メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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14.冥界

2.沈みかけの湿原

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 不快感を覚えることというのは人によって違う。おかゆが好きな人がいたりする一方、お米が水分を吸って美味しくないという人がいたり、お米を汚したことに不快感を覚える人もいたりする。

 アレン達7人は全員が不快感を覚えることに向き合っていた。水だ。踝まで水に浸かっており、靴まで侵食していた。

 ホキトタシタは不快感を顔に出さず先頭を歩いている。足元を見てみると、浸水しなさそうなブーツのような靴を履いていた。

「すまないな。現在は東方の方が沈んでいてな。こんな地形が少し続くんだ」
「何かあったんですか?」
「詳しくは言えない。我々の仕事は秘密にするべきこともあるからな。まぁ、今対処しているところだ。近いうちに解決するよ」

 ホキトタシタは鼻の付け根の傷を左の人差し指で掻く。アストロは鋭く舌を打った。靴を脱ぎたくても下が砂利道であるため、足裏を切ってしまうかもしれない。

「この水は我慢してくれ」

 宥めるように言うホキトタシタにもう一度舌を打つ。これで怒られないのは、隊長の心が広いからだろう。違う人なら敵対していたかもしれない。

 今ここにいるメンバーは勇者一行の7人と自衛隊隊長ホキトタシタと隊員2人の計10名だ。隊長が先頭を歩き、隊員2名が殿を務めている。

 最初に気付いたのはホキトタシタだった。剣を半ばまで抜き、何事もないかのようにスルーする。
 次に気付いたのはアレンだった。何かいることに気付き、目を凝らす。6mくらいあるだろうか。気にしては低い方の高さだが、同時に人型である点を見ればデカいだろう。

「魔物がいることに気付いたか。ちょっと確認をば」
「木みたいな魔物です。女性もいるような気も」
「あ、何とかはここからでも見えるのか」
「アレンです」

 まだ覚えてもらえていないらしい。

「冥界で植物の魔物と言えばドライアドだけだな。ドライアドはその体に含まれている宝玉3つの内1つが本体だ。他2つは意味がない」
「燃やしちゃダメなの?」
「別にいいけど」

 ホキトタシタは微妙な顔をして、頬の傷を掻く。燃やしても宝玉は燃えないからリアクションに困っているようだ。

「ところで、危険なの?」
「ドライアドは冥界の中だと中の上ほどの危険性だ。縄張り内に入っている生き物はすべて栄養だと考えている」
「ちなみにこの位置は?」
「……縄張り内かな」
「もっと早く言えよ!」

 コストイラに突っ込まれ、申し訳なさそうな顔をしている。立ち上がろうとすると、ドプリと脚が沈んだ。足元の砂利が泥に変わっていた。

『アッ!!』

 ドライアドの口のような器官から音波が発せられ、水面が波打ちアレン達が飛ばされる。何かがアレン達を受け止めた。凄い柔らかい何かだ。アレンが視線を向けると、緑色の網だった。それはドライアドの蔦だった。
 ドライアドの蔦が解け、一人一人を絡め取っていく。シキは僅かな隙間からぬるりと脱出していく。コストイラは蔦を焼き切る。アシドとアストロそしてホキトタシタも脱出する。レイドは蔦を切ろうとするが、一層絡めとられビクともしなくなる。エンドローゼとアレンは非力のため抵抗虚しく絡めとられた。隊員も抵抗しても解けなかった。

 5人が引き込まれる。このまま栄養にされてしまうかもしれない。

 アシドは一気にトップスピードになり、蔦に追いつき、その一つを切り離す。アシドが繭のようになっている蔦をお姫様抱っこで受け止める。パラりと蔦が捲れ、中身が見える。助けたのはエンドローゼだった。アシドの横をシキとコストイラが抜ける。水に足が取られ速度が出ない。その横をホキトタシタが追い抜いていく。見るとホキトタシタの足は水に沈んでいなかった。水面を地面のように走っていた。
 ホキトタシタは蔦の繭を通り過ぎ、ドライアドの宝玉を狙う。迫りくる蔦を切って自身の進む道を作る。繭を切り取りながら見ていたコストイラはその美しい剣技を睨んでいた。ドライアドとの戦いに慣れているのか、剣技に悩みも迷いも惑いもない。そして目の前にある宝玉を無視する。宝玉を足場にして女型の頭の後ろに隠れていた宝玉を斬り壊す。

『アアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 女型が叫んで自分の顔を覆う。頭の先、木の頂点から体が崩れていく。蔦の繭も消え去り、中にいた人たちも解放される。

「あの程度、お前らなら何とかなるだろう。何身を任せてんだよ」
「ちょっといいか」

 部下を叱る隊長の元にコストイラが歩く。ホキトタシタは言葉を止め、コストイラを受け入れる。

「何だい?」
「何で本物を見つけられたんだ」
「というと」
「何で目の前の奴じゃなくて頭の後ろの奴を真っ先に狙ったんだ?」

 アッと今気付いたような顔でホキトタシタが固まった。眼だけを動かして部下に助けを求める。部下は視線を逸らした。こいつ人望がないのか、舐められているのか。

「しょうがない。私はこれが使えるんだ。君達の仲間にもいるだろう。似たようなことができるやつがさ」

 ホキトタシタの目がぐるぐると渦巻いており、色は彩色に変わっていった。コストイラにも分かるほど瞳に魔力が篭る。確かにアレンでもたびたび見たことある。

「魔眼か」
「産まれた時に宿っていたらしい。私はそれなりにいい家の出でね、赤ん坊の時に調べたら、その時には魔眼と分からなかったが、人とは違うことは分かっていたんだ」

 目を閉じ、魔眼を解除して目を開けた。

「魔力の消費が激しいので、解除させてもらうよ。まったく、私の全盛期には魔力何てなかったんだがね」
「え?」

 両目を閉じ、過去を回顧するホキトタシタ以外が動きを止める。魔力がない時期なんてあったのか。

「知らなかったか? 魔力が観測されたのは確か500年前ほどだったかな」
「お前年齢いくつだよ」
「私はすでに約800年ほど生きているよ。まぁ冥界にいる時点で生きているのかという問題があるんだけどね」

 アストロが何か考え込んでおり、俯いていた顔を上げた。

「魔力の前って何があったんだ」
「当時は神力と呼ばれていたな。扱えるものは僅かしかおらず、使える者は選民、特に素晴らしいものは神選民と言っていたよ」
「それは今でも一部で言われているわ。私も育ての親に選民だと呼ばれていたもの。でも、今は大半が知らないわよ」
「……そうなのか」

 ホキトタシタは少し寂しそうな顔をしていた。気付くと、10人は薄霧に包まれていた。
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