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2.癒院

10.樹海の魔物

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 闇属性の魔物が現れたのは、もしかしたら今向かっている祠が原因かもしれない。そう思ったアレン達は先を急ぐことにした。祠の方向はすぐに分かった。理由は簡単だ。吊るされている魔物の死体が増えてきたのだ。



 アレン達は街道から外れ、森の中の整備された道を進む。



 最初に気付いたのはコストイラだった。白と黒の一対の熊の人形が置いてあった。意味ありげなこの森の道。それも祠への道。何かあるかもしれない。いや、むしろない方がおかしい。しかし、コストイラはそういうことは明るくなかった。



 次に気付いたのはアシドだった。考えたことはコストイラと一緒。ここは似た者同士ということだろう。アシドも、全く明るくなかった。



 次に気付いたのはアストロだった。この3人は危険域に自ら踏み込む腐れ縁だが、同時に危機察知能力も高かった。ガラエム教のアストロ、アシド、シラスタ教のコストイラもピンとこない。何の宗教の儀式だろうか?



 だが、アストロには分かることがあった。この熊の人形は魔物だ。アストロは即座に指を向ける。黒熊の人形の爪は黒く光り、白熊の人形の爪は白く光る。



 ようやく他の者も熊に気付く。熊達は火の塔に包まれる。そういえば森の中でガンガン炎を使っているなと思ったのも束の間、2つの熊の人形が炎の中から現れる。



 体のところどころは焦げ、体力はごっそり減っているのか、ふらふらしている。熊は片腕を振るおうと、大きく薙ぐが、アシドとコストイラが腕を斬り飛ばす。さらに首を貫くようにシキが両の熊にナイフを突き立てる。



 一瞬の出来事だった。



「すご」



 アレンの口から自然と声が出た。そして、声を追うように血も溢れた。















 ゴトゴト。



 誰もいない空間に音が反響する。何か重いものが揺れ、硬いものと接触して生まれる音。



 ゴ。



 何かの動きが止まる。何かから別の何かが生まれる。羽の生えた、ピッチフォークのようなものを持った悪魔。何かを話すでもなく、何かを行うでもなく一人動き出す。生まれたばかりだというのに何をすべきか分かっているかのように移動する。



 また静かな空間が訪れた。















 姿勢が前傾になる。



 痛い。



 肩から血が舞っている。



 痛い。痛い。



 右肩を押さえながら後ろを向く。



 痛い。痛い。痛い。



 目に映るのは。



 痛い。痛い。痛い。痛い。



 筋肉の付いたしなやかな体。



 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。



 青みがかった灰褐色の肌。



 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。



 頭部の角に、背中の大きな翼。



 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。



 ガーゴイル!!



 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。あれ?痛くない?



 アレンの体が淡い光に包まれる。ガーゴイルの胸が風船のように膨らむ。息吹ブレスか?音波か?



 皆が身構える中、ガーゴイルが口を開く。薄紫色の霧が出てくる。毒か?



 コストイラが構わず疾走する。



「らっ!」



 そして、思い切り刀を振り下ろす。



『待テヨ。クソガキ』



 しかし、刀は硬い爪に阻まれる。ガーゴイルは受け止めた腕を振るい、弾き飛ばす。



『ソコノ女。ヨクモオレサマノドールタチヲモヤシテクレタナ』



 ガーゴイルはコストイラのことなど見ていなかった。ガーゴイルの爪光り始め、半透明のオーラを纏い、少し大きくなる。



『死ニ晒セ!』



 アストロに向かい走り始めるが、その間にアシドが割り込む。



『邪魔ダァ!』



「通すかよ!」



 両者の間に火花が散る。アストロは魔力を撃ち出し、シキは背後に回り込む。



『シャラクセェ!』



 ガーゴイルは腕をぶん回し、魔力をアシドに当てさせ、もう片方の爪でシキのナイフも防ぐ。



「なっ」



「っ!」



『今ダ!』



 ガーゴイルはニヤリと笑い、再びアストロに向かい駆け出す。



 ギャイイイイン!



 金属がぶつかり合う音。その爪は再び防がれる。今度はレイド。最後の砦。



『グヌゥ。ドイツモコイツモ邪魔シヤガッテ!』



 ガーゴイルは空中で体勢を変え、踵を楯に付ける。そのまま、ガーゴイルは蹴飛ばし、回転しながら着地する。着地狩りしようとしていたアシドの槍はしゃがんで躱し、槍を摑み、アシドごと投げ飛ばす。



 レイドはアシドを受け止めたため、無防備となる。アレンが弓で狙うが、絶えず動き続けるガーゴイルに定められない。



 ガーゴイルがアシドとレイドを仕留めようとするが、飛び掛かる姿にシキが妨害する。ガーゴイルは羽を使い、空中で姿勢を制御すると、シキの腹に蹴りを叩きこむ。



 そこで、ガーゴイルは気付いた。空気が焼けている。恐る恐る振り返る。



 そこには、目を炯炯とさせるコストイラがいた。



 刀に炎を纏わせ、圧倒的な集中力を発揮する赤い侍は細く長い息を吐く。



 ガーゴイルは自らの死を悟った。そうなったら、生物の本能。ガーゴイルは逃げ出した。



 しかし、目の前に炎が出現し、退路を断たれる。



「逃がすわけないでしょ」



 ガーゴイルは動きを止めてしまった。数多ある選択肢が潰れていくのをひしひしと感じていた。この一瞬はコストイラが追い付くには十分だった。



『クッ!』



「あばよ」



 その炎刀はガーゴイルの命を容易く絶ってみせた。
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