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6.紅い館
14.地下通路の中で
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女はそれなりの権力者の用心棒をしていた。
権力者の用心棒。人によっては手を出されたと考える者もいるが、女はそんなことはなかった。その権力者の趣味に合わなかったのだ。具体的に言えば、女の顔は整っていて美人の部類に入っていたが、胸がなかったのだ。
別段抱かれたいなどと思っていなかったが、女の両親は抱かれれば立場が盤石なものになると考えていた。しかし、実際は勘違いであり、手を出されたからといっても手切れ金や口止め料を渡し、はい、さようならというのが普通だった。拒めば殺され、受け取れば他言無用、バラせば始末された。そう考えれば女は最後まで働けて満足だっただろう。
この権力者は早まった行動をしてしまい、賊だと決めつけた相手に逆に賊として定められ、返り討ちに合い、失墜、そして処刑されてしまった。そして家族全員も打ち首になった。
そして、働いていた者は解放された。女は自由になった。後ろ盾を必要とした侍女及び護衛達は、多少の無理な要求をされても他の権力者の先で働くことになった。しかし、女は違った。親との縁を切った女は放浪の旅に出たのだ。
「この後はどうすんだ」
汗でじっとりと濡れる服に嫌な顔をしながらコストイラは問うた。
「この先を少し見てからこの施設を出て、という感じですかね」
アレンは地下道の先を見ながらコストイラに応える。
「なぁ、ついていってもいいか?」
身支度を整えていた女が言ってくる。
「何で?」
「ひどいなぁ。そんなにつっけんどんにするものじゃないよ?分かれ道まででいいからさ」
その顔にイラっときたコストイラが舌打ちする。女はちらりとアレンを見る。女はアレンがこのパーティーのリーダー的存在であると看破し、眼を合わせて懇願する。
「僕は別にいいですけど。皆さんはどうですか?」
アレンがぐるりと見渡す。反論は来ない。アレン達は女を連れていくことを決めた。
女は別に一人では戦えないわけではない。むしろこのあたり一帯であれば無双も出来よう。ではなぜ女はアレン達についていこうと思ったのか。正確には女はアレン達ではなくコストイラについていこうと思ったのだ。女は一目惚れをするタイプではない。タイプの相手を見つけると徹底的に観察し、仕草、姿勢、思考、癖。その全てを見て、分析し、判断する。私はこの人が好きなのだと。
女の好きなタイプは自分よりも強い男だ。つまり、コストイラは女の眼鏡にかなったということだ。そんなことは露知らず、コストイラは警戒しながら先を歩く。
「敵だ」
コストイラが腕を水平に持ち上げ、進行を止める。女には敵など見えていない。それほどの感知能力があるのか。女は刀の柄に手を伸ばす。
真正面から何かが転がってくるのが見えた。女は魔物の名前を知らないが知っている人がいたら、アルマードであると言えただろう。アレン達は知っていたので目配せだけで動きを確認し終える。女はどうすればいいのか分からず、中途半端な姿勢で固まってしまう。
アルマードは斜めにした楯に乗り上げ、宙を転がる。すぐに天井にぶつかり勢いを失い落ちてくる。シキがそのしなやかな足でボールのように蹴飛ばし、壁にめり込ませる。
「まだ来るぞ」
楯を構えたままのレイドが兜を深く被る。
「シキはアルマードを」
「ん」
シキは言われると、壁に埋まったままのアルマードへ近づき、僅かな隙間にナイフを突き入れ解体していく。
真正面から来たのは上半身が人間の女、下半身が蛇のエキドナ、そして首輪の付けられたワイバーン。よく見るとエキドナの方は右手にまだ手枷がしてあった。どちらも鎖を引きちぎった跡があった。
『アアアアッ!!』
ワイバーンが叫ぶと2匹が突進してくる。地下道は狭いためワイバーンは飛ぶことが出来ず、不格好にも走ることしかできない。コストイラは迎え撃つように疾走し、ワイバーンの翼の下を抜ける。コストイラの狙いは後ろにいるエキドナの方だ。
