メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
247 / 684
14.冥界

8.死者ばかりの里

しおりを挟む
 冥界において、生きている者は少ない。聞くところによると、ずっと行動を供にしているホキトタシタも死者の状態に近いようで、正確には生きていないそうだ。
 とはいえ、生きている者もいる。管理者団体に属する者、ぺデストリとアンデッキもここに区分される。2人は魔族であるため、寿命も長いそうだ。
 さて、冥界にいるほとんどが死者ということは、洞窟を抜け、真っ先に見えた人間も死者であり、幽霊ということだ。幽霊がおり、死者系統の魔物もいるが、こちらを襲ってくる様子もない。それどころか積極的に掃除をしていたり、魔物の討伐をしていたりしている。

「どうなってんだ、これ?」

 コストイラの呟きに声に出さずとも皆が同意した。一人、ホキトタシタだけは溜息を吐いた。

「言っても聞かないんだ。意味ないって何度も言ってんだけどな」
「どういうことだ?」

 コストイラが聞くと、ホキトタシタは両手を腰を当て、憐みの眼を幽霊達に向ける。

「ここ冥界には死者が集まり、裁きを受けるまでの時間を過ごす」
「本で読んだことがあります。天国に行くのか地獄に行くのかが決まるって」

 ホキトタシタは大きく頷く。

「その裁く基準はどれだけ良いこと、悪いことをしてきたのかだ。これは生前が全てであり、死後、冥界の出来事は含まれない」
「何か凄ェこと聞かされている気がするぜ」

 アシドが驚愕に表情を固まるが、ホキトタシタは気にせず続ける。

「死後、この冥界にはある噂が広がった。悪いことをしていると地獄に堕ちるとな」
「噂? 事実じゃないの?」

 アストロが首を傾げる。ホキトタシタは肩を竦めた。

「この噂には重要な部分が抜けている」
「重要な部分?」
「そう、生前ってところだ」
「あぁ」

 何かを察せたアストロは納得したような声を出し、幽霊達に憐みの目を向けた。察しの悪いアレンとエンドローゼは目が合うと、同時に肩を竦めながら首を傾げた。

「つまり、あの幽霊達は今から善行を積んでも意味ないのに、それを必死にしているってことね」
「そうだとも。それをいくら指摘しても、この噂が消えないのだ。まったく、誰が流したのか」

 噂というのは自分の都合のいいものほど浸透しやすい。ここにいる人達は天国に行って救われたいという人が多いが、それが叶わぬ願いであると分かっているのだ。理性で無理だと判断で来ていても、精神が不安であり、少しでも安心できる材料を揃えたいと考えているのだ。

「言いたいこと聞いたぜ。今からでも良いことめっちゃするか」
「ハァ」

 アシドが茶化すように言うとホキトタシタは溜息を吐く。とりあえずアシドはホキトタシタを睨みつける。

「何の溜め息だよ」
「君は勇者だろ? やる事成す事が善行でなければいけない存在だ。今更だろ、意識するなんて」

 納得してしまったアシドはぐぅの音も出ず、口を噤んだ。

「早速、勇者らしいところを見せてくれよ。ほら、あそこ。困っているようだぞ」

 今度はホキトタシタが茶化すように言う。しかし、示す指先にいる魔物は本当に困っているようだ。アレンと同じほどの身長の二足歩行の犀。その逞しい体にはシェンティとネメスしか身に着けられていない。

「そこのダークマージ。ちょっといいか?」
『え?』

 呼ばれたダークマージがこちらに顔を向けると、動きを止め、目を丸くした。よく考えたら、今話しかけたホキトタシタは冥界の№2と呼び声の高い存在だ。一般管理者の者が目にする機会など式典ぐらいしかなく、話ができるなど一生の内にない者の方が多いのだ。
 いきなり気軽に話しかけられるなど、夢と思っても仕方のないことだ。ダークマージは一度キョロキョロと他にダークマージがいないか探す。自分しかいないと分かると、自分の頬を抓ろうとした。犀の皮膚が硬く、不発に終わり、次の作戦として自分の頬を思い切り叩いた。ダークマージはあまりの痛さに蹲った。

