メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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14.冥界

4.水の溢れる洞窟

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 パシャリパシャリと水を踏みながら先を目指す。急に魔物も出なくなった。ところどころに見えていた幽霊も見ない。

「この近くに何かあんのか」
「この近くは、東方と南方の境界で我々自衛隊も滅多に寄り付かない」
「何がいんだよ」
「前に話した1,2を争う魔物の一角のドラゴンがいる。今は別のところにいるらしいから、今のうちに通るんだ」
「ドラゴンは総じて能力が高いもんな」

 先頭を歩いていたホキトタシタが立ち止まる。何か話しかけようとすると、隊長は行動を開始した。何かを警戒するようにキョロキョロとして、改めて目の前の洞窟を見る。隊長の顔が厳しい。やはり何かがあったのだ。

「どうかしたのですか?」
「予想外のことが起きている。まさかここがそうだったなんて」
「何のことだ?」

 核心を話さないホキトタシタにコストイラが苛立つ。

「我々の足元の水は出所が不明で、解析を急いでいたが、洞窟の中から水が出てきている。まさか原因はこの中か」
「原因自体は何か分かってんのか?」
「……いや。魔物の仕業か、人為的なものか、はてまた自然現象か。まったく絞り込めていない。シュルメ様は魔物ではないかと予想していらっしゃったよ」
「面倒事か」
「そう言わないでくれよ」

 コストイラの辟易とした表情を見て、ホキトタシタも苦笑いした。
 洞窟の入り口から広かった。幅は40m強、高さは30m弱はある。広さは十分であり、洞窟だと思う要素は少なかった。

「ん?」

 シキが壁の一点を見つめる。アレンが最初に気付き、話しかける。

「どうかしましたか?」
「ん。何かに見られている気がした」
「僕達以外にはいませんが」
「ん」

 すでに視線を感じないので確かめようがない。シキは一つ可愛らしく首を傾げるが、スパッと切り替えて洞窟の奥へと向かっていく。
 取り残された壁の一部がパチリと開き、ギョロギョロと目玉が動いた。そしてパタリと目が閉じた。







「あ、ア、ア、アレンさん。た、たい、た、体調はどうですか?」
「え?」

 エンドローゼに言われて、手を開閉したり、力こぶを作ったりして確かめる。少しダルさが残っていたが特に問題ない。左手の痺れはいまだ健在で右手の火傷痕の突っ張り感は残っている。体調でいえば大丈夫だが、体の具合は平気ではない。

「体調とかは特に問題ないですね」
「さっき倒れた、心配」

 ズイッとシキが近づいてきてアレンの腕に触れてくる。アレンはドキリとして顔が赤くなる。

「耳まで」
「女の方はきっとその気がねェぞ、あれ」
「アンクルの奴も大変だな」
「……そうだな」

 アレン達に聞こえない声量でコストイラとホキトタシタが会話する。シキとの関係の進展のなさと、名前を覚えてもらえない不憫さに、コストイラは溜息を吐いた。ぎこちなく左手を握るアレンを見てぺデストリが話しかけてくる。

「拳を握るのがツラそうですが」
「魔物にやられて痺れているんです」
「右手の痕は」
「昔、仲間の炎に当てられて」
「なぜ満身創痍なのに冒険を続けるのですか?」

 聞かれて初めて、冒険を諦めるという選択肢が出てきた。なぜ冒険を続けているのか?決まっている。流れだ。アレンは結局流され続ける男だ。他に理由があるとするのなら、好きな人がこのメンバーで冒険を続けたいと言ったからだ。好きな人の前では良い恰好をしたいものだ。
 しかし、本人の前で言うのは恥ずかしい。何と言うべきか。30秒ほど考えると、答えを導く。

「未知のものと出会えるのが好きだからです」

 一番の理由ではないが、嘘ではない。そう答えるとぺデストリは悲しげな顔を浮かべる。

「私の姉も似たようなことを言ってどこかに行ってしまいました。今頃、どこかで身を固めてくれていると良いんですがね」
「どこを目指すか、行っていたのですか?」
「たしか魔大陸だったと思います」

