メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
352 / 684
19.異想への海溝

6.荒波の崖路

しおりを挟む
 行きたい方向の崖が崩れている。ジャンプすれば何とかなるだろう。
 戻るための方向も崩れている。先の道よりも崩れているので危ないだろう。

「前に進むしかないわね」

 まだ本調子ではないアストロが、コストイラの背に負ぶわれながら、前を指さす。指の先では1人ぽつんと佇むアシドがいた。

「しゃぁねぇ。アストロ、しっかり掴まってろよ」

 コストイラの言うことを素直に聞き、抱き着く力を強める。むぎゅりと豊かな胸がコストイラの背で潰れ、コストイラが耳を赤くする。
 エンドローゼも負けじと背負ってくれているレイドに胸を押し付ける。しかし、悲しいかな。エンドローゼの胸は小さく、レイドは鎧を着込んでいた。

 とある月の土地でフォンが崩れた。

『ごめん。そればっかりは私じゃどうにもならないんだ!!』

 フォンが四つん這いで涙を流しながら床をドンドン叩いていた。流れが分かっていないディーノイは突然の奇行に白い目を向ける。流れが見えていないとはいえ、ディーノイはフォンの一番の理解者であるため、どうせあの淡紫色の少女のことでも考えているのだろうという予想を立てていた。
 コストイラは背負っているアストロに気を遣いながら、岸壁の中にある出っ張った岩に手をかけ、壁を伝って向こう側まで移動し始める。

「落ちたら死ぬ」
「そんなこと言うなよ。本当に落ちるだろ」

 アストロが本調子でないまま下を見て、顔を青くする。コストイラは伝うことに集中したいので竦めておく。レイドもコストイラの後を追って、エンドローゼを背負って岸壁を伝う。アレンは信じられない光景を見るように戦いている。

 コストイラが無事にロッククライミングを成功させる。レイドも成功させるのを見て絶望する。アレンはここを越えることができない。
 え、ここで旅は終了ですか?
 アレンが泣きそうな顔をしていると、お姫様抱っこで抱えられる。上を見るとシキの顔があった。

 やだ、かっこいい。
 アレンはきゅんとした。
 そんなアレンのことなど一切気付いていないシキが、助走をつけて大きく跳んだ。いつもより重い体だったにもかかわらず、無事向こう岸まで着いた。

 唐突なことで恐怖を感じたアレンは強くシキに抱き着いた。シキは手を離しているにもかかわらず未だに離れず抱き着いたままだ。シキはどうすればいいのか分からず、助けを求めるようにアストロを見る。
 アストロは面倒臭そうに溜息を吐いて、額に手を当てた。私に聞くな、と思いながらステイのハンドサインを出す。シキはアストロの言う通りに抱き着かれたままステイする。

 ふと、アレンが正気に戻った。今のアレンは片思いをしている相手に抱き着いて密着している。シュバッとシキよりも速く離れ、顔を耳まで真っ赤にしている。
 シキはなぜ顔を赤くしているのか分からず、可愛らしく小首を傾げた。

「よし、行こうぜ」

 コストイラがアストロを下ろしながら先に行くことを提案する。アストロは気分の悪さを溜息として吐きながら、1人で待っていて寂しくなっていたアシドの肩を叩く。壁に向かって体育座りをしていたアシドが、槍を掴みながらゆっくりと立ち上がり、アストロの後を追った。

 エンドローゼがレイドの背から下りると、顔を真っ赤にしながら小走りでついて行った。






 しばらくの間歩いていると、道幅が広くなってきた。広くなってきたということはそれだけ魔物と戦いやすくなったということだろう。
 駄目だ。考えの基準が戦うことになっている。

 いつからだ? いつからアレン達はこんなに卑屈になった? 勇者に認定される前はこんなんじゃなかったはずだ。

 いつからだ? いや、どこからだ? こんなに考えが傾いてきたのは?
 アレンは仲間達を見る。足を鳴らして崖路の安全性を確かめたり、自身の武器に指を這わせたりしている。

 駄目だ。皆も似たような思考なんだ。歩きやすいなぁとか、一段落しようとかではなく、戦いやすくなったとか、もっと大きな敵が出てくるかもしれないとか、そんなことを考えている。

 この思考は狂っているのか?
 狂っているのはどっちだ? アレンか? 皆か?

「どうした?」
「へぇ?」

 いつも通り半眼のシキを見て固まった。もしかしてシキはいつも通りなのか? それとも中身はもう狂っているのか?
 ザバーンと荒波が打ち寄せる音さえ耳に届かず、ただアレンは立ち尽くした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...