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33.魔大陸
42.老兵は死なず、ただ粛々と
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『お父さん、どこいくの?』
ブサウ、当時5歳の少女はいつものように出掛けようとする父を見送っていた。
父はブサウを心配させまいと、笑顔で頭を撫でた。乱雑だったせいで髪が乱れる。
『む~』
『ふふ』
膨れっ面になるブサウに、父は口角を上げた。
『父さんは名誉のある守り人に選ばれたんだ』
『もりびとってことは、お父さん、かえってこれないの?』
『ごめんよ。でも、御役目が終わったら、既に帰ってくる。だから、いい子でいるんだよ』
『……うん』
5歳とは子供だ。そこに間違はないだろう。しかし、皆が思っているほどの子供でないのだ。ある程度の話は理解できる。内容の完璧な理解は無理でも、ニュアンスの理解はできてしまう。
だからこそ分かってしまったのだ。父が帰ってくることがない、と
この世界はかなり昔から、エネルギーの枯渇が問題視されていた。物を作る動力にも、物を動かす燃料にも使われる。それどころか、子を産む体力や運動時に燃焼するたんぱく質にも使われているのだ。
それが枯渇するかもしれない。子供でも知っている環境問題の一つだ。
何か対策をしなければ、30年後には以降1000年は草木も生えぬ土地が拡大し、70年後には世界の全てが死の土地になると言われている。
そのエネルギーの名前こそが魔素。全ての元凶となる物質。
世界の頂点である評議会からは一つの結論を出した。他の世界からエネルギーを奪うことにしたのだ。
幸いにして、ブサウの世界は魔素増幅装置を応用研究した一つの結果として、異世界へ自由に行き来できるようになるワープゲートを造り出すことに成功した。別の世界へ行くことは可能だった。
他の世界から魔素を奪おう。意気揚々と足を踏み出した先遣隊は軽い絶望を味わった。その世界には魔素がなかったのだ。
一つ目の世界で先遣隊は、イノシシに直接、注射で魔素を打ち込むことにした。イノシシは突如として入ってきた異物で体が拒否反応を起こし、爆散四散してしまった。
その後、拉致した人間に、イノシシ同様に注射して爆散させたり、魔力変換装置を取り付け、異常な免疫反応により死亡させたりした。この実験は400年に渡り続けられた。
二つ目の世界は元から魔素があり、世界の魔素総量の4%を奪取して、自分達の世界で運用した。
三つ目、四つ目と新しい世界を開拓する中、一つ目の世界で魔素の増幅に成功した。
生物濃縮を使ったのだ。魔素を川へ流し、魚や植物に蓄えさせ、それを生物が食べる。そして、その生き物が死んだ時、僅かながら魔素が回収された。収集された魔素は想定されていた一体から採れる魔素量の1.12倍となっていた。これは大きな進歩であった。
以降、新しい世界では、この方法が採用されることとなった。
それと同時に新しい職業が誕生した。魔素増幅管理業。通称守り人。いわゆる御役目、というやつである。
これは生涯をかけてやることになる。
そもそも魔素は劇物なのだ。1000年かけて30%の確率で馴染む、と言われているものである。
魔素によって、人も獣も変わった。人には角や翼が生えたりし、人とは到底呼べないものとなった。獣は理性や知性を失い、野生ではなく本能で動くようになった。
少し世界のエネルギー総量が横這いになってきた時、ブサウの御役目が来た。
今から約500年前、帝国歴2500年ごろ、ブサウはシキ達のいる世界にやってきた。
この世界は不思議な世界だった。明らかに今までの世界とは違う。
神力と呼ばれる力があるのだ。魔素を必要としない奇跡のように映った。
ブサウからすれば、魔素を使い火を点け、魔素を使い魔術を繰り出し、魔素を使い子を産んでいた。
しかし、ここは違う。木を擦り火を点け、魔素もなしに子を産む。それはどこの大陸もだった。発展度合いによっては石で火を点けたり、謎の道具で母の腹を斬って子を産んでいたが、その程度は差異だった。300以上の世界を開拓したブサウ達の世界にとって、そのような技術は20、30の世界で見てきたのだ。
だが、神力は違う。初めてだった。大丈夫か? こんな変な力がある世界で魔素が浸透するのか?
