メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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33.魔大陸

50.怒髪天を衝く

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「見つけたぜぇ、勇者ぁ!」

 シキに血走った目が向けられる。
 シキは困ってしまう。え、誰こいつ、が90%、どうしよう、が10%。

「お前が周りの村を救った。だってのに、俺の村は救ってくれなかった!」

 シキには全く分からない。そもそも救った村についての記憶がないのだ。

 眉根を寄せていると、ニシエの機嫌はさらに悪くなっていく。

「許されようってのか? 俺の村を滅ぼしておいて?」
「そんなこと言われたって知らない」
「テメェ!?」

 ニシエは剣を雑に握ると、シキに向かって駆けだした。




 ニシエはいわゆるいい人だった。合コンにいれば、女の子に人気だがお持ち帰りはできないような人だ。
 それなりに裕福な家庭に産まれ、それなりの幸せを手にしていた。それなりに優しくも厳しい両親、それなりに可愛らしく甘えてくる妹。会社に属してもそれなりにお金を稼ぎ、事業を立ち上げた時もそれなりに成功した。身体もそれなりに鍛えており、本職に敵わないものの、それなりに戦えた。レベルは20と少し、それなりだ。

 全てがそれなり。十段階評定で言えば6か7。圧倒的普通。普通の人生。

 そんな時、全てが変わった。

「お兄ちゃんさ、料理、そんな上手じゃないよね」
「うるせぇ、そんなに言うならお前が作れよ」
「やーだよー」

 シチューを口に含みながら妹が文句を言ってくる。ニシエは自分用のシチューをテーブルに置きながら、妹のことを睨んだ。妹は鼻歌を奏でながら目を逸らし、シチューにスプーンを入れる。

 そこで、カチャカチャとスプーンが器に何度も触れた。
 妹が天井を見る。明かりも揺れている。

「最近、地震多いね」
「確かにそうだな」

 そこで扉が勢いよく開けられた。

「大変だ! 怪物がこっちにやってきた!」
「何!?」

 ニシエは村の男の報告を聞き、家の奥に走っていった。

 やってきた怪物は脚幅だけで両腕を広げた成人男性三人分もある。明らかにデカい。なぜ今まで気付けなかったのか。それが恨めしい。
 村の男達総出で怪物の足止めをする。女子供は逃がす。それが目標だ。それができただけで成功、万々歳だ。

 ニシエも当然参加する。家の奥から剣や槍を持ち外に出ると、そこにはすでに怪物がいた。

 赤い鱗に炎の鬣を持ったそいつは、村を睥睨していた。
 ポウと怪物が口から何かを吐いた。それは巨大な炎の塊。家一軒よりも大きいかもしれない。
 炎の塊は村の集会場に着弾した。そこから熱風が吹き荒ぶ。

 一瞬で目が乾き、喉が枯れた。あまりの熱で、上皮のタンパク質が失活してしまう。

 そして、風が強すぎたため、100kgを超えているニシエが軽々と浮かされた。

 戸を突き破ったニシエは家具を壊しながら柱を折った。この時、奇跡的にテーブルが楯になってくれたおかげで、体が大幅に変化しなかった。
 柱が折れ、家の二階と天井の重みに耐えられず、崩れた。瓦礫に埋もれていく中、ニシエは気絶した。

 瓦礫に挟まれた足の痛みによって目を覚ました。

「う、ぐ。あぁ、ここは? あぁ、そうか、俺は」

 ニシエは無理に足を引き抜くと、瓦礫の山から脱出する。ジンジンと痛みを発する足を引きずりながら数歩移動した。
 ドクドクと流れる血液を感じる。挟まっていた左脚の他に、体全体が痛い。特に右腕。折れていないが、人体として無茶な位置に留まっている。

「っざっけんな」

 ニシエは辺りを見渡した。怪物はどこにもいない。歩行に伴う揺れもない。どこへ行ったのか。

 痛みに血を吐きながら、辺りを調べてみることにした。
 50歩も歩けば、腕や足が落ちていた。飛んだ瓦礫によって千切れたようだ。近くにあるべき体はどこにもない。

「う」

 ニシエは吐きそうになったが、何とか耐える。
 そこで、ゴロリと瓦礫から何かが落ちてきた。

「あ?」

 ニシエがその転がってきたものを見る。
 それは人の顔だった。毎日ニシエが見ていた顔だった。

 熱に変質した、白く濁る瞳と眼を合わせたところで、ダムが決壊した。

 許さない。勇者を、許してはならない。
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