メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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7.旧地獄

7.境目

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 男たちは笑っていた。



 突然の訪問者がかの邪知暴虐で餓狼之口の王を討ち滅ぼし、解放していったのだ。感謝してもしきれない。男たちは砦の任務があるので離れることが出来ないが、見送る顔は晴れ晴れとしていた。



 アレン達の気持ちも少しは晴れていた。















 シキは悩んでいた。



 シキは滅多なことでは悩まない。大抵の場合が父によって決められていたので、自分で考えることをしなくて済んでいたのだ。もし、父がいたところでシキの悩みが解決されるとは限らない。



 シキは勇者である。しかし、勇者とは何だ。何をすれば勇者なのだろう。英雄との違いは何だ。答えを見つけられずに悩み続けた。表には出さない。勇者だから?



 シキでも分かることがある。コストイラの方が勇者に向いている気がする。昔に1度だけ読んだことのある物語に登場した勇者に似ているのは間違いなくコストイラだ。



 なぜ、神は私を勇者にしたのだろうか?なぜ、私が勇者にならなければならないのか?



 シキは暗殺者である。暗殺者として育てられた。そんなこと、教えられていなくても分かる。父は私を暗殺者にしようとした。暗殺者は目立ちそうな職になってしまったのか。父は、母はこんな私を許して下さるだろうか?



 母は笑って一緒に悩んで、そして一緒に答えを探してくれるだろう。母はいつもそうだ。何故かたくさんの知識を持っていて、にもかかわらずシキに答えを出させそうとした。母は、優しく頼りになる母だった。



 父はバッサリと切り捨てただろう。暗殺者として育てたいのだから、それ以外は邪魔だ。勇者を辞めろというだろう。神が決めたことだと口答えをしようものなら、その時は神を殺せというだろう。もしかしたら、勇者の責務を早々に果たし、暗殺者になれというかもしれない。



 今まではなぁなぁで済ませてきたが、魔王城が近付くほど嫌でも考えてしまう。



 私はこのままでいいのだろうか。















 アレンは悩みが吹っ切れていた。



 アレンは元々表に出て活躍するタイプではない。ゆえに勇者のパーティにいていいのだろうか悩んでいた。アレンは自分がパッとしないことを自覚していた。



 レイドには楯がある。エンドローゼには回復がある。アシドには脚がある。アストロには魔術がある。コストイラには力がある。シキには強さがある。



 比べても自分には何もない。一応、今は便宜上指揮を執っているが、コストイラやアストロであればもっとうまくやるだろう。



 皆は華やかに咲く花たちだ。アレンは花にはなれない。



 努力しているのに自信が芽生えない。そんなことをコストイラにいったら軽く小突かれた。コストイラが言うには、努力という言葉は麻薬だ。自分が頑張った気になれるまやかしの言葉らしい。努力、それ自体に特別な意味はなく、当たり前にしていなければならない。それを特別視したって成長には繋がらない。



 チャレンジしろ。失敗しろ。そして成長しろ。どこか実感の篭った言葉はアレンの胸にじんわりと染みた。だからこそ、アレンは決めた。花にはならない。



 花が綺麗に咲くための土になろう。















 コストイラは悩んでいた。



 コストイラは隠し事をたくさんしている。そのほとんどがアシド、アストロに出会う前の話だ。



 コストイラと母と精霊の話。



 コストイラが気付いた時には父がいなかった。物心つくころには母と2人暮らしで、5歳の時初めて出会った精霊と3人で暮らしていた。最近になり精霊に遭い、昔の記憶が次々と蘇ってきた。



 刀を教えてくれた人。剣術を磨いてくれた精霊。ペンダントを渡された日のこと。



 思い出せば出すほど、自分の役目がはっきりしてくる。自分の未熟さが浮き彫りになる。修行をしても母には追い付けない。精霊には辿り着けない。



 刀を振るたびに薄皮一枚分強くなれるような気がする。しかし、後何回振ればいいのか。これが分からない。



 教祖様、どうか教えてくれ。















 アストロは悩んでいた。



 今まで使っていた魔術は相伝するための誰でも使えるように改良されたものに過ぎない。一般的に生きていればお目にかかれない代物なので、違いが曖昧にされているが、魔術と魔法には明確な差がある。



 記憶を介しているかどうかだ。



 記憶から導き出されたものを魔法と呼び、それを相伝するために簡易化したものを魔術と呼ぶ。例外的にコストイラの斬開者キリヒラクモノは一子相伝ではあるが魔法だ。同じように見えるので、魔法とまとめられてしまうこともしばしば存在する。



 この先、おそらく、いや確実に敵は強くなる。アストロは唯一の魔法を使う機会は増えるだろう。そのたびに吐き気を催すことになる。



 私の体は耐えてくれるだろうか。















 アシドは苛立っていた。



 コストイラがいつも物憂げな顔をしている。アシドとの修行を蹴り、昔とは違い、一人でいるようになった。



 アシドは前と同じようにコストイラと修業したいだけなのに、感傷的な気分に浸り、ペンダントを撫でている。そんな姿を見るたびに昔のであったばかりのコストイラを思い出してしまう。浮かぶたびにアシドの苛立ちが募っていく。どうすればいいのか、アシドには策がない。



