242 / 684
14.冥界
3.有害な湿原
しおりを挟む
突然だが、自衛隊の隊員2人の説明をさせてほしい。
一人は青紫色の肌をした戦士風の男だ。隊長が言うには自衛隊の中では中堅あたりらしい。剣を振る速度を見ると限りではレイドと同じぐらいだろう。魔術を見ていないので強さは分からない。
もう一人はピンクの肌をした細身の男。隊長が言うには戦士風の男と比べて強いらしい。武器はレイピアであり、振る速度は速いがパワーがない。最初から魔術を使用しており、戦闘スタイルから、魔術剣士だと分かった。
青紫の男はペデストリ、ピンクの男はアンデッキという名前だ。隊長の名前もそうだが、どうしてこうも覚えづらいのだろう。ホキトタシタのことが言えなくなってしまうので間違えたり、忘れたりはしない。
現在、薄霧に包まれているとはいえ、全員の姿が見えていた。支障はなかった。未だに踝が浸かっており、不快感は消えない。そして、魔物と戦っていた。相手はドラゴンであり、その姿はレッドドラゴンを黒くしただけである。名前も安直でブラックドラゴン。
噛みつきに来るドラゴンの頭をアンデッキが風を纏ったレイピアでかちあげる。晒される黒い首をアシドが貫く。ゆっくりと下ろされる剣はブラックドラゴンの頭に当たり、頭蓋骨を割り、中身を噴き出させる。コストイラは刀に炎を纏わせ、2,3匹を纏めて処理する。
「君達の戦士もやるな」
「貴方の方こそ。あと戦士ではなく冒険者ですよ」
「おっと、そうか」
ホキトタシタとアレンは互いを見ずに会話する。
「君達は参加しないのか?」
「僕達の役割は支援なので」
「そうか」
残りのブラックドラゴンが3匹になり、やられないように飛び上がる。翼を大きく羽ばたかせ、風を起こす。霧が晴らされ、視界が明瞭になる。
少し体が飛ばされるが、これはありがたい。アレンは矢を番え、アストロは指を向けた。魔術は矢よりも速くドラゴンに辿り着き、2匹のドラゴンが地に堕ちる。後を追うように空を駆ける矢が1匹のドラゴンの眉間に刺さる。1本では堕ちなかったがもう1本の矢が右目を射抜き、今度こそドラゴンの体が落ちる。
「おおっ!!」
その光景に数人が感嘆の声を上げる。少し違和感を覚えたホキトタシタは口角は上がったままだが、眉根を寄せて首を捻る。
「これは何の拍手だ?」
「魔物に矢を当てることができたことに対する拍手よ。ようやくまともに当てているのを見たわ」
「そういうレベルだったのか」
ホキトタシタは憐みの目をアレンに向ける。隊長は魔眼を開き、アレンの体内の魔力の流れを見る。魔眼を解除しながらアレンに近づく。
「アロイ。何で弓を射る時にその眼を使わないんだ」
「目ですか? ちゃんと目を開けてましたよ? あと僕はアレンです」
「すまん、かへん。目って魔眼のことだよ」
「何でそれを。あと僕はアレンです」
「すまん、あへん。私も魔眼を持っているからだよ。使ってみたら新たな発見があるかもしれないぞ」
「アドバイスありがとうございます。あと僕はアレンです。覚える気ないなら呼ばなくていいですよ」
アドバイスはありがたいが、正しく名前を呼んでくれないので、真面目に聞く気にもなれない。しかし、改めて考えてみる。魔眼を使いながら弓を射る。正直考えたことがないわけではない。魔力の消費が激しく、発射前に倒れたことがあり、それ以来やっていない。
しかし、あの時は魔力を消費しながら、魔力を使う技を行使しようとした。今回考えているのは魔力を消費しながら、魔力を使わない技を行使することだ。
「ちょうどあそこに魔物がいる。あれに向かってやってみよう。外しても襲われてもこっちがフォローしよう。やってみろ、アリストクラシー」
「もうここまで来ると、わざとだろ」
アレンは無理のある間違いに辟易しつつ、弓を引き絞る。魔眼を発動させる。矢を摘まむ指に自然と力が入る。初めてのことで息も浅くなる。ポンと誰かに肩を叩かれる。目だけを動かすと、シキがいた。呼吸のスパンが短くなるアレンに、シキはいつもの調子でただ一言ポツリと呟いた。
