メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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21.月の裏側

6.声も腕も魔力も

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 タジャンクは走った。
 己の未熟さや浅慮さを悔いながら。
 タジャンクは走った。
 後ろにいる悪魔から逃れるために。
 タジャンクは走った。
 ただひたすらに、生き残るために。
 タジャンクは走った。
 勇者一行のいる玄関ホールを目指して。




 ドタドタと扉の向こうから走る音が聞こえる。扉を開けるのを少し待ち、いったん距離をとった。

 1分、2分と経つと、バンと扉が開いた。出てきたのは金の仮面にワインレッドの外套を身に包んだ者だ。走っているような体勢をしているが、少し歪だ。どうやら左腕を押さえているようだ。

 その相手の姿に見覚えがあった。奈落で出会ったアークウィザードだ。身長は170㎝くらいだが、同じ種族だろう。
 アークウィザードが目の前にいたシキに対して、走りながら側転して蹴りを繰り出した。シキは上から来る脚に対して、腕をクロスさせて受け止める。そのままかち上げて、バランスを崩させる。

 タジャンクは目を丸くしながら距離をとった。その先にいるのはコストイラ。
 コストイラが刀を刀を薙ぐが、外套に阻まれる。外套には物理攻撃無効のバフがつけられている。その為、刀が何かを切った手応えが伝わらなかった。感覚としては切ったというより、叩いた、か。

 叩かれた勢いのままタジャンクが柱に突っ込む。この玄関にはなぜか柱が多く建てられている。建築について何も学んでいないアレンでさえ、なくても建ちそうな柱が多いことが分かる。何か理由があるのかもしれないが、見分けがつかない。

 柱の中からタジャンクが出てくる。外套から右手を出すと、金の仮面の縁を掴んだ。カパッと外すと、中からは骸骨の顔。予想できていたので驚かない。金の仮面は横に投げ捨てられた。

 カタカタと骨が鳴る。何か喋っているのだろうが、生憎アレン達の中に読心術に長けた者はいない。読唇術ができる者はいるが、骸骨の顔に唇という概念がないので、何も分からない。
 何も起こらないことに苛立ち、タジャンクが拳を握った。

「な、な、何か困っている?」
「あの感じ、声が出せないって感じね」
「加えて左腕がねェ」

 奇妙なタジャンクの行動にエンドローゼが疑問を持ち、アストロが違和感を述べ、コストイラが先程の攻撃から考察を話す。タジャンクはアストロの言葉に、首が取れるのではないかというほど縦に振り、コストイラの言葉には外套をはためかせて、半ばから先のない左腕を披露した。
 その行動にどこか苛つきを覚えたアストロが眉を上げるが、一応自制しておく。

「とりあえず会話ができそうにないから、はいかいいえで答えられる質問をしましょう」
「だな」

 全員がタジャンクを見つめる。質問がすぐに思い浮かぶわけではない。

「えっと、そうだな。まずは、最初叩いちまって悪かったな」

 タジャンクが首を振った。

「気にしていない?」

 今度は縦に振る。

「敵対の意思はある?」

 タジャンクは大きく横に振った。

「ディーノイって知っているか?」

 タジャンクが頷いた。

「ここに来た?」

 また頷いた。

「そ、そ、その傷はディーノイ様によるものですか?」

 タジャンクは大きく何度も頷いた。
 一瞬ディーノイを悪者扱いする言葉が脳内に思い浮かんだが、アストロは眉根を寄せた。どこか違和感がある。何か引っかかる。

「どうします?」
「何か悪い奴か分かんねェんだよな」

 アレン達が結論が出せずに悩んでいると、アストロが前に出た。

「貴方は罪を犯したことがある?」

 タジャンクが一瞬固まったが、すぐに首を横に振った。
 アストロは目を細めてタジャンクを見る。この反応は、隠し事をがバレたときかどうか微妙なサインだ。前者であれば真っ黒だ。後者であればグレーだ。

 タジャンクが首を傾げた。その様子がどこか媚びているようにしか見えない。瞳があれば検証ができるのだが、残念ながら相手が骸骨で、眼窩は伽藍堂だ。

 勇者パーティの中で人の感情の機微にすぐ気付くものがいる。その2人がこっそりにと動いた。

「ホント?」

 シキの念押しに激しく頷く。何かを隠すような仕草だ。勢いで何かをやり切ろうとしている。

「ふ、ふ、フォン様のことを好いていまーすか?」

 タジャンクが一瞬キョトンとしたが、何かを探るように頷いた。

 ――ダウトっ!!

 エンドローゼの頭の中で、フォンの声が響いた。
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