しかも、魔素によって変質してしまった獣、いわゆる魔物よりも怖いものがいた。
神選民グレイソレア。見れば遠くのことが分かる遠視の神眼。神力や魔力、筋肉の流れを読むことができる神力の神眼。相手の状態を知ることができるステータスの神眼。最大五秒まで未来を視ることだできる未来視の神眼。相手の情報を知ることができる鑑定の神眼。相手を眠らせ、夢を見せることができる夢見視の神眼。相手のステータスを弱体化させる、三年後に確実に死に至らしめる、毒状態にする、麻痺状態にする、昏睡状態にする、のうち一つを相手に与える呪視の神眼。相手を石化させる石化の神眼。そんな8つの神眼を完全に使いこなす化け物。
月の姫フォン。グレイソレアと同様の遠視の神眼を持ち、破壊力抜群の聖剣を使いこなす存在。神力の扱いも上手く、距離や障壁障害など一切関係なく、神力を当ててくる化け物。私は結界に自信があったが、三重に張っても当ててきた。怖い。
異次元の鍛冶師レインレイン。私が来た時にはすでに故人であったが、彼の打った剣は有名であった。聖剣と呼ばれるその剣は十振り在り、全て魔素がなくても使えるなど、合理的にあり得ない。
獣の魔神イーラ。絶対的暴力の獣の魔神。龍神よりも強いと噂される暴竜バハムート。境界を使ってこちらの世界まで来たカーミラ。エネルギーの半分を担う精霊アイケルス。エネルギーなしに最強格に至ったヲルクィトゥ。その他大勢。化け物が多すぎる。
本当に、これ大丈夫か?
ブサウ、当時5歳の少女はいつものように出掛けようとする父を見送っていた。
父はブサウを心配させまいと、笑顔で頭を撫でた。乱雑だったせいで髪が乱れる。
『む~』
『ふふ』
膨れっ面になるブサウに、父は口角を上げた。
『父さんは名誉のある守り人に選ばれたんだ』
『もりびとってことは、お父さん、かえってこれないの?』
『ごめんよ。でも、御役目が終わったら、既に帰ってくる。だから、いい子でいるんだよ』
『……うん』
5歳とは子供だ。そこに間違はないだろう。しかし、皆が思っているほどの子供でないのだ。ある程度の話は理解できる。内容の完璧な理解は無理でも、ニュアンスの理解はできてしまう。
だからこそ分かってしまったのだ。父が帰ってくることがない、と
この世界はかなり昔から、エネルギーの枯渇が問題視されていた。物を作る動力にも、物を動かす燃料にも使われる。それどころか、子を産む体力や運動時に燃焼するたんぱく質にも使われているのだ。
それが枯渇するかもしれない。子供でも知っている環境問題の一つだ。
何か対策をしなければ、30年後には以降1000年は草木も生えぬ土地が拡大し、70年後には世界の全てが死の土地になると言われている。
そのエネルギーの名前こそが魔素。全ての元凶となる物質。
世界の頂点である評議会からは一つの結論を出した。他の世界からエネルギーを奪うことにしたのだ。
幸いにして、ブサウの世界は魔素増幅装置を応用研究した一つの結果として、異世界へ自由に行き来できるようになるワープゲートを造り出すことに成功した。別の世界へ行くことは可能だった。
他の世界から魔素を奪おう。意気揚々と足を踏み出した先遣隊は軽い絶望を味わった。その世界には魔素がなかったのだ。
一つ目の世界で先遣隊は、イノシシに直接、注射で魔素を打ち込むことにした。イノシシは突如として入ってきた異物で体が拒否反応を起こし、爆散四散してしまった。
その後、拉致した人間に、イノシシ同様に注射して爆散させたり、魔力変換装置を取り付け、異常な免疫反応により死亡させたりした。この実験は400年に渡り続けられた。