 自分の情けなさにアシドは目を伏せる。いつも自分のことばかりで周りが見えないツケだ。魔王を倒すまでに何とかしたい。



 アシドの胸の内に秘めた思いは激流のように荒々しく滾っていた。















 エンドローゼは悩んでいた。



 エンドローゼは確実に足手纏いだ。エンドローゼがいるせいで進行速度が遅い。コストイラやアストロはいつも足を止めてエンドローゼのことを待っている。



 戦闘になると顕著に表れる。気弱でいつもオドオドしているためすぐに敵に狙われてしまう。攻撃技はあるものの心のブレーキがかかり、いつも使うことが出来ない。エンドローゼを守るために1人攻撃に参加できない為、討伐にも時間がかかる。



 回復するタイミングもいつも計れない。だから戦闘中に回復魔法を放てず、いつも戦闘が終わってからになってしまう。



 変わらなくては。分かっている。でも、それでも変われない。自信が湧かない。



 そんな時、アストロさんに言われたことが胸に染みた。



「自信なんてなくてもいいのよ。自信があったって失敗するし、そっちの方がダメージが大きいわ。逆に自信なんてなくたって成功する人はいる。そっちの方が喜びが大きいわ。所詮自信はその人の尺度だから、絶対的でも相対的でもない。アナタは自信があるから選ばれたの?おそらく違うわ。アナタにはアナタにしか出来ないことがあるの。だから選ばれたのよ。そのことは自信に持たなくていいの。ただ、誇りには思いなさい」



 感動した。救われた気がした。自然と涙が零れた。それ以来、アストロに憧れた。アストロばかりを見ていた。そのことをアストロは知っている。しかし、実害がないので指摘はしない。面倒なのに違いはないが自分が蒔いた種なので仕方ないと諦めた。



 エンドローゼの悩みは変わっていく。



 アストロはそんな視線にブルリと身を震わせていたが、やっぱり指摘しない。エンドローゼは鼻息を荒くしてもう一度誓う。



 絶対にアストロさんのようになろう。















 レイドは悩んでいた。



 どうしても公私混同してしまう。レイドは楯だ。楯なのだから全員を等しく守らなければならない。しかし、レイドは優先順位をつけてしまった。コストイラやアシドは自衛の手段を持っているからという理由で、後衛を中心に守る大義名分を得た。特に動けないエンドローゼを。



 感情を出そうとしない。レイドはパーティに内緒にしていることがある。



 レイドはエンドローゼが好きだ。健気に一生懸命で向上心のある、淡い紫の少女が好きだ。妹と似ているからかもしれない。しかし、レイドは一歩が踏み出せない。レイドは末妹と死に別れをしていた。今度も死に別れしてしまうかもしれない。そんな思いがレイドを踏み止まらせていた。悲しみに暮れるなら、そんな思いをするくらいなら、レイドは言い留まる事しか選択できなかった。せめて、せめて護るくらいなら、レイドにもできるだろう。



 ちなみに、アストロは気付いていたりする。エンドローゼにもレイドにも言っていないが。自分のことを棚に上げて、進展がないことにイライラしていたりする。



 レイドはさらに悩んでいた。



 アシドやコストイラ、シキは楯役を無視して特攻することだ。本来、レイドは皆の前に立ち、攻撃を防ぐことで攻撃のチャンスを作る役だ。しかし、皆攻撃が来る前に仕留めてしまおうとしている。役目と噛み合っていない。



 自分の役目が本当に要るものなのかを悩んでいた。変えたとき、前衛が1人、中衛が3人になってしまう。



 後日、採用された。















 全員が同じように悩み、全員が全然違う悩みを抱えていた。互いに打ち明けることなく溜め込む。信頼していない証だ。外部から定められた目標に向かって進む歪な勇者たちは、魔王城へと邁進する。その後のことなど何も考えないまま。魔王討伐が齎す効果など知らぬまま。山を登る足はこれからの激しい戦いを思ってか少しだけ重い。



 不思議なほど魔物が出ない山道は一種の不気味さを持っていた。勇者のパーティになった日から毎日出会っていた魔物に遭わない。これが普通であるはずなのに、目指すべきもののはずなのに、違和感を覚えてしまった。それが異常なことだと気付けない。冷静であろうとするアレンも、細かいところに気付くアストロも。誰もが気付けない。



 これまでの道のりで自分たちが変わっていってしまった。徐々に変化する心の在り様は変化がゆっくりであったためか気付けていない。



 戦う必要のない争い。倒す必要のない相手。正常な状態であるなら判断できただろう事柄も判断できなくなっていた。指摘する者がいれば止まれただろうか。負けが続けばこうはならなかったのだろうか。



 おそらくそんなことはなかっただろう。指摘されていても時間をかけてこの状態になっていた。汚染は止まらないのである。



 アレン達は人と魔王領の境目とされている山を登る。数々の強敵を思い、あるいは心躍らせ、もしくは身を震わせた。山を登り切ったアレン達は決戦の地、魔王領を見下ろしていた。
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