 誰も何も言い返せなくなった。当然だ。魔大陸は過去挑んだ者は何人もいたが、戻ってこれた者はほんの一握りという場所なのだ。”英雄”ジョコンドのパーティ、”異世界人”ゴート、”無力”ヌネのパーティ、そして”竜鱗の刃”シムバの計12人しかいない。それほどに過酷な環境だ。生きて帰ってきた者達は一様にして住むのに適していない環境だと語っている。生きて帰ってくる可能性もそこで住んで生き残っている可能性も、限りなく0だ。

「シッ」

 ホキトタシタから静かにするように命が下った。先頭集団はもう止まっていた。身を屈めていたので、釣られて身を低くする。

「魔物の気配がある。そっと偵察できる奴はどれくらいいる」
「シキ、アシド、アレンか」
「じゃあ、こっちのアンデッキを加えた4人で偵察に行ってくれ」






 号令を出せる人がいる。指示をされるのがこんなにも楽だとは思わなかった。ホキトタシタがずっとリーダーをしてくれると助かるが、そうもいかないだろう。
 アレン、シキ、アシド、アンデッキの4人は身を低くしながら、小走りで移動していた。

「どうだ、アレン。分かるか?」
「駄目です。やっぱり姿を実際に見ないと駄目ですね」

 アシドから確認され、アレンは首を振る。アンデッキには2人が何をしているのか分からず眉を顰めたが、それを聞くのは時間の無駄だと判断し、見守ることにした。シキは前方に少し歩き、安全を確保すると、他3人に手招きする。ゆっくりと素早く、慎重かつ大胆に移動していき、ついに魔物を見つける。

「見えるか?」
「あの奥の壁みたいなもの。あれ、魔物の肌ですね」
「マジかよ、デケェ」
「あれが、ですか。よく分かりませんね」

 目の前に見える魔物に畏怖の念を抱きながら、名前を確認する。アンデッキがぶつけてくる疑問に心の中で同意しつつ答えを探る。アンデッキに瞳を真っ直ぐに見つめられる。相手は同姓とは思えないほど超美形で少し戸惑ってしまう。そのアンデッキ越しにシキが明後日の方を見ているのが分かった。

「シキさん? どうかしましたか?」
「ん。何かに見られている気配があった」
「またですか?」
「ん」

 何かは分からないまま、曖昧に頷いて終わらせてしまう。

「おい、ヤベェぞ」

 焦ったようなアシドの声で振り返ると、巨体を持つ魔物が動きだしていた。表面に生えていた苔をパラパラと落しながら明らかにこちらに体を向けようとしている。擦り続けているからか腹は血が滲んだような色になっており、背の暗紫よりは鮮やかに見える。こちらをギロリと見つめる目は酸漿にような赤と美しいオレンジが同居していた。というか、目がこちらを見ている。

「ヤベェぞ。気付かれてる。アンデッキ、足に自信はあるか?」
「えぇ」
「よし、走るぞ」

 アシドは号令を出すと、真っ先に走り出す。アンデッキは風を纏って走り出す。シキはアレンをお姫様抱っこすると、一気にトップスピードになる。あれ? 普通男女逆じゃない?しかし、足がシキの60%ほどしかないアレンは下ろしてとも言えない。






 偵察部隊を待っていたホキトタシタとコストイラがピクリと眉を上げる。両者ともに臨戦態勢に入るように、己の武器の柄に触れる。

「コストイラ?」
「来る」

 余計な質問はしなかった。空気のあまり読めないエンドローゼでさえ、息を呑み、偵察部隊が消えた道を見つめる。

 まず出てきたのはアシドだった。トップスピードに至るアシドはコストイラでさえ目撃するのがやっとなのだ。エンドローゼの反応できる速度の3倍は超えるスピードで現れたアシドはアストロに言う。

「アストロ! 超大型だ!」

 アストロは、その報告を聞き、いつも準備する量よりもさらに多い魔力を練り始める。

 次いでシキが現れる。もはや地面すら走っておらず、アレンを抱えたまま40mも向こうの壁に着地する。下ろされるよりも早くアレンは見つけた魔物の名を口にする。

「八岐大蛇です!」

 その瞬間、アンデッキが出てきたかと思うと、横道が爆発し、大きな蛇の頭が飛び出した。
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