていることも分かり、さらに激しい動機に襲われていることも分かった。
休憩した方がいいだろう。
しかし、エンドローゼは口を開く。
「行きましょう」
跳ねることのない力強い言葉。それを受けて、アストロは口を噤んだ。
一歩踏み出すごとに重圧がやってくる。胃に穴が空きそうだ。目尻に涙が浮かんでくる。動悸が激しい。眩暈もする。脂汗も止まらない。あれ? 呼吸ってどうするんだっけ?
パチンと叩くようにして頬を挟まれた。アストロが真っ直ぐにエンドローゼの目を見る。
「行くって、決めたんでしょ?」
「ふぁ、ふぁい」
そして、孤児院の前に来たエンドローゼは、ゆっくりと扉を開けた。大丈夫。今回仲間がいる。
二人すれ違う程の幅しかない廊下を歩く。
「この孤児院、妙に小さくねぇか?」
「そうか?」
コストイラが廊下の壁に触れる。アシドはコストイラの言っていることが分からず、眉を顰めてしまう。
「外観に比べてって話だよ」
「外観覚えてねぇや」
「……隠し扉とかありそう」
「あ、あ、ありますよ」
小さいと感じた理由を話すコストイラと後頭部を掻くアシドに、シキが確信して話す。エンドローゼも確信をもって断言した。かつて見た景色を思い出しながら、エンドローゼは目の前に部屋を睨んだ。
その部屋は大部屋だった。明らかに隠し通路のスイッチがありそうな部屋だ。
「どっかにありそうだな」
「あ、ありますよ。お、おお、覚えていませんが」
「過去にそんなことが?」
「あーり、ま、ますよ」
「面白そうだし、探すか」
コストイラは言うと、早速暖炉の中を調べ始めた。何か手慣れているが、過去にそんなことをしていたのだろうか。アシドは棚の上に置かれている調度品を触ってみた。アストロは壁にかけられているいる絵画の裏を見る。シキは床を這ってタイルを掻いている。アレンは棚や抽斗を調査している。レイドは机や椅子の下を探索している。
「何もねぇな」
「こっちもだ」
「絵画の裏にも何もないわ」
「机も、平板なものだ」
「ない」
「棚も抽斗も整理されています。何もなさそうですね」
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