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8.魔王インサーニアを討て
36.戦う理由
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戦況を変えることができるのは戦場をよく見て行動できるものだろう。少なくともコストイラはそう信じている。
だからこそ常に前に出て、自分を盤上に置き、コントロールする。計画の変更も柔軟に対応できた。
コストイラは今回も戦況を動かす。
先のアシドの攻撃によりマントには攻撃が通らないのを見抜き、見える背からでは仕掛けない。叢で息を潜め、タイミングを待つ。
攻撃が来ない。
インサーニアは先ほど食らった魔術を放ったものを探す。インサーニアは魔力を使って明かりをつけようとして止める。逆に探しづらそうだ。
インサーニアは自身の周りに魔力の塊を出現させ、空中に停滞させる。紫色の魔力はすでに日の落ちる5分前の空間においては見えづらくなっている。インサーニアは試しに一発、先ほど魔術師が見えた位置に打ち込む。
短い爆発音とともにコストイラは叢から飛び出す。気付かれていない。遅れて風が届き、髪が僅かに靡く。背からでは刃物が効かぬなら使う必要もない。足に力を込める。視界の端が光った。淡い光だ。
『ぬ?』
インサーニアがそちらを向こうとする。その前に跳び、広い背中を蹴り倒す。あの光はエンドローゼの回復魔法によるものだ。邪魔をさせてはいけない。魔力の塊が一斉にコストイラに向く。集中砲火を浴び、煙を上げながら弧を描き地面に落ちる。
インサーニアは体を起こし、コストイラを見ると、次に光った方に視線を移す。もうすでに光がない。
『ふむ』
コストイラに視線を戻すともうそこにはいない。ダァンと音がして、インサーニアの視線も動く。槍だ。こちらに跳んできたのは槍だ。
『ぐッ』
速い速度でこちらに向かってくるアシドにインサーニアは咄嗟に紫の竜巻を放つが止まらない。竜巻を貫く槍をこれ以上止める手段を講じている暇はない。インサーニアはマントにくるまり、やり過ごす。
しかし、刺さらずとも押し込まれる感覚はある。内臓に走る痛みに顔を歪めそうになるが、押しとどめる。足を振り上げ、アシドの体全体に膝を叩き込む。魔王はイライザと違い魔術だけではなく体術にも精通していた。
身を宙に投げ出されたアシドに掌底を当てようと腕を引くと、バキャリと肘を折られる。
コストイラだ。優先順位を変動させる。右手でコストイラを叩き落とすように覆い被せ、押し潰す。手を離すとコストイラは血を吹き、地面にめり込んでいた。ここで油断しない。重力を増させる。インサーニアの耳にもバキリと骨が折れる音が聞こえた。しかし、終わらせない。張り手を何度も降らせる。
「るぅあっ!」
掛け声を聞き、攻撃を中断し、離れる。先ほどインサーニアがいた場所には大剣が通り過ぎる。
「大丈夫っではないっ!?」
コストイラの姿を見て、レイドは顔を青くする。
インサーニアがレイドに左腕を向けると、トス、と軽い音がした。音は左腕に刺さったナイフからのものだ。追撃は、なし。急いでコストイラを見るが、まだそこにいる。まだ間に合う。地面を舐めるようにすれすれな位置から繰り出される張り手。しかし、掌に衝撃が走る。
コストイラが折れた腕で刀を、折れた体を駆使し、掌を半ばまで斬ったのだ。インサーニアは眉間に皴を刻み、ゴリ押しで張り飛ばす。レイドはコストイラを庇いコストイラを傷付けさせないようにバウンドする。
魔力の塊を展開するが、魔術とぶつかり爆発。ついでに誘爆。煙を鬱陶しげに振り払う。晴れた視界にはアシド。間に合わない。覚悟を決める。
大丈夫だ。私は図体がでかいのだ。
槍が刺さる。痛いが、問題はない。掴もうとすると、アシドはインサーニアの体を蹴飛ばし離脱する。
『なぜそうも邪魔をする』
インサーニアは息を整えながら、口での交渉を試みる。まぁ、ただの時間稼ぎに過ぎないが。
『まさか貴様等は我々が侵略でもしているとでも思っているのか?』
