メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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10.境目果て

13.星の灯る大樹

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 今のような、夕方の薄暗い時間帯は昼と夜が混在する不思議な時だ。世間一般ではオオマガトキ、もしくはオウマガトキと言う。禍々しい時だったり魔物に出会いやすい時だったりという意味だったはずだ。アレンも聞きかじった情報なのでよくわかっていない。

 こんな言い方をするということは、この時間帯を多くの人がネガティブに考えているということだ。

 アレンはそんなことはない。

 アレンはこの時間が好きだ。太陽と星が一度に見える幻想的な風景が見れる。太陽が地平線に近づくにつれ、星が一つ、また一つと輝きだす。

 何と素晴らしい光景だろう。雪原というのもその光景の幻想さを増させていた。

「おい、アレン。何で足止めてんだよ」

 コストイラから一喝もらい、アレンは現実に戻される。現実に戻っても綺麗なものは綺麗だな。

「いえ、景色に見惚れていて」
「………オレはあんま好きじゃねェな。何て言えばいいのか分かんねェけど、光と闇が戦っている気がしてな」
「光の方が好きですか?」
「………闇の方が好きさ」

 ではなぜ嫌うのだろうか。コストイラが前を向くとき、どこか寂しそうな眼をしていた。

「あの樹、光ってないか?」

 アシドが槍を一本の木に向ける。少し小高い丘に一本だけ大樹が立っていた。その太い枝先から星の光が見えており、これまた幻想的だ。この樹の下で告白されたなら誰でも首を縦に振ってしまうだろう。

 その樹の下には人がいた。

 腰まで届く長い紫の髪。右手には剣を携えており、樹を眺めているためこちらには気付いていない。ロマンティックだもんね、しょうがないよね。

「待て。アイツ、羽生えてないか?」

 コストイラの指摘通り、その人には羽が生えていた。2対1組の蝶の羽の端を少し尖らせたような羽。この世界には人間以外にも人と呼ばれる種がいる。エルフやドワーフは街でよく見かけることがある。

 人の中には羽を有する種がいる。鳥人や虫人、東方の方では天狗がいる。一部の精霊には羽がある種がいる。

 羽があるだけでは魔物かどうかは分からない。用心に越したことはないが、話しかけるのも悩む。

「ゆっくり行きましょう。敵か味方か分かりませんからね」
「賛成だな」

 さっさと雪を踏み移動する。どんなにゆっくり移動しても音が鳴ってしまう。佇んでいた人の肩がビクリと揺れた。こちらを向いてくる。咄嗟に身を伏せ、姿を隠そうとする。

 しかし、エンドローゼは鈍臭かった。

 人の眼にエンドローゼの淡い紫色の髪が映った。人の足元が爆発を起こし、こちらに走ってくる。

「エンドローゼッ!」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい!」

 アシドに名を呼ばれ、エンドローゼは全力で謝る。少女の謝罪ごと斬り潰そうとする刃をコストイラが止める。

「アレンッ!」

 コストイラの叫びにアレンはすぐさま返す。

「エインセル! 魔物です!」
「っしゃあっ!」

 コストイラはエインセルの腹を蹴り、距離を取らせる。エインセルは雪に降り立ち、足を取られバク転する。顔を上げるとコストイラがすでにその距離を詰めていた。

『フッ』
「ふんっ」

 刃が交わり、火花が散る。エインセルの脇腹に痛みが走る。いつの間にか近づいていたシキがナイフで少女の脇腹を切り開いたのだ。傷口からはオレンジと黒の混じった煙が漏れ出す。そちらに気を取られていた間にコストイラが素早く刀を横薙いだ。

 エインセルがそれに気づいたとき、視界がズレた。エインセルの頭が雪原に落ち、雪を赤く染めていく。

 エンドローゼが小さくなっている。もの凄い勢いで反省している。流石にアシドも攻めきれない。アシドがガリガリと頭を掻く。

「次は気をつけろよ。それでいいだろ」
「………………ハイ………」

 アシドは明後日の方を向き顔をしかめる。エンドローゼとは仲良くなったつもりだが、未だに分かんないことがある。反省のタイミングや感情なんかがそうだ。正直面倒だ。コストイラはよく苛立っている、今もか。

 回復に対する執念もか。

 どうしてなのか気になるが話してくれようとしたことはない。無理に聞き出そうとすることはしないつもりだ。必要とあれば聞きたい。
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