 ホキトタシタは眉間に皴を寄せた。

「何しているのか分からないが、話をしても?」
『は、はい! 申し訳ございません! ホキトタシタ様に無用な時間を過ごさせてしまいました』
「それはいいけど、何か今、困ってなかった?」
『え、あ~~。い、いえ。何も、あ、な、ないですよ?』

 明らかな嘘だ。誰がどう見ても分かる。ホキトタシタは笑顔のままグイっと顔を近づけた。ダークマージは短く悲鳴を上げ、観念したように力を抜く。

『実は、私や彼女の仕事仲間があの高台のところにある祠に行ったっきり戻って来ないのです。我々は見に行くかどうか悩んでいまして』

 ダークマージの視線がホキトタシタからゾンビフェアリー、高台を経てもう一度ホキトタシタに戻ってくる。視線を向けられたゾンビフェアリ―は気付かず、パタパタと飛び回っている。

「祠。冥界にも神頼みがあんだな。一体何が祀られているんだ?」
「シュルメ様とフォン様だよ」

 ホキトタシタの答えに新たな疑問が浮かぶ。シュルメは分かる。彼女は冥界の女王だ。問題はフォンの方だ。

「トッテム教がいるんですか?」
『とって? 違う。私達は全員がガラエム教かシラスタ教だ』

 ではなぜフォン様の像を? と思ったが、それを聞く前に遮られる。

「よし、祠だな。我々が見て来よう。行くぞ」

 打ち切るようにホキトタシタが言い、足早にそのその場を去った。






『おや? グレイちゃんじゃないか。どうしたんだい、こんなところに一人で』

 狐の面をした少女が銀髪の少女を見つける。銀髪をした少女は、狐の面をつけた少女を見つめ返す。

『散歩です。ずっと篭りっぱなしですと体に悪いので。貴方の方こそ、どうしてここに?』
『ん? 意味は特にないかな。ただ、ディーノイから逃げてただけだし。うん』

 面のせいで表情が見えないが、おそらくしたり顔をしているだろう。その様は容易に想像ができた。

『あまりディーノイさんに迷惑かけてはいけませんよ』
『だってアイツ揶揄うの楽しいんだよね』

 本当に楽しそうに袖をパタパタと振っている。銀髪少女は悲しそうな顔をした。

『どったの? そんな顔をして』
『いえ、私達ってよく幼く見えるって言われません?』
『え、言われるけど、どうした?』
『私、それを見た目だけだと思っていたのです』
『え、違うの!?』

 銀髪少女が自身の胸に手を当てながら、鈴のような声を紡ぎ出す。要領を得ない面の少女は眉根を寄せながらも丁寧に会話する。

『私達の幼さは仕草からも来ているのではないでしょうか』
『ぬぅわにぃ~~!?』

 面の少女が大袈裟に驚く。これは幼いというよりはお調子者だろう。

『で、でも、それでいったらグレイちゃんは大人っぽい喋りじゃないか。何で幼く』
『……体型』

 ボソリと呟かれる言葉に、面の少女は何も言い返すことができなかった。

『こういうのを気にしている時点で大人ではないのかもしれません』

 銀髪少女が悲しそうに目を伏せる。体型は諦めていて何とも思っていない面の少女は何も言えず、ただ、口をパクパクと動かす。

『こ、これからどうすんの? 散歩の続きかい?』
『そうですね。もう少し歩きます。貴方は?』
『お迎えディーノイが来たから、仕事の続きかな? もしくは、水晶を使って冥界とか奈落とか見てるかも』

 強引に話題を変えられたことなど気にせず、自然と会話を続ける。面の少女の視線の先にはハルバードを携えた青年が立っていた。もう会話も終わりのようだ。

『じゃあね。グレイソレアちゃん』
『じゃあね。フォン』

 2人は互いの掌を合わせると、そっと離し手を振って別れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...