メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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6.紅い館

13.逝ってらっしゃい

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 遺物は2階建てに加え地下室があるという建物だった。その2階部分の一室に緑色の東方の服を着た人物が寝転がっていた。両手を重ね合わせ枕のようにしている。組まれた足の宙に浮いている方はぶらぶらとさせていることから起きているのは明らかだ。朝の爽やかな風に服と同じ色の髪を揺らす。気持ちのいい日だ、こんな日は朝から二度寝だな。深呼吸をすると凛と澄みやかな匂いが肺をいっぱいにした。



 そこで目を開く。



 はて、この近くにこんな匂いを放つ花などあっただろうか。生まれ育った地にもこの近くにもない花だ。女は傍らに置いていた刀を摑み、腰に佩く。近くの瓦礫の上に置いていた水を一口、口に含んだ。唇と喉を潤すと女はかつて窓があったところから外を見る。



 何もない。



 おかしいな。何もないはずがない。あの匂いは何だったのか。ちょっと遅れたか?少し残念そうな顔をして部屋に戻ろうとする。そこでピクリとこめかみが動く。誰かがこの廃屋内に入って来たのだろう。



「さて、どうしようか」



 女は一つ伸びをすると、階下に降りるかのんびり考え始めた。















 廃屋内は荒れ果てていた。外観からはそれほどの古さを感じなかったが、中はひどく生々しかった。装飾は一部なくなっていたり破れていたりしており、椅子や机は壊れ崩れていた。そしてそれらが片づけられておらず、残されたままだった。埃の被り具合や、木材の脆さからは使われなくなってどれくらいたつのかが分からない。



「なにもなさそうだな。というか埃のせいで鼻がむずむずするぜ」



 アシドが肩を槍でトントンと叩きながら、反対の手の甲で鼻を押さえる。くしゃみが出そうで出ないみたいなのでとてもつらいだろう。



「いや、誰かいるぞ」



「ほえ?見つかっちった」



 コストイラが階段を見ながら告げると、女が姿を現した。



「とりあえず挨拶の前にはっきりさせなくちゃいけなァアアアアッ!!?」



 女が喋りながら階段を下りると階段の蹴込板が折れた。いきなり前に倒れる姿勢となった女は驚いた顔のまま階段を落ち、その先にあった壁に激突する。その壁で止まってくれるかと思ったが、女はそのまま突き破った。ガラガラと壁が崩れた。女が瓦礫の下敷きになる。間髪入れず、女が瓦礫の中から現れる。



「イテテ」



「だ、大丈夫ですか?」



 頭を押さえながら立ち上がる女に、たぶん大丈夫じゃないだろうなと思いつつ形式上で聞いてみる。



「これが大丈夫に見える?大丈夫に決まってんじゃん」



 その聞き方は大丈夫じゃない時にするものではないか、と思いつつも大丈夫だというのであればそうなのだろう。涙目になっている女を心配するが、心配は無用だと告げてくる。



「それより、君達は敵なのかな?もしそうなら私の刀が黙ってないよ」



「個人的には戦ってみたいがそちらが攻撃してこないなら敵対する必要もない気がする。こっちとしてはそんなん感じだ」



 コストイラが代表して言うと、ふぅんとコストイラを値踏みするように眺める。



「じゃあ、そうだなぁ」



 わざとらしく言いながらコストイラに近付く。抜刀。完璧な居合。女がそう自負するほどのタイミングだ。アレンもレイドも他の者も反応できない。しかし、コストイラは反応した。



 後出しの居合。抜けきっていない刀が、女の居合を止める。



「あたしは戦いたい。1対1サシだ。良いよな?」



 女はいったん距離を取り、改めて刀を構える。コストイラは無言で対応する。



「え?コストイラさん!?」



「おい」



 アレンがコストイラを止めようとするが、アシドが止める。アレンがアシドのことを見ると、何も言わずに首を横に振った。説得は無駄だと言わんばかりに肩に置く手に力が入っていく。そして、そのままコストイラを置いて廃屋の探索に向かう。



「すまんな。後ろが騒がしくて」



「構わないわ。黙ったままはつまらないもの」



 奇しくも2人は同じ構えだった。同じ構えということはメリットもデメリットも分かっている。先に動けば負ける。2人の脳裏は同じことを考えていた。



 少しの時間が流れる。何かの合図があったわけではない。両者が同時に動く。女の方は刀が光を放ち流れるように動く。コストイラの方は刀が炎を纏いながら暴力的に動く。刀と刀が交わりあい小爆発が起きる。



 両者が距離を取る。コストイラの炎同様、女の光はまだ消えていない。女は光の尾を引く刀を振るう。コストイラは軽々と躱し、次の一撃には刀を合わせる。それが10回も続いた時、刀が合わさる瞬間、炎の勢いが爆発的に上がり、女を弾き飛ばした。















 結論から言おう。



 何もなかった。



 もう少し詳しく言えば、コストイラと分かれたアレン達は廃屋の地下を探索していたのだが、瓦礫しか見つかっていない。パッと見た感じでは何もなく、瓦礫をいくつかどかしたが何もないため確実に士気は下がっていた。非力なエンドローゼはすでに体力がつき、アストロの膝に頭を乗せ休んでいた。アストロはサボりたかったので、エンドローゼに膝枕をしているのはアストロにとっても都合が良かった。



