メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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12.世界樹

16.導かれて……

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 再び聖龍に突っ込んだ。しかし、敵の蔓は切れていない。敵の蔓はディケイドスの蔦よりも硬いということだ。

 シキは白瓏石の爆弾の付いたナイフを投げる。ソッと軽い音がした。木に当たった音ではなく、薄い木の皮に当たったような音だ。爆弾は予定通りに爆発する。
 空いた穴からゾルッと粉が落ちた。木の粉だ。ディケイドスの粉だ。内部で養分を吸い取り、自らの養分にしたのだ。

『ゴォン』

 重々しく、厳かな声だ。口内が広く響きやすいのだろう。

『ヒュォオオオ』

 クリフォトの口内に空気が溜まっていく。アストロはその口内に炎を入れる。内部には空気があり、燃えるものがいっぱいある。爆発的に燃え、炎は大きくなり、クリフォトの口内は大規模な炉となる。

「よし、燃えた!」

 アレンがガッツポーズをとる。非難囂々な視線が集まる。何も終わってねェだろと言わんばかりだ。
 クリフォトは口内に溜め込んだ空気を一気に吐き出す。空気には炎が纏わりついており、火炎放射になっている。アストロも炎を出し、相殺しようとする。

 しかし、相手の方が威力が高く、押し切られてしまう。間にレイドが入り込み、楯で防ぐ。月天石で作られた白銀の透き通るような楯は魔術を軽減し、何とか息吹を受け止める。クリフォトの口の端から黒い煙が出ている。アシドは横から攻撃し、炭化した部分を砕き、削ぎ落す。

 蔓がうねり、空中にいたアシドの体を強打する。骨がボキメキと折れる音が聞こえ、内臓を掻き回され、血の尾を引きながらホーリードラゴンに突っ込んだ。入れ替えるようにコストイラが飛び出してくる。
 パキパキと音を鳴らし、蔓をしならせる。フゥーとコストイラは短く細く息を吐く。コストイラは先ほど弾き飛ばされている。鍔迫り合いになったら負ける。しかし、咄嗟になんて声を出したらいいのか分からない。結果、出るのは名前だけだった。

「コストイラさん!」

 コストイラはアレンの言葉に反応することなく、蔓を相手する。コストイラは光り輝く刀を振るい、蔓に合わせた。刃は蔓に入り込み、見事に両断してのける。

「なっ?」
『ゴォア!?』

 味方も、そして敵も驚かせた。先ほどは折れなかった蔓を、コストイラは魔力を用いて断ってみせた。アストロはもう一度炎を出す。今度の狙いはクリフォトではなく、その足元の木の粉。ディケイドスの残骸に火を着けることで焚火のようにクリフォトを燃やす。

 足元に気を取られたクリフォトの口内へと飛び込み、内壁を駆け上がる。燃えたことでボロボロになった内側が剥がれていく。コストイラは落ちないように加速していき、核まで辿り着く。ここまで来ると剥がれはしない。コストイラは思い切り踏み込み、飛び上がり、光る刀で真っ二つにする。

 二つに分かれた核から、内側に入っていたとは思えないほどの煙が噴き出る。オレンジと黒を混ぜたような煙は勢いが強く、体重が75㎏はあるコストイラでさえ真横に飛ぶ。
 クリフォトの胴の中央あたりに位置する穴から遠くの穴まで時間差で煙が噴き出す。地上15mあたりの鼻の横の幹が壊れる。煙が飛び出し、同時に人の体が見えた。

「コストイラさんです」
「レイド、キャッチ!」
「よし」

 背中を強かに打ち付けたコストイラは、手足が痺れていた。手足を動かし落下に抗うことができない。アレンが目視で確認するとアストロが水魔術を出しながらレイドに指示する。コストイラは一度水に包まれ、勢いが殺された状態でレイドの腕の中に入る。コストイラは顔を左右に振り水を払う。腕はだらんとしたままだ。