何の変哲もないただの振り上げ。エキドナはナイフをクロスさせ受け止めようとするが、コストイラは力でもってエキドナの体を浮かせるほどに刀を打ち付ける。振り抜くと、そのまま振り下ろしに移行する。またしても、ナイフをクロスさせ防御する。しかし、今度は技でもってナイフを砕く。そのままエキドナは真っ二つになった。
ワイバーンは通り過ぎていった何かのことなんて気にしない。ワイバーンは目の前の光が鬱陶しかった。後ろに行った奴など目の前のやつらを片付けた後でも構うまい。ワイバーンの口内が点火される。
その口内にアレンの矢が入り込み、爆発を起こす。別にアレンが放ったわけではない。アシドが矢を直接投げ入れたのだ。口内で爆発が起きたワイバーンは口から煙を吐き出す。しかし、構わず突進してくる。アシドはそんなワイバーンの狂気に憐れみを覚えながら槍を振るう。首を叩き折り、そして首を貫く。驚いたことにワイバーンがまだ動く。ワイバーンの尾がアシドの脇腹を叩く。アシドの骨が嫌な音を立てる。首に槍が刺さったまま首を擡げる。
『アアアアアアァッ!!』
ワイバーンが叫ぶと連動するように自身の眼もオレンジ色に光る。突進をし、頭突きをかますワイバーンに対してレイドが楯で防ぎ、押さえつける。両者の力が拮抗する中、するりとシキが横を抜け、喉元に刺さっていた槍を引き抜き大出血させる。
『アアアアッ!!』
痛みに狂うワイバーンは尾を振るい、アシドと同じ、いやそれ以上の目に合わせようとするが、シキは高跳びのように背をそらせ、バク転で躱す。シキは空中にいる時に槍を投げた。その槍を復活したアシドが受け取り、勢いそのままにワイバーンの頭に槍を突き立てた。
女はその曲芸じみた動きにも驚いたが、連携にも驚いた。翼竜を素通りし任せるように動きたコストイラ。攻撃は誰かに任せ自身は防御に徹するレイド。そして何よりシキとアシドの完璧な槍のパス連携。一人で護衛し、一人で旅してきた女にとってこの連携はまぶしく見えた。羨ましいのと同時に自分にはできないことだとも思った。
女は中途半端に抜いていた刀を収めた。
権力者の用心棒。人によっては手を出されたと考える者もいるが、女はそんなことはなかった。その権力者の趣味に合わなかったのだ。具体的に言えば、女の顔は整っていて美人の部類に入っていたが、胸がなかったのだ。
別段抱かれたいなどと思っていなかったが、女の両親は抱かれれば立場が盤石なものになると考えていた。しかし、実際は勘違いであり、手を出されたからといっても手切れ金や口止め料を渡し、はい、さようならというのが普通だった。拒めば殺され、受け取れば他言無用、バラせば始末された。そう考えれば女は最後まで働けて満足だっただろう。
この権力者は早まった行動をしてしまい、賊だと決めつけた相手に逆に賊として定められ、返り討ちに合い、失墜、そして処刑されてしまった。そして家族全員も打ち首になった。
そして、働いていた者は解放された。女は自由になった。後ろ盾を必要とした侍女及び護衛達は、多少の無理な要求をされても他の権力者の先で働くことになった。しかし、女は違った。親との縁を切った女は放浪の旅に出たのだ。
「この後はどうすんだ」
汗でじっとりと濡れる服に嫌な顔をしながらコストイラは問うた。
「この先を少し見てからこの施設を出て、という感じですかね」
アレンは地下道の先を見ながらコストイラに応える。
「なぁ、ついていってもいいか?」
身支度を整えていた女が言ってくる。
「何で?」
「ひどいなぁ。そんなにつっけんどんにするものじゃないよ?分かれ道まででいいからさ」
その顔にイラっときたコストイラが舌打ちする。女はちらりとアレンを見る。女はアレンがこのパーティーのリーダー的存在であると看破し、眼を合わせて懇願する。
「僕は別にいいですけど。皆さんはどうですか?」
アレンがぐるりと見渡す。反論は来ない。アレン達は女を連れていくことを決めた。