「マジでなんもねェぞ。そもそもここが本当に廃屋なのかも謎だぜ。外観から判断したが、実際に使われたことがあんのか分かんねぇぞ」



 何かの資料や書物がないどころか家具の一つもなかった。この現状にはアシドの意見にも納得できる。



「おい、何かさらに地下への扉のようなものがあったぞ」



 レイドが瓦礫をどかしたことで露わになったハッチに注目が集まる。



「入るのをどうしましょう。コストイラさんを待ちますか?」



「いや、あいつがいないと何もできないと思われるのは癪だから行こう」



「よし、わかった」



 アシドのゴーサインを受けレイドがハッチの取っ手に手をかける。



「っぶはっ!!」



「え、開かねぇの?」



 レイドが息を吐き脱力し、膝に手を置いて息を切らしながら汗を拭く。どうやらハッチが歪んでいるらしく、ピクリとも動かなくなってしまっているようだ。



「え、いや、どうすんの?踏み抜けなさそうだし」



「いったん保留にしましょう。他に何かないか隅まで探した後にもう一回考えましょう」



 皆が現実逃避をしようという意見に賛成し、探索を再開した。















 侍。



 候う者。権力者に仕え、その身辺の護衛を仕事とする者。また、気骨があり、思い切った行動ができるものを意味している。しかし、これは東方での使い方だ。西方側ではただ単に刀を使って戦う者のこととして使われる。つまり、西方では女とコストイラは侍だが、東方では女もコストイラも侍ではない。



 女はもう誰かに仕えているわけではなく、気骨があるわけでもない。ただ刀を振るのが好きで強いやつと戦うのが好きなだけだ。



 コストイラと女は激しい剣戟を繰り広げる。互いに刀を交え、互いに細かい傷を創っていく。そして、互いに笑っていた。互いは互いを強者であると認め、そして自分が超えるための試練であると考えていた。



 こいつを超える。互いの思いが一致し、同じことを考えていた。思い切りぶった切る。互いの笑みは崩れることなく、隙を探す。



 その時は突然訪れた。常に剛と攻めていた両者が攻めの方法を変えた。女は考えた。押し続けているが、未だ千日手。変えなければ決着がつかない。押して駄目なら引くべきだ。女は後ろに跳んだ。男は考えた。押し続けているが、未だ千日手。変えなければ決着がつかない。押して駄目ならさらに押せ。男は前に踏み込んだ。



 炎を纏いながら突進してくる男に女は驚愕を隠せない。刀に合わせ何とか防御する。しかし、床に叩きつけられ、かはっと口をパクパクさせる。



 (まだだ!)



 足元を横薙ぎ、コストイラをジャンプさせ、その足を摑み床に投げつける。コストイラはうまく手で頭を守り受け身を取る。片手をつき、立ち上がると女は刀を振るう。コストイラは柄を上に切っ先を下にして刀を斜めにして防御態勢を取る。しかし、防御は意味なかった。別に攻撃を食らったわけではない。女の刀が狙っていたのはコストイラではなく床だった。



「なっ!」



 コストイラの足元が崩れ落ちていく。



「ふぅ。さて、行きますか」



 女は刀を両手で持ち、ぐるりと一周させ6か所に光を出現させ、輪を作る。女はその輪をくぐり光を纏い穴に落ちていく。いや、落ちたのではなく、下に突きを放ちながら下りたのだ。



 瓦礫と共にコストイラが地下室に落ちてくる。



「がっ!」



 落下の威力と背に当たる瓦礫により肺の中身が押し出される。



「コストイラさんっ!!?」



 ハッチの周りに集まってあーだこーだ言っていたアレン達がコストイラに気付く。駆け寄ろうとして体を向けると、コストイラの火力が増した。誰も近寄れないくらいに。相手を迎え撃つように。それに気付いた時、光が落ちてきた。



 刀の切っ先は刀の腹で止められるが、関係ない。押せ。さっきは引いたが今度は押せ。押すのだ。押して押して押し破る。光が炎を押し込み、瓦礫ごとさらに下へと落ちていく。



 そして、そして、そして―――――。



 アレン達には何が起こっているのかは確認できない。しかし、歪んだハッチの縁と穴から目を潰さんばかりの光が昇り、次いで炎が昇り、ハッチを破壊し吹っ飛ばす。ハッチの近くにいたアシドとレイドが炎に焦がされ、疾患部を叩く。エンドローゼがアストロに水を出すようにお願いしながら、2人を治していく。アストロは文句を言わずに水を出していた。2人は仲良くなっているのだろうか?



 治療を終えた一行は下の戦いの音が聞こえなくなったと判断し、下に下りる。地下は滅茶苦茶暑かった。。そこらへんに落ちている瓦礫が揺らいでいるように見えてしまうほどだ。そんな中、瓦礫の一つに上裸の状態のコストイラが座っていた。その目の前には乱雑に緑の髪を地につけ、大の字に寝ている女。ところどころにやけどの跡があり、服は半分以上焼けていて素肌が晒されていた。



「負けたよ」



 とても清々しい声音だった。悔しさが滲み出ていたが、それでも敗北を認めていた。



「エンドローゼ。治してやってくんねェか」



「え、あ、は、はい」



「良いのかい?」



「敗北者が何言ってんだ?」



 コストイラはエンドローゼに女を治すように言うと、女は目だけを動かしコストイラを見る。コストイラに真意を問うが、コストイラははぐらかす。



 女は淡い、暖かな光に包まれた。
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