「大丈夫」
その言葉でアレンは一度大きく深呼吸をして呼吸を整える。集中しているからか、魔物の動きがゆっくりに見える。心臓がどんどんとうるさい。無視する。腕が震える。無視する。足も震えている。無視する。
そして一筋の汗がアレンの左目に入った。ブシュッと鼻血が噴き出し、右指から矢が離れる。矢はくわんくわんとたわみながら、2m先の水面にぶつかり、沈んでいく。アレンは後ろに倒れた。アレンの体をシキが受け止める。鼻血がぽたぽたと落ちていく。
「オイ、アレン、大丈夫か」
「今のでドライアドがこっちに気付いたぞ」
アシドがアレンに近寄り、頬をペチペチと叩くが、反応しない。コストイラとレイドがアレンを守るように前に立つ。
「集中しすぎたか?」
ホキトタシタがアレンの顔を覗き込みながら分析する。
「オイ、隊長。責任取れ」
「仕方ない。私の提案だからな。フォロー頼むぞ」
「しゃーねー」
頭を掻きながら剣を抜き、前傾姿勢を取る。
「アシド」
一言添えて走り出すコストイラに、アシドが後を追うように走る。すでに駆けだしていたホキトタシタを追い抜き、ドライアドの蔦を叩き飛ばす。蒼いオーラを纏うアシドと炎を纏うコストイラが拓いた道をホキトタシタが走り抜けていく。前から来る太い蔦に怯えることなく、最低限の高さの跳躍で躱し、蔦の上を最高速で駆けていく。
ドライアドは迫りくるホキトタシタに咆哮を一つ浴びせようとする。隊長は腰元につけていたナイフを投げ、ドライアドの首に命中させる。
ゴボガボと口から血が溢れ出ており、声が出ない。ドライアドがナイフを抜こうと気を取られてしまう。ホキトタシタはドライアドの女型の横を抜け、木の中に入っていく。中に入って30秒後ドライアドが悶え始める。オレンジと黒の混じった煙が噴き出されていく。ボロボロと体が崩れていく。灰になる体の中からホキトタシタが出てくる。
体を叩いて灰を払っているが、髪にも灰が乗っている。ドライアドの討伐は毎回大変なのだ。
一人は青紫色の肌をした戦士風の男だ。隊長が言うには自衛隊の中では中堅あたりらしい。剣を振る速度を見ると限りではレイドと同じぐらいだろう。魔術を見ていないので強さは分からない。
もう一人はピンクの肌をした細身の男。隊長が言うには戦士風の男と比べて強いらしい。武器はレイピアであり、振る速度は速いがパワーがない。最初から魔術を使用しており、戦闘スタイルから、魔術剣士だと分かった。
青紫の男はペデストリ、ピンクの男はアンデッキという名前だ。隊長の名前もそうだが、どうしてこうも覚えづらいのだろう。ホキトタシタのことが言えなくなってしまうので間違えたり、忘れたりはしない。
現在、薄霧に包まれているとはいえ、全員の姿が見えていた。支障はなかった。未だに踝が浸かっており、不快感は消えない。そして、魔物と戦っていた。相手はドラゴンであり、その姿はレッドドラゴンを黒くしただけである。名前も安直でブラックドラゴン。
噛みつきに来るドラゴンの頭をアンデッキが風を纏ったレイピアでかちあげる。晒される黒い首をアシドが貫く。ゆっくりと下ろされる剣はブラックドラゴンの頭に当たり、頭蓋骨を割り、中身を噴き出させる。コストイラは刀に炎を纏わせ、2,3匹を纏めて処理する。
「君達の戦士もやるな」
「貴方の方こそ。あと戦士ではなく冒険者ですよ」
「おっと、そうか」
ホキトタシタとアレンは互いを見ずに会話する。
「君達は参加しないのか?」
「僕達の役割は支援なので」
「そうか」
残りのブラックドラゴンが3匹になり、やられないように飛び上がる。翼を大きく羽ばたかせ、風を起こす。霧が晴らされ、視界が明瞭になる。
少し体が飛ばされるが、これはありがたい。アレンは矢を番え、アストロは指を向けた。魔術は矢よりも速くドラゴンに辿り着き、2匹のドラゴンが地に堕ちる。後を追うように空を駆ける矢が1匹のドラゴンの眉間に刺さる。1本では堕ちなかったがもう1本の矢が右目を射抜き、今度こそドラゴンの体が落ちる。
