メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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7.旧地獄

6.最終防衛戦線

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 もう少しかと思ったが意外と距離があった。5分ほど歩くと再び魔物が現れる。グリーンジャイアントと初見の魔物だ。



 グリーンジャイアントは個体によって大きさが変わり、3メートルから10メートルクラスまでいる。今回は3メートル級だ。



 もう一頭は体長2.5メートルほど。鳥類のような尖った嘴の口先、大きな骨質のフリルがついた頭骨に3本の角。大きく太い4本の足の体は犀に似ている。



『ゴォアッ!』



 トリケラトプスが足を踏み締めると、地面から尖った岩が飛び出る。狙われたシキは前兆を感じ取っていたのか、華麗に飛んで躱している。空中にいるシキを狙うグリーンジャイアントは、泥をぶつけようとするが、アストロに阻まれる。グリーンジャイアントは炎に包まれた。口のないグリーンジャイアントは熱そうにしながら腕を振り回す。



 トリケラトプスがどたどたと走り寄ってくる。角を全面に出した突進だ。通り過ぎ様にコストイラは肉を斬る。外皮が予想以上に硬く、両断に至らない。



『ゴァッ!?』



 血の噴き出すほどの痛みに声が出るが、特攻は止まらない。足を止めず、突進を続ける。トリケラトプスは一番足の遅そうな後衛3人組を狙う。ずっと動いていないので当たり前だろう。向かって来る巨体にアレンは思わず目を閉じる。エンドローゼとアストロは目を閉じない。



 ガツン。レイドが楯を構え、突進を止めていた。足を地面に埋めながらエンドローゼたちを守っていた。踏ん張りが利かなくなった瞬間、レイドもエンドローゼも死んでしまう。アシドがトリケラトプスの首に槍を刺す。



『グゥオッ!?』



 痛みに首を振る。楯から頭を離すトリケラトプスを楯で殴り、よろめかせる。もう一度槍で刺し、自らターゲットを取る。レイドは大剣の重さを利用して、トリケラトプスの頭を落とす。



「ふぅ」



 火を消したグリーンジャイアントが腕を振るうが、躱しながらコストイラはその腕を切り落とす。シキが首裏をナイフで突き刺した。















「ぬ?何じゃあれ?」



 砦の王――コロリアムは外で燃える炎を見ていた。今まで見たことない光景に眉根を寄せる。しかし、すぐさま机に向き直る。その炯炯とした目で自身のコレクションを磨く。



「で?息子がどうしたって?」



「いかさまも見破られて、惨敗したらしいです。コロリアム様の力を借りたいとか」



「フンッ」



 要請を受けたコロリアムは鼻を鳴らし、周りの者を委縮させる。



「自分で何とかしろと言っておけ」



「ハイ」



 息子のお願いを一蹴し、これ以上の話し合いを打ち切ろうとする王に、現状の報告をしていた男は部屋を出て行く。部屋の中には、コロリアム以外にいなくなる。



「スローシムの奴め、ワシに頼りおって、自分で何とかせぇといつも言ってやったっちゅーに。まったく」



 文句を言いながら磨いていく。コンコンとノックが来る。



「何じゃ」



「来客です」



 来客?アポイントメントは今日はない。ここにアポなしで来るのは自分の腕に自信を持った、自身の立ち位置も分からぬ自称強いやつに決まっている。



「いつもの部屋に通せ」



「ハイ」



 報告に来た者が緊張の面持ちで部屋を出て行く。好みの女がいたら保護してやろう。そんなことを思いながらコロリアムは武器を取り、椅子から重い腰を上げる。



 部屋の中には通された7人の人間が立っていた。



 短い茶髪の巨漢。大剣と楯を背負った男。おそらく前線で注意を引き付ける役だろう。



 蒼髪に金の眼をした痩身。槍を持ち、首からゴーグルをかけた男。軽装なのは足の速さを活かすためだろう。



 淡い紫色の髪をした気弱そうな女。杖を大事そうに抱えていることから魔術師だろう。



 紫色の髪の豊満な女。指輪やネックレスが見えるが武器が見えない。あの装飾品は魔道具だろう。



 赤い髪に黄色い目をした男。刀を装備しており、この中で一番強そうだ。左胸にあるペンダントは宗教関連のものだろう。



 焦げ茶の髪に鋭い目をした小柄な男。弓矢を背負っており、気持ち悪い男だ。この気持ち悪さはこいつの目が原因だろう。



 銀髪に緑眼の女。腰元にナイフが3本見える。槍の男よりも軽装なのはこの女が盗賊職だからだろう。



 7人を値踏みするように眺めた後、咳払いを一つ。



「何をしに来た。こんな辺境まで」



 コロリアムは分かりきった質問をする。答えを聞かずに周りの男たちが部屋から出て行く。7人は眉を顰めたが、先に質問に答えさせる。



「魔王を倒しに」



 ほら、やっぱり。ここに来る奴はだいたいそうだ。魔王討伐。決まってそうだ。出来もしない絵空言を言ってくる。そんなことできたのは一部の超人的な化け物と勇者しかいない。だから、これは親切だ。死なせないための親切だ。コロリアムは使い馴染んだ武器を手にする。一番気弱そうな淡い紫の少女を狙う。



「え」



 振り下ろされるハンマーに少女は声を漏らす。コロリアムは胸躍った。またコレクションが増える。



 ガァン。ハンマーが大剣で止められる。巨漢か。鋭い目でこちらを睨みつけてくる。



「チッ!」



 コロリアムは舌打ちし、標的を巨漢に変える。顔に衝撃が走る。眼だけを動かし、元凶を見つける。銀髪の少女だ。跳び蹴りをしてきたのだと分かった時には腹にも衝撃が来る。鞘に入ったままの刀で殴られたのだ。腹に贅肉が詰まっているおかげでダメージが軽減される。



 奇襲に失敗した。分かっていたのか、それとも慣れているのか。どちらにしろ状況はまずい。今から取り繕うのは不可能だろう。そんなことコロリアムの性には合わない。このまま押し通す。



 踏み止まるコロリアムは戦うには狭い部屋で、お構いなしでハンマーを振るい続ける。巨漢は淡い紫の少女を摑み、後ろに投げ、勝気な少女が受け止める。



 ゾワリと背筋が寒くなった。まるで水に溺れているのに水面から遠ざかっていくような恐怖。ぶわりと脂汗が滲み出る。恐怖を前にして人がとる行動は2つ。委縮して何にもできないか、虚勢を張り前へ無理矢理出るか。コロリアムは後者だった。



 声は出さない。情けないと思われたくないからだ。しかし、再びハンマーは巨漢に止められる。シキの蹴撃が側頭部に吸い込まれていく。



「カッ!」



 意識が一瞬飛ぶ。しかし、コロリアムとて意地がある。矜持がある。コロリアムが踏み止まり睨み付ける。鞘で追い打ちされ膝をつく。このままではまた魔王軍の犠牲者が出てしまう。そうすれば武器の回収ができない。コレクションできない。それは駄目だ。



 ハンマーがミシリと音を立てる。ここはワシの聖域、ワシの領分。邪魔などさせんぞ。



「ぬんっ!」



 急速に立ち上がりハンマーで赤髪の男の頭をかち割ろうとする。赤髪は顔色を変えない。至極冷静に、異常なほど冷静な目に動きが止まる。赤髪は隙を逃さない。赤髪の手がブレる。それがコロリアムの見た最後の光景となった。



 赤髪――コストイラは鞘を腰につけ戻す。その落ち着いた面持ちでポツと言った。



「ヤベェ」



 焦ったような声を冷静な状態で出し、冷や汗を吹き出していた。



「ヤベェ、こいつ首が逝ってんぞ」



「ちょ、何してんですか!?」



「いや、こいつが襲い掛かってくるから」



 冷静に見えた顔も目が泳ぎまくっていた。



「そ、そそ、そそそ、そ、そんなことより回復!」



 気弱そうな少女――エンドローゼは焦りまくっていた。かか様からはいつも穏やかでいなさいと言われたが、未だそんな心持にならない。



 エンドローゼが力なく項垂れる。



「て、て、手遅れです」



「「「えっ!?」」」



 この報せはさしものシキも驚いた。
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