侵略だろうと誰もが思った。
『私が攻撃してきた土地はすべてが元々は我々のだったところだ。領土を取り戻す。これは侵略ではない、奪還だ。なさねばならぬことだ』
インサーニアの言葉に熱が篭る。
『成し遂げるまで、誰にも邪魔させない。父も祖父も成せなかった夢は私で終わらせる。息子には負わせない』
パァンと手を合わせる。
『ここで退場願おうか、勇者一行』
言うと、上から流星群が降ってきた。隕石は木々を薙ぎ倒し、視界を広げていく。レイドはコストイラを担ぎ、逃げ、エンドローゼの元に急ぐ。開けた場所にはインサーニア、アシド、シキの3人。アシドは真正面に立ち、シキは様子を窺う。
『聞いてなお、立つか』
「あぁ、普通なら逃げてるさ。でもな、アンタは理解できねェだろうが、立たなきゃいけねェ。オレは勇者の一人だからな」
汗を垂らしながらアシドは努めて軽く返す。インサーニアはゆるゆると首を振る。
手を翳すと、アシドが走り出す。魔力の塊を撃ちまくるが、アシドの速さには間に合わない。シキは無駄に跳ばず、インサーニアの足元を走る。
『ぐむっ!?』
インサーニアは裏拳気味にシキをキャッチする。バキベキと握り潰そうとし、骨を折っていく。内臓が傷ついたのかシキの口からは血が出てくる。自由に動く左手にナイフを握り、思いっきり振り下ろす。
インサーニアはシキの体をアシドに投げつける。そして命中。アシドはそのまま巻き込まれ、叢に消えていく。
隕石が降り注いだ。
『やったわ!命中よ。絶対命中したわ!』
「よかったねー」
「煙すごくてオレには分っかんねェんだけど」
ものすごく興奮するイライザに、カレトワは冷めた調子で返し、ロッドは自前の望遠鏡で戦場を観察するが、状況が見えない。
コウガイはイライザに殴られた箇所をアスミンに診られながら窓の外、戦場を見る。
「参加したいな」
「駄目だよ」
呟きはすぐさまアスミンに否定される。コウガイはアスミンに訴えるような眼をするが、アスミンに睨まれてしまった。
『コウガイッ!』
「はい」
アスミンを横にどけると前に出る。
『このまま一気に片を付けるわよ』
興奮し頬を赤くした生き生きとしているイライザを見て、あと何回殴られるのだろうかと想像し溜息を吐いた。
だからこそ常に前に出て、自分を盤上に置き、コントロールする。計画の変更も柔軟に対応できた。
コストイラは今回も戦況を動かす。
先のアシドの攻撃によりマントには攻撃が通らないのを見抜き、見える背からでは仕掛けない。叢で息を潜め、タイミングを待つ。
攻撃が来ない。
インサーニアは先ほど食らった魔術を放ったものを探す。インサーニアは魔力を使って明かりをつけようとして止める。逆に探しづらそうだ。
インサーニアは自身の周りに魔力の塊を出現させ、空中に停滞させる。紫色の魔力はすでに日の落ちる5分前の空間においては見えづらくなっている。インサーニアは試しに一発、先ほど魔術師が見えた位置に打ち込む。
短い爆発音とともにコストイラは叢から飛び出す。気付かれていない。遅れて風が届き、髪が僅かに靡く。背からでは刃物が効かぬなら使う必要もない。足に力を込める。視界の端が光った。淡い光だ。
『ぬ?』
インサーニアがそちらを向こうとする。その前に跳び、広い背中を蹴り倒す。あの光はエンドローゼの回復魔法によるものだ。邪魔をさせてはいけない。魔力の塊が一斉にコストイラに向く。集中砲火を浴び、煙を上げながら弧を描き地面に落ちる。
インサーニアは体を起こし、コストイラを見ると、次に光った方に視線を移す。もうすでに光がない。
『ふむ』
コストイラに視線を戻すともうそこにはいない。ダァンと音がして、インサーニアの視線も動く。槍だ。こちらに跳んできたのは槍だ。
『ぐッ』
速い速度でこちらに向かってくるアシドにインサーニアは咄嗟に紫の竜巻を放つが止まらない。竜巻を貫く槍をこれ以上止める手段を講じている暇はない。インサーニアはマントにくるまり、やり過ごす。
