メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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20.シン・ジゴク

7.寒冷の責め苦

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 異常な速度で近づいてくる銀髪の少女に驚き、すべての目を向ける。また、レイドのように石にしてくるのか。アレンならば萎縮して動きを止めてしまっただろう。

 しかし、相手はシキだ。巷では感情がないのではないかと噂の勇者だ。自分に向く蛇の眼の半分近くを一瞬で潰した。
 ゴルゴ―ンの意識は痛覚ではなく驚愕に染まった。え、一瞬で何が起きたの?
 シキは左手を伸ばし、頭を失った蛇の胴を掴んだ。そのまま引っ張って体を近づける。そしてゴルゴ―ンの頭の半分を切りつけた。遅れてゴルゴ―ンに痛覚が訪れる。痛覚を押さえつけるように手を持ち上げた。

 シキの掴んでいたヘビの根元が剥げた。シキは宙に浮いた。皮膚を足場にして跳び、ナイフを振るった。ゴルゴ―ンの伸ばされた左手のうち、親指以外が切り飛ばされた。

 真正面にいたコストイラが人と蛇の境目を切った。血液とオレンジと黒の混じった煙が噴き出してくる。ゴルゴ―ンは引っ込めた左手で口元を押さえるが、隙間からオレンジの血液が溢れ出てくる。
 体をくの字に折って血液を吐き出す。それを見逃さずにアストロが魔力を放つ。切り取られなかった半分の蛇頭を焼き払う。

 ゴルゴ―ンの頭が跳ね上がり、腹が前に出される。コストイラはその腹を半分ほどまで斬った。反っている背がさらに反り、メリメリと骨が鳴り、ブチブチと肉や皮が千切れる。ゴルゴ―ンは天へと手を伸ばし、起き上がろうとするが、もう戻らない。
 ポキンと、いっそコミカルな音が鳴って骨が折れた。ゴルゴ―ンは昔の二つ折り携帯のように畳まれ、腹から内臓がドロドロと零れ出てきた。

「で、レイドは?」

 アストロは内臓の動きが止まるのを待たずに、慌てて後ろを向いた。






 石となった時の気持ちを答えられる者など、かなり稀だろう。ゼロであると言い切れないのは、今現在自分がそれを味わっているからだ。レイドは体全てが石となり、瞬きも出来ない体で、頭を回転させる。考えることは出来る。今もこうして考えることは出来るのだが、それ以外ができない。
 他の感覚はある。皮膚が石になっているが、内部までは石になっていないのだ。血液は通っており、神経が働いている。眼球は石に変わってしまっているため、レンズの役割がない。つまり視覚がない。何も見えないので他の感覚に頼るしかない。鼻や耳の穴は石化しておらず、嗅覚も聴覚も働いている。血や涙の臭いや戦闘やエンドローゼの泣く声が気持ちを焦らせてくる。クソッ! 今、どうなっているんだ!

 じわじわと石化していくのが分かる。臭いや音が遠のく感じがする。外部は一瞬で石化するが、内部はじわじわと石化するらしい。何とも厭らしい技だ。これがカトブレパスのものと同じなのか分からないが、気分のいいものではない。
 石化していてもエンドローゼの淡い光の魔力が感じ取れた。凄いな、エンドローゼは。最初にビクビクしていたのに、今はこんなにも頼もしく、パーティに欠かせない存在になっている。

 レイドの石化が解けた。

「これは」
「は、はぁはぁ。じょ、状態異常のか、回復魔法で治ってよかったです」

 額に汗を浮かべながら、エンドローゼが慈母のような笑みをレイドに向けた。レイドはドキリとした。その笑みがあまりにも今は亡き妹に似ていたのだ。
 数ミリ秒の硬直の後、レイドもエイドも笑顔を返す。

「ありがとう、エンドローゼ。君のおかげで助かった。本当にありがとう」
「そ、そ、そんな、おかげだ、だなんて」

 エンドローゼは両手を振りながら顔を真っ赤にして否定する。これは謙遜や謙虚から来るものではなく、本気でそう思っているのだ。レイドはエンドローゼの頭に手を置いた。

「で、レイドは?」

 アストロの声を聴いて、レイドが状況に気付いた。今、戦闘中じゃないのか?レイドがアストロの方を見ると、戦闘が済んだ跡が見える。

「凄いわね。石化も治せるのね」
「そ、そ、そんな、す、凄いだなんて」
「もう、何でも治せるわね」

 アストロが感心していると、エンドローゼが息を呑んで口を噤んだ。急に影が落ちて、アストロは首を傾げた。
 すると、ポコンとアストロの後頭部が叩かれた。アストロは叩かれた部分を押さえて振り返る。近くに誰もいない。これは誰の仕業だ?

「ご、ご、ごめんなさい」

 謝ったのはエンドローゼだった。

「ふ、フ、フォン様が申し訳ございません」

 アストロはエンドローゼを睨みつけた。正確には、その後ろにはた迷惑なストーカー神を。
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