メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
211 / 684
12.世界樹

4.龍使いの塔

しおりを挟む
 洞窟を抜けると、そこは砂漠だった。

 テスロメルの旅手記を真似したが笑い話にならない。あっちは抜けた先が雪山。いや、過酷さはどっちも変わらないかもしれない。それを笑い話にしたテスロメルは流石なのだろう。

 とにかく、今僕らの目の前には砂地が広がっており、明らかに何かある塔が建っていた。

「休みたいところだが、さて」

 コストイラも戦闘が行われる可能性が高い塔に悩む。流石にこれまでの経験からいって戦闘がないなんてことはないだろう。塔に近づくと気付かされる。塔には龍の顔が彫られている。扉のノブにも龍の頭があしらわれており、塔の住人の変態性が見えてくる。

「ドラゴンばっかりだな」
「絶対一家言あるな」
「またドラゴンか。疲れるわね」

 3人の幼馴染は遠い目をする。

「スルーするという手がありますよ」
「いやー。それは勇者として大丈夫なのか?」

 勇者。コストイラの言葉が深く刺さる。この場にいる誰もが勇者を分かっていない。勇者とは何なのか。誰も正解は分からない。

『オオオオオオオオ!!』

 上から声が落ちてくる。それは大きく、そして神々しくもあった。

 白き龍。ホーリードラゴンが空にいた。ホーリードラゴンはその空色の眼で睥睨し、様子を窺っている。
 違和感があった。これまでの魔物は瞳の色がオレンジ色だったが、この個体は空色だ。何かに操られているのだろうか。

『オオオオ!』

 上からドラゴンブレスが落とされる。僕達は慌てて中心地から逃げる。しかし、余波に当たり、体が浮く。運動神経のいいシキやアシド、コストイラ、レイド、アストロはうまく体をコントロールして着地する。

 僕とエンドローゼは手足をバタバタと動かし、体をコントロールしようとするが、無様に顔から着地する。

「ぺっぺっ」

 顔を上げて必死に口内の砂を吐き出す。エンドローゼはレイドに抱え上げられ、僕は何もされない。嘘でしょ?これって何がいけないの?人望?能力?どっちにしろ悲しくなってきちゃうな。

 ホーリードラゴンはすでに次のブレスが充填されていた。

 僕は変な体勢で走り始める。前を走るアシド達を追う。アシド達は塔の中に避難する。

 ドラゴンがブレスを吐き出す。どんどんと背中に迫ってくる。
 ヤバイ。追いつかれる。
 背中に衝撃が走る。ブレスとはまた違う衝撃だ。僕は転げながら塔内に入る。

 バタン。

「大丈夫か?」
「は、はい」

 扉を閉じたレイドが質問し、僕は息を切らしながら答える。

「何とか間に合いました」
「いや、背中の方は」
「そういえば凄い衝撃でしたね。今もまだちょっと痛いですね。レイドさんが何かしてくださったんですか?」

 背中を触ろうとするが、柔軟が足りず届かない。悲しいことに硬すぎる。

「ごめんなさい」

 シキに謝られた。何かされたのだろうか。心当たりがない。

「間に合わんかもしれんから、オマエの背を蹴飛ばしたのだ」

 なるほど。僕はシキに助けられたわけだ。

「ありがとうございます」

 お礼を言うと、シキの目が見開かれる。ここ最近、シキの表情が分かってきたような気がする(気のせい)。

「アレン」
「はい?」
「アレンは蹴られて喜ぶ人?」

 え? 何を言っているんだ?

「ち、違いますよ!?」
「でも、今ありがとうって」
「それは助けてくれてありがとうという意味で」
「そう」

 シキはアストロの方へ行ってしまう。正しく理解してくれたのだろうか。
 ドゴンと扉が開いた。玄関とは別の扉だ。ドラゴンがわんさか出てきた。

「は?」
「逃げろ。流石にこの数は無理だわ」

 ドラゴンの数は未だに数えきれない。玄関の扉の前にもドラゴンが陣取っている。逃げ道が階段しかない。

「ひーひー」
「ふぇーはー」

 体力のない僕とエンドローゼは早々に速度低下していた。つまりは体力が尽きたのだ。レイドは左手に楯を持ち替えると、右腕でエンドローゼを抱えた。あれ?僕は?

「頑張りなさい。死にたくなければね」

 アストロに鞭打たれ、階段を走る。僕が醜いのに対し、アストロは駆け上がりながら魔術を放っていた。逃げながらも階段を上ってくるドラゴン達に牽制していた。

「なんで、そんな、ことが」
「鍛え方が違うのよ。貴方は口ではなく足を動かしなさい。力尽きるまで」

 凄い人だ。僕には真似できない。

「上限だ」

 アシドは一番上にあった階段の先の扉を開け放つ。

『ヌゥン。まさかここまで来るとは』

 そこにいたのは龍の頭骨を被り、小さなドラゴンのあしらわれた杖を持った、6mはあろうか巨人だった。頭骨から覗く薄オレンジ色の瞳は、こちらを睨み、杖につけられた空色の宝玉を輝かせた。






 魔力の塊が複数出現し、発射される。
 レイドはエンドローゼを後ろに置くと、楯で防ぎ、残りをアシド、コストイラが弾く。

 次の瞬間、後ろの扉が爆発した。大量の竜が姿を見せる。

 それに対し、アストロが大量の水で押し流す。ブルードラゴンだけは踏みとどまった。シキは先頭の青竜の尾を掴むと、その細腕のどこから出ているのかもわからぬパワーで投げ飛ばす。巻き込まれた青竜は階下へ消えていった。

『ヌゥン。これまでとは。ならば』

 ドラゴンマスターが杖を振るうと、再び空色の宝玉が光る。

「階下は?」
「来てない」
『ヌゥン。馬鹿め』

 ドラゴンマスターの後ろの壁が壊れる。
 その瞬間、視界が真っ白に染まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...