しかし、刺さらずとも押し込まれる感覚はある。内臓に走る痛みに顔を歪めそうになるが、押しとどめる。足を振り上げ、アシドの体全体に膝を叩き込む。魔王はイライザと違い魔術だけではなく体術にも精通していた。
身を宙に投げ出されたアシドに掌底を当てようと腕を引くと、バキャリと肘を折られる。
コストイラだ。優先順位を変動させる。右手でコストイラを叩き落とすように覆い被せ、押し潰す。手を離すとコストイラは血を吹き、地面にめり込んでいた。ここで油断しない。重力を増させる。インサーニアの耳にもバキリと骨が折れる音が聞こえた。しかし、終わらせない。張り手を何度も降らせる。
「るぅあっ!」
掛け声を聞き、攻撃を中断し、離れる。先ほどインサーニアがいた場所には大剣が通り過ぎる。
「大丈夫っではないっ!?」
コストイラの姿を見て、レイドは顔を青くする。
インサーニアがレイドに左腕を向けると、トス、と軽い音がした。音は左腕に刺さったナイフからのものだ。追撃は、なし。急いでコストイラを見るが、まだそこにいる。まだ間に合う。地面を舐めるようにすれすれな位置から繰り出される張り手。しかし、掌に衝撃が走る。
コストイラが折れた腕で刀を、折れた体を駆使し、掌を半ばまで斬ったのだ。インサーニアは眉間に皴を刻み、ゴリ押しで張り飛ばす。レイドはコストイラを庇いコストイラを傷付けさせないようにバウンドする。
魔力の塊を展開するが、魔術とぶつかり爆発。ついでに誘爆。煙を鬱陶しげに振り払う。晴れた視界にはアシド。間に合わない。覚悟を決める。
大丈夫だ。私は図体がでかいのだ。
槍が刺さる。痛いが、問題はない。掴もうとすると、アシドはインサーニアの体を蹴飛ばし離脱する。
『なぜそうも邪魔をする』
インサーニアは息を整えながら、口での交渉を試みる。まぁ、ただの時間稼ぎに過ぎないが。
『まさか貴様等は我々が侵略でもしているとでも思っているのか?』
侵略だろうと誰もが思った。
『私が攻撃してきた土地はすべてが元々は我々のだったところだ。領土を取り戻す。これは侵略ではない、奪還だ。なさねばならぬことだ』
インサーニアの言葉に熱が篭る。
『成し遂げるまで、誰にも邪魔させない。父も祖父も成せなかった夢は私で終わらせる。息子には負わせない』
パァンと手を合わせる。
『ここで退場願おうか、勇者一行』
言うと、上から流星群が降ってきた。隕石は木々を薙ぎ倒し、視界を広げていく。レイドはコストイラを担ぎ、逃げ、エンドローゼの元に急ぐ。開けた場所にはインサーニア、アシド、シキの3人。アシドは真正面に立ち、シキは様子を窺う。
『聞いてなお、立つか』
「あぁ、普通なら逃げてるさ。でもな、アンタは理解できねェだろうが、立たなきゃいけねェ。オレは勇者の一人だからな」
汗を垂らしながらアシドは努めて軽く返す。インサーニアはゆるゆると首を振る。
手を翳すと、アシドが走り出す。魔力の塊を撃ちまくるが、アシドの速さには間に合わない。シキは無駄に跳ばず、インサーニアの足元を走る。
『ぐむっ!?』
インサーニアは裏拳気味にシキをキャッチする。バキベキと握り潰そうとし、骨を折っていく。内臓が傷ついたのかシキの口からは血が出てくる。自由に動く左手にナイフを握り、思いっきり振り下ろす。
インサーニアはシキの体をアシドに投げつける。そして命中。アシドはそのまま巻き込まれ、叢に消えていく。
隕石が降り注いだ。
『やったわ!命中よ。絶対命中したわ!』
「よかったねー」
「煙すごくてオレには分っかんねェんだけど」
ものすごく興奮するイライザに、カレトワは冷めた調子で返し、ロッドは自前の望遠鏡で戦場を観察するが、状況が見えない。
コウガイはイライザに殴られた箇所をアスミンに診られながら窓の外、戦場を見る。
「参加したいな」
「駄目だよ」
呟きはすぐさまアスミンに否定される。コウガイはアスミンに訴えるような眼をするが、アスミンに睨まれてしまった。
『コウガイッ!』
「はい」
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