メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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22.月の都

14.月宮殿

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 ゴゴゴと厚さ10㎝はありそうな扉が開く。

『さぁ、入るといい』

 ディーノイに促され、アレン達が月宮殿に入る。

『ここから案内をするつもりはない。自由に歩くといい。入ってはいけない場所に関しては兵が立っている。それ以外は基本的に出入り自由だが、尊敬の心は忘れるなよ』

 高さ5mもある天井を見上げるアレン達に、そう発言すると、ディーノイはそそくさとどこかへ行ってしまった。

「セキュリティは大丈夫なのでしょうか。こんな無防備で」
「さっき言ってた兵が立っているから、いいんじゃねェの?」

 というか、とコストイラが廊下の方を指す。

「エンドローゼの奴、もう行ってんぞ」
「えぇ」

 アレンはげんなりとしながら、首を折る。アストロがエンドローゼを止めようと後を追う。

「迷いなく歩いて、どこに向かうの?」
「ふ、ふ、フォン様のところです」
「呼ばれたの?」
「は、はい!」

 満面の笑みを浮かべ、元気な返事をするエンドローゼに溜息をつき、向かおうとしていた先を見る。

「この先にフォン様がねぇ」

 アストロが一歩踏み出す。その瞬間、足元が光った。

「あ?」

 それは巧妙に隠された転移魔方陣だった。どれだけ魔力探知を行っても、フォンよりも格上であっても、見つけ出すのは困難な程に隠蔽された魔法陣。
 誰も彼もが、何かしらの行動に移る前に、魔法陣が発動した。




 目を開けると、アストロは椅子に座っていた。ふかふかとしていて、それなりに高級なものであると窺えた。
 アストロの師は4人いる。その中の一人が言っていた。魔術師も魔法使いも、冷静さを欠いた時点で負けだ。
 性格は嫌いだったが、教えは本物だった。その教えのすべてが胸の奥底、魂にまで刻まれている。
 状況を確認するためにあたりを見渡す。

 様々な調度品が目に入るが、一番気になるのは、人がいるということだ。机に阻まれてよく見えないが、おそらくキモノを着ている。黒地に炎のような赤い模様が散りばめられている。ずっと下を向いているのでよく見えないが、愛くるしい顔をしている。子供だろうか。

『私はね、君を呼んだつもりはないんだ』

 声を聴いて、思い至る。目の前にいる子供はフォンではないか?

『エンドローゼちゃんを召喚よんで、いちゃいちゃちゅっちゅっしようと思っていたのに。余計なことをしやがって、と怨言を漏らさせてもらうよ』

 カタン、とフォンが筆を置いた。

『さて、どんな処罰をくれてやろうか』

 その顔は新しいおもちゃを見つけた子供のように歪んだ。






「……これに何の意味があるんですか?」
『今更敬語とかいいよ、面倒くさい。背中がむず痒くなる。というか、意味? 見ていて、私が楽しい』
「…………そう」

 アストロへの処罰は2つとなった。1つはフォンの仕事を手伝うこと。今までは露出の少なめなイヴニングドレスにメタルドクロのネックレスやゴテゴテとした指輪を付けていた。しかし、現在は花魁のような格好をさせられている。フォンの趣味らしい。自身もキモノを着ているが、キモノが好きなのだろうか。

「……花魁って、もっと際どい衣装を着ていると思っていたわ。こう、胸が半分見えていたり、お尻も見えていたり」
『それは踊り子だろ? 一緒にしちゃいけないよ。花魁は色町の花形であるけれど、同時に奥ゆかしさも、持ち合わせているんだ。君にさせている格好は特にハレの衣装と言ってね、人に見せるための豪勢な格好なんだ』
「人に見せないものがあるの?」
『ずっと気を張るのは疲れるだろう? ケの衣装と言って、もっと質素なものがあるよ』
「私が着ているのがハレな理由は?」

 フォンは大きく腕を振るって、自身の胸を触りながら立ち上がる。

『私が見るため』

 シンと静まり返り、フォンがポーズを解いて椅子に座る。ペンを執り、仕事を再開させた。

『ちなみにハレって言うのは儀式とかお祭りとか年中行事みたいな非日常な事。ケはその逆で日常の事ね』
「へ~、方言?」
『んーと、東方の昔の言い方かな』

 静かに仕事をする時間が続く。フォンはもっと姦しい奴だと思っていたので、静かな空間が生み出されるのは意外だ。

 アストロが左手を右肩に添え、肩をぐるりと回した。

「花魁の衣装って重いのね」
『花魁っていうよりは、キモノを着る女性の特徴かな。キモノは複数枚を重ねて着ることで、階調美を生み出して、美しく着飾るんだ』
「ってことはフォンも?」
『私は三枚襲だよ。ちなみに、君が着ている衣装はね、緞子と金襴を用いた高級品だよ。高位の遊女しか着られない逸品さ』

 客を取るためには、こんな苦労をしなければいけないのか、と考えながら仕事のペースをアップさせる。

『ところでさ、アストロ』

 初めて名前で呼んだ。これまでとは違う、重い話なのかもしれない。しかし、フォンはあくまで雑談というスタンスを崩さないのか、仕事しながら発言する。

『君は、あの娘のことをどう思っているのかな?』
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