二つ目の世界は元から魔素があり、世界の魔素総量の4%を奪取して、自分達の世界で運用した。
三つ目、四つ目と新しい世界を開拓する中、一つ目の世界で魔素の増幅に成功した。
生物濃縮を使ったのだ。魔素を川へ流し、魚や植物に蓄えさせ、それを生物が食べる。そして、その生き物が死んだ時、僅かながら魔素が回収された。収集された魔素は想定されていた一体から採れる魔素量の1.12倍となっていた。これは大きな進歩であった。
以降、新しい世界では、この方法が採用されることとなった。
それと同時に新しい職業が誕生した。魔素増幅管理業。通称守り人。いわゆる御役目、というやつである。
これは生涯をかけてやることになる。
そもそも魔素は劇物なのだ。1000年かけて30%の確率で馴染む、と言われているものである。
魔素によって、人も獣も変わった。人には角や翼が生えたりし、人とは到底呼べないものとなった。獣は理性や知性を失い、野生ではなく本能で動くようになった。
少し世界のエネルギー総量が横這いになってきた時、ブサウの御役目が来た。
今から約500年前、帝国歴2500年ごろ、ブサウはシキ達のいる世界にやってきた。
この世界は不思議な世界だった。明らかに今までの世界とは違う。
神力と呼ばれる力があるのだ。魔素を必要としない奇跡のように映った。
ブサウからすれば、魔素を使い火を点け、魔素を使い魔術を繰り出し、魔素を使い子を産んでいた。
しかし、ここは違う。木を擦り火を点け、魔素もなしに子を産む。それはどこの大陸もだった。発展度合いによっては石で火を点けたり、謎の道具で母の腹を斬って子を産んでいたが、その程度は差異だった。300以上の世界を開拓したブサウ達の世界にとって、そのような技術は20、30の世界で見てきたのだ。
だが、神力は違う。初めてだった。大丈夫か? こんな変な力がある世界で魔素が浸透するのか?
しかも、魔素によって変質してしまった獣、いわゆる魔物よりも怖いものがいた。
神選民グレイソレア。見れば遠くのことが分かる遠視の神眼。神力や魔力、筋肉の流れを読むことができる神力の神眼。相手の状態を知ることができるステータスの神眼。最大五秒まで未来を視ることだできる未来視の神眼。相手の情報を知ることができる鑑定の神眼。相手を眠らせ、夢を見せることができる夢見視の神眼。相手のステータスを弱体化させる、三年後に確実に死に至らしめる、毒状態にする、麻痺状態にする、昏睡状態にする、のうち一つを相手に与える呪視の神眼。相手を石化させる石化の神眼。そんな8つの神眼を完全に使いこなす化け物。
月の姫フォン。グレイソレアと同様の遠視の神眼を持ち、破壊力抜群の聖剣を使いこなす存在。神力の扱いも上手く、距離や障壁障害など一切関係なく、神力を当ててくる化け物。私は結界に自信があったが、三重に張っても当ててきた。怖い。
異次元の鍛冶師レインレイン。私が来た時にはすでに故人であったが、彼の打った剣は有名であった。聖剣と呼ばれるその剣は十振り在り、全て魔素がなくても使えるなど、合理的にあり得ない。
獣の魔神イーラ。絶対的暴力の獣の魔神。龍神よりも強いと噂される暴竜バハムート。境界を使ってこちらの世界まで来たカーミラ。エネルギーの半分を担う精霊アイケルス。エネルギーなしに最強格に至ったヲルクィトゥ。その他大勢。化け物が多すぎる。
本当に、これ大丈夫か?
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