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13.魔界

1.魔界の街

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 アシドは酒瓶片手にタランネの街をふらふらと歩いていた。ほろ酔いである。体がふらふらとしていて気持ちいい。上等な酒が手に入ったのでコストイラ、レイドあたりと二次会でもしよう。

 それなりの人が歩き、行き交う繁華街を、迷惑にならないように歩く。ふらふらと千鳥足のようになっているが、しっかりとした足取りだ。見る人が見ればそこまで酔っていないことが分かるだろう。
 上機嫌で歩いていると、見知った男を見つけた。白髪で刀を佩いた強いオーラを放っている男。あれでも相当抑え込んでいるのだろう。以前では感じられなかった強さを感じられるということはそれだけ強くなったということだろう。

 アシドはヲルクィトゥと再会した。






 シキが本音を吐露した翌日、一同は次の目的地を決めることにした。

 世界樹は東の端であるとテスロメルの『旅手記』に書かれているため、南に行くか北に行くかで悩んだ末、シキの一存で南下することになった。
 道中は特筆すべきことが一つも起きず、平和の一言に尽きた。魔物を倒すのも平和なのかという議論は置いておく。

 強いてあげるなら、エンドローゼが淡い紫色の髪の先端が白くなっていくことを気にしていた。アストロとレイドが必死にフォローしていた。
 街へすんなりとは入れた。街の名前はタランネと言うらしい。

「タランネか」
「ん? 何か知ってんのか?」

 ポツリと呟いたレイドにアシドが反応した。

「タランネといえばジョコンドの槍があるとされている街だ」
「聖槍、だっけか」
「ジョコンドといえばあの”英雄”だよな」
「そいつの槍がねェ」

 アシドが槍という単語に反応し、コストイラは勇者の名に反応する。アレンも街内を見渡すがジョコンドの槍があるように見えない。

「ジョコンドの槍があるのでしたらもっと大々的に観光名所とか宣伝があってもいいと思うのですが」
「確かに」

 街は人で溢れ、栄えていることは分かったのだが、分かりやすいシンボルは見当たらない。

「宿をとってもう休みましょうか。後は自分の時間にしましょう」





 アシドは美味い酒で夜を明かそうとして酒屋を探していた。そんな折にヲルクィトゥを見つけた。

「よォ、ヲルクィトゥさん」
「ふむ? おぉ、久しいな。君がここにいるということは全員がタランネに来たということか。君達がここまで来れたこと不思議ではない」
「アンタもここにいたんだな」
「うむ。少し身骨を休めていたのだ」

 アシドがキョロキョロと見当たす。

「茶でも飲みながら話さねェか?」
「ふむ。よし、しようか」

 アシドとヲルクィトゥは2人、夜までやっているカフェに入る。窓際の席に案内される。

「コーヒーで」
「では私も同じものを」

 コーヒーが来るまでの間、少し静かになる。アシドがコーヒーが来たタイミングで口を開く。

「……オレ達はよォ、この街に来たばっかりなんだけどよ、何かいい観光名所ってあるか?」
「ふむ。少し前ならばジョコンドの槍があったのだが、別の場所に移されたらしい。まぁ真相は分からないがな」
「もうないのか」

 コーヒーを一口含む。

「最初からない」
「は?」
「タランネの街には最初から本物ではなくレプリカしかない」
「そのレプリカすらなくなったのか」
「うむ」

 コーヒーを一口。

「何でそんなこと知ってるんだ?」
「本物の場所を知っているからだ。今はそいつが所持している。そいつが手放すのは考えづらい」
「どういう関係なんだ?」

 ヲルクィトゥはコーヒーシュガーを直接口の中に流し込む。

「昔本気で殺し合った仲さ」

 沈黙が流れた。アシドは沈黙が苦手だ。かといって何を話せばいいのか分からない。コストイラ達といる時は話せるのだが、そうか、コストイラだ。

「……天之五閃」
「ふむん?」
「ヲルクィトゥさんは天之五閃って知ってるか?」
「剣技を学ぶ者ならば一度は耳にしたことがあるのではないか?」
「その内、個人名は?」
「…………分からないということにしておいてくれ」
「……良いさ」

 表情一つ一つに気を配り注意していたが、嘘を吐いている感じはない。本気で隠したいのだろう。

「君達がより強者を目指すのであれば闘技場へ行くといい」
「闘技場?」
「うむ。この街の先に地より下へ続く道があってな。そこを下へ行くと冥界、さらにその下に奈落がある。その奈落に闘技場がある。勝てばそれなりの金きんが手に入る。負ければどうなるかは知らない。私は負けたことがないのでな」
「闘技場か。ありがとうな。聞いてばっかりだし、そっちからの質問に答えるぞ」
「そうだな」

 ヲルクィトゥはコーヒーを飲み下す。

「勇者の責務とは何だろうな?」
「難しい質問が来たな」

 アシドは顎を手で撫で、ふ~むと悩む。

「そんなに悩むならば別に答えを出さずとも良い」
「いや、答えるよ。勇者は勇気を示すのが責務だ」
「勇者と英雄は意味が違う」

 アシドは何が言いたいのか分からなかった。ヲルクィトゥの珠色の目が真剣のように鋭く、アシドを見つめる。

「ジョコンドは”英雄”だ」
「あぁ、そういう二つ名を持っているな」
「では、ジョコンドは勇者だったのか?」
「魔物を倒す力を示した。ヒトの身で魔物に抗うのを見せた点でいえば勇者なんじゃねェのか?」

 ヲルクィトゥは首を横に振る。

「その功績は主にアスタットのものだ」
「魔大陸の侵攻は?」
「それは確かにジョコンドの功績だが、それは勇者のやることの本質か?」
「……あ?」

 アシドには小難しい話は分からない。ただ、ヲルクィトゥの話に混乱してしまった。ヲルクィトゥはジョコンドを勇者として見ていない?

「勘違いしてくれるなよ。ジョコンドは正しく勇者であった」

 ヲルクィトゥは数枚の硬貨をテーブルに置くと、ゆっくりと立ち上がった。

「いい話し合いができた。礼を言おう。ありがとう」

 ヲルクィトゥがいなくなったカフェでアシドはもう一杯のコーヒーを頼んだ。

「そういえばオレこんなにコーヒー飲んで明日大丈夫かな?」

 心配をしながらもコーヒーを口につけた。
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