「おおっ!!」
その光景に数人が感嘆の声を上げる。少し違和感を覚えたホキトタシタは口角は上がったままだが、眉根を寄せて首を捻る。
「これは何の拍手だ?」
「魔物に矢を当てることができたことに対する拍手よ。ようやくまともに当てているのを見たわ」
「そういうレベルだったのか」
ホキトタシタは憐みの目をアレンに向ける。隊長は魔眼を開き、アレンの体内の魔力の流れを見る。魔眼を解除しながらアレンに近づく。
「アロイ。何で弓を射る時にその眼を使わないんだ」
「目ですか? ちゃんと目を開けてましたよ? あと僕はアレンです」
「すまん、かへん。目って魔眼のことだよ」
「何でそれを。あと僕はアレンです」
「すまん、あへん。私も魔眼を持っているからだよ。使ってみたら新たな発見があるかもしれないぞ」
「アドバイスありがとうございます。あと僕はアレンです。覚える気ないなら呼ばなくていいですよ」
アドバイスはありがたいが、正しく名前を呼んでくれないので、真面目に聞く気にもなれない。しかし、改めて考えてみる。魔眼を使いながら弓を射る。正直考えたことがないわけではない。魔力の消費が激しく、発射前に倒れたことがあり、それ以来やっていない。
しかし、あの時は魔力を消費しながら、魔力を使う技を行使しようとした。今回考えているのは魔力を消費しながら、魔力を使わない技を行使することだ。
「ちょうどあそこに魔物がいる。あれに向かってやってみよう。外しても襲われてもこっちがフォローしよう。やってみろ、アリストクラシー」
「もうここまで来ると、わざとだろ」
アレンは無理のある間違いに辟易しつつ、弓を引き絞る。魔眼を発動させる。矢を摘まむ指に自然と力が入る。初めてのことで息も浅くなる。ポンと誰かに肩を叩かれる。目だけを動かすと、シキがいた。呼吸のスパンが短くなるアレンに、シキはいつもの調子でただ一言ポツリと呟いた。
「大丈夫」
その言葉でアレンは一度大きく深呼吸をして呼吸を整える。集中しているからか、魔物の動きがゆっくりに見える。心臓がどんどんとうるさい。無視する。腕が震える。無視する。足も震えている。無視する。
そして一筋の汗がアレンの左目に入った。ブシュッと鼻血が噴き出し、右指から矢が離れる。矢はくわんくわんとたわみながら、2m先の水面にぶつかり、沈んでいく。アレンは後ろに倒れた。アレンの体をシキが受け止める。鼻血がぽたぽたと落ちていく。
「オイ、アレン、大丈夫か」
「今のでドライアドがこっちに気付いたぞ」
アシドがアレンに近寄り、頬をペチペチと叩くが、反応しない。コストイラとレイドがアレンを守るように前に立つ。
「集中しすぎたか?」
ホキトタシタがアレンの顔を覗き込みながら分析する。
「オイ、隊長。責任取れ」
「仕方ない。私の提案だからな。フォロー頼むぞ」
「しゃーねー」
頭を掻きながら剣を抜き、前傾姿勢を取る。
「アシド」
一言添えて走り出すコストイラに、アシドが後を追うように走る。すでに駆けだしていたホキトタシタを追い抜き、ドライアドの蔦を叩き飛ばす。蒼いオーラを纏うアシドと炎を纏うコストイラが拓いた道をホキトタシタが走り抜けていく。前から来る太い蔦に怯えることなく、最低限の高さの跳躍で躱し、蔦の上を最高速で駆けていく。
ドライアドは迫りくるホキトタシタに咆哮を一つ浴びせようとする。隊長は腰元につけていたナイフを投げ、ドライアドの首に命中させる。
ゴボガボと口から血が溢れ出ており、声が出ない。ドライアドがナイフを抜こうと気を取られてしまう。ホキトタシタはドライアドの女型の横を抜け、木の中に入っていく。中に入って30秒後ドライアドが悶え始める。オレンジと黒の混じった煙が噴き出されていく。ボロボロと体が崩れていく。灰になる体の中からホキトタシタが出てくる。
体を叩いて灰を払っているが、髪にも灰が乗っている。ドライアドの討伐は毎回大変なのだ。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる