メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
27 / 684
2.癒院

4.ちょっと一息入れましょう

しおりを挟む
 久しぶりの宿だ。ここのところ野宿が続いていたので、これだけでも嬉しい。



「アレン。鏡を見てこい。荷物は私が運んでおこう」



「レイドさん。ありがとうございます。行ってきますね」



 アレンは部屋の隅に存在している鏡を覗き込む。



「は?何だこれ」



 アレンは自分の眼が信じられず、顔を触る。見えている光景は本物のようだ。



 アレンの顔は、アシドの言う通り、泥がついていた。蝶のような模様で。一日たっているので、へばりついていた。



「ふっ」



 自分でも笑ってしまった。よくこんな風に泥がついたな。



「洗ってきますね」



「あぁ。贅沢に温泉にも浸かってこい」















 女子3人組は治癒院内に存在している温泉に来ていた。



 美を意識するアストロと思春期であるエンドローゼだけでなく、シキも来ているというのは、やはりシキも女の子だということだろう。



 脱衣室で、アストロは恥じらいもなく服を脱ぎ捨てる。エンドローゼは正反対に遅々と肌を晒さぬように脱いでいく。二人の脱ぐ様は肉体の自信の差が出ていた。女性的な肉体に執着しないシキは裸を見られようと何も感じないので、手早く脱いでいく。



「こんな時も遅いのね」



「ご、ごめんなさい」



 浴槽の前にしゃがみ、桶に湯を入れ体に掛けていく。アストロは熱湯を浴びて肌を桜色に染める中、誰にも聞こえぬ声量でほぅと吐息を漏らす。いくつもの水滴が艶やかな素肌を滑り、その項や腰の括れ、太腿に伝っていく。



「う、う~ん」



「……唸ってどうしたのよ」



 アストロの質問には答えず、自分の胸を見下ろし、今度はアストロの胸を見る。



「ず、ず、ズルいです!」



「……は?」



「わ、わ、わわ、私もそれぐらいほ、欲しいです!し、し、シキさんもそう思いますよね!?」



 エンドローゼはその胸囲の格差に一層唸り声を漏らす。



「いや、好きで大きくなったんじゃないんだけど」



「す、す、好きに大きくできない人もいるんです!!」



 アストロが自身の乳房を両手で掴み、ムニムニと形を変えさせる。両手で掴んでも零れ出ている大きさに、エンドローゼが絶句する。エンドローゼには効果抜群だ。



 一方、巻き込まれる形となったシキはというと。



「大きくては駄目。動きづらくなってしまう」



 前衛としても戦うシキと後衛で戦うアストロとエンドローゼでは価値観が違うので、言うことが違った。



 エンドローゼは絶望の顔をしている。ここにエンドローゼの味方がいなかった。















「どうしたんだ?こんなところで深酒なんて珍しいな、コストイラ」



 治癒院は多くの冒険者が集まる街だ。治癒院はヂドルに次ぐ冒険者の多い街。その分多くの施設がある。温泉が名物であるが、他にもバーがある。



 アシドはそのバーのような酒場で酒を飲んでいたコストイラの隣に座る。



「最近、ゴミの捨てるためのルールが変わるらしいぜ」「街道沿いに壺を祀る祠を立ててるらしいぜ」「明日雨だってよ。仕事サボるわ」



 酒場は情報収集を行うのに最適な場所だ。酒に酔って、つい口が滑る場所なのだ。



 2人の間に沈黙が流れる。カランと氷同士が当たる音の後に、ようやくコストイラが口を開く。



「ヲルクィトゥってさ。どう思うよ?」



「どうって言われてもな?」



 アシドは顎に手を当てる。



「ヲル…ってさっきの冒険者だよな。結構な手練れなんじゃねェか?立ち姿がそんな印象を与えてたな。ありゃあ、相当だな」



 アシドは言い終えると同時に届いた酒を口に含む。



「誰にも言ったことねェんだけどな」



「んおっ!?何だ?」



「オレさ、小さい時から剣の腕を磨いてさ。剣の頂を目指してたんだ」



 コストイラは酔っているのか、今まで幼馴染にも言ったことがなかったことをぽつりぽつりと話し始める。



「この世界にはな、その域に達した人達を”天剣へ至りし者”とか”天之五閃”とかって呼ぶんだ。今まで5人しかいないから五閃な。オレはさその6人目になりたい。あわよくば誰かを倒して五閃に数えられたい」



 強いやつに執着するのはそういうことか。



 アシドは納得しようとして、新たな疑問が生まれた。



「ヲルクィトゥと何の関係があんだよ」



「アイツさ、本人か一番近い存在だと思ってんだよ。オレはあの立ち姿で実力差を見せつけられた。どう動いても初動で止められるイメージしか湧かない。アイツは相当だよ」



 コストイラがこんなことを言うなんて珍しい。



 アシドはコストイラの背を軽く叩くと、席を立つ。



「二日酔いすんなよ」



「弁えてるよ」



 アシドは静かに酒場を出て行く。勘定を全て押し付けて。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...