「高所から水面はマジ痛い」

 声が震えていた。それだけ痛かったのだろう。

「当たり前だろ。下手すりゃ骨折、最悪の場合内臓ブチ撒けてたぞ」

 アシドが頭に乗っていたホーリードラゴンの内臓の破片を摘まみ取る。

「こ、こ、コ、コストイラさんもな、な、治します」
「大丈夫? エンドローゼも無茶してない?」
「だ、大丈夫です」
「……信じるからね」

 顔の節々から疲れが見え隠れしているエンドローゼが駆け寄り、コストイラに回復魔法をかけていく。アストロはエンドローゼを心配し、彼女はアストロに嘘を吐く。アストロは嘘を見抜きつつも、あえて指摘しない。
 エンドローゼの髪の先端が白くなっている房が増えている。まだ気にならない程度だが。やはり無茶をさせてしまっているのだろうか。

「ここで焚火をしましょう。一夜を明かしながら次どこに行くか決めましょう」
「じゃあ、燃やすための木を集めねェとな」

 復活したコストイラが薪を集めようとするが、袖をエンドローゼが掴む。

「あ、安静」
「あ、はい」

 コストイラは一切抵抗することなく、木の根に座った。こういう時のエンドローゼは誰よりも強い。コストイラやシキでさえ素直になるし、アストロでさえこっそりとすらも行動しない。






 パチッと火花が跳ねた。

 太陽はすっかりと姿を消し、夜の帳が下りていた。コストイラを座らせていた時に、シキは単独で薪を集めていたようで、乾いているちょうどいい長さの木が上から落ちてきた。
 皆が戦っている間、シキはクリフォト上部で蔓を相手していたらしい。姿が見えなかった理由はそういうことか。

 言いたいことはいくつかあるが、とりあえず一つ。

「ありがとうございます。手間が省けました」
「ん」

 お礼を言う。シキは小さく頷いた。

 パチッと火花が跳ねた。

「おい、アレン。何ボーっとしてんだよ」
「あ、すみません」

 アレンはアシドの言葉で現実に戻り、手元の地図に意識を向ける。

 現在アレン達は次の目的地を決めていた。全員が真剣な顔をして通ってきた道に印をつけ、行っていない所を洗い出していた。いや、全員ではなかった。エンドローゼは舟を漕ぎ、アストロの肩を枕にしようとしている。アストロは鬱陶しそうな顔をしているが、抵抗していない。

「皆」

 これまで沈黙していたシキが口を開く。

「私はこれまで、流されるがままに生きてきた」

 シキの言葉に皆が傾聴する。

「流れて流されて、ただ何となく生きてきた。目的もなく旅していた。皆が決めた目標を私の目標だと置き換えて、私は生きていた。でもようやくやりたいことが分かった」

 長文を滔々と喋るシキを初めて見たので少し目を張る。珍しさに皆は口を閉ざし聞き入る。

「私はもっとみんなと旅をしたい。もっと皆と一緒にいたい。だから、皆に付き合ってほしい」

 無表情なままだが、シキの顔は覚悟に満ちているように見える。最初に答えたのはコストイラだった。

「ったりめぇだろ。オレだって暴れ足んねェしよ」
「同じだ。むしろどうして今別れると思ったんだ?」
「むしろ私から言おう。共に旅をしよう」
「アンタそんなことを考えていたの? 馬鹿ね。むしろアンタが音を上げるぐらい付き合ってあげるわ」
「わ、私はお、お荷物かもしれませんが、す、末永くよろしくお願いします」
「どこまでもは実力的に分からないですが、いけるところまでずっと一緒にいましょう」

 コストイラは右腕で力こぶを作り、左手でパシンと叩いた。アシドは少し前屈みになり、シキの顔を見る。レイドはようやく信頼されたのかと思い、嬉しそうに言う。アストロはシキの成長を見守る父母のような眼と、馬鹿なことを考えていたシキへの怒りを混ぜた顔でシキを見る。エンドローゼは眠気を飛ばすように顔を振り、最高の笑顔を見せると頭を下げた。アレンも笑顔をシキに向ける。

「ありがとう」

 シキはこんな時でも無表情だった。
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