女は別に一人では戦えないわけではない。むしろこのあたり一帯であれば無双も出来よう。ではなぜ女はアレン達についていこうと思ったのか。正確には女はアレン達ではなくコストイラについていこうと思ったのだ。女は一目惚れをするタイプではない。タイプの相手を見つけると徹底的に観察し、仕草、姿勢、思考、癖。その全てを見て、分析し、判断する。私はこの人が好きなのだと。
女の好きなタイプは自分よりも強い男だ。つまり、コストイラは女の眼鏡にかなったということだ。そんなことは露知らず、コストイラは警戒しながら先を歩く。
「敵だ」
コストイラが腕を水平に持ち上げ、進行を止める。女には敵など見えていない。それほどの感知能力があるのか。女は刀の柄に手を伸ばす。
真正面から何かが転がってくるのが見えた。女は魔物の名前を知らないが知っている人がいたら、アルマードであると言えただろう。アレン達は知っていたので目配せだけで動きを確認し終える。女はどうすればいいのか分からず、中途半端な姿勢で固まってしまう。
アルマードは斜めにした楯に乗り上げ、宙を転がる。すぐに天井にぶつかり勢いを失い落ちてくる。シキがそのしなやかな足でボールのように蹴飛ばし、壁にめり込ませる。
「まだ来るぞ」
楯を構えたままのレイドが兜を深く被る。
「シキはアルマードを」
「ん」
シキは言われると、壁に埋まったままのアルマードへ近づき、僅かな隙間にナイフを突き入れ解体していく。
真正面から来たのは上半身が人間の女、下半身が蛇のエキドナ、そして首輪の付けられたワイバーン。よく見るとエキドナの方は右手にまだ手枷がしてあった。どちらも鎖を引きちぎった跡があった。
『アアアアッ!!』
ワイバーンが叫ぶと2匹が突進してくる。地下道は狭いためワイバーンは飛ぶことが出来ず、不格好にも走ることしかできない。コストイラは迎え撃つように疾走し、ワイバーンの翼の下を抜ける。コストイラの狙いは後ろにいるエキドナの方だ。
何の変哲もないただの振り上げ。エキドナはナイフをクロスさせ受け止めようとするが、コストイラは力でもってエキドナの体を浮かせるほどに刀を打ち付ける。振り抜くと、そのまま振り下ろしに移行する。またしても、ナイフをクロスさせ防御する。しかし、今度は技でもってナイフを砕く。そのままエキドナは真っ二つになった。
ワイバーンは通り過ぎていった何かのことなんて気にしない。ワイバーンは目の前の光が鬱陶しかった。後ろに行った奴など目の前のやつらを片付けた後でも構うまい。ワイバーンの口内が点火される。
その口内にアレンの矢が入り込み、爆発を起こす。別にアレンが放ったわけではない。アシドが矢を直接投げ入れたのだ。口内で爆発が起きたワイバーンは口から煙を吐き出す。しかし、構わず突進してくる。アシドはそんなワイバーンの狂気に憐れみを覚えながら槍を振るう。首を叩き折り、そして首を貫く。驚いたことにワイバーンがまだ動く。ワイバーンの尾がアシドの脇腹を叩く。アシドの骨が嫌な音を立てる。首に槍が刺さったまま首を擡げる。
『アアアアアアァッ!!』
ワイバーンが叫ぶと連動するように自身の眼もオレンジ色に光る。突進をし、頭突きをかますワイバーンに対してレイドが楯で防ぎ、押さえつける。両者の力が拮抗する中、するりとシキが横を抜け、喉元に刺さっていた槍を引き抜き大出血させる。
『アアアアッ!!』
痛みに狂うワイバーンは尾を振るい、アシドと同じ、いやそれ以上の目に合わせようとするが、シキは高跳びのように背をそらせ、バク転で躱す。シキは空中にいる時に槍を投げた。その槍を復活したアシドが受け取り、勢いそのままにワイバーンの頭に槍を突き立てた。
女はその曲芸じみた動きにも驚いたが、連携にも驚いた。翼竜を素通りし任せるように動きたコストイラ。攻撃は誰かに任せ自身は防御に徹するレイド。そして何よりシキとアシドの完璧な槍のパス連携。一人で護衛し、一人で旅してきた女にとってこの連携はまぶしく見えた。羨ましいのと同時に自分にはできないことだとも思った。
女は中途半端に抜いていた刀を収めた。
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