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22.月の都

13.地上に最も近い海

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 海は満ち引きを繰り返す。

 そもそも、潮の満ち引きはなぜ起こるのか? 結論から言えば、引力があるからだ。

 引力とは、人や物を引く力のことだ。

 我々の住む星で起こる潮汐は、その引力によって生まれる。月や太陽の引力、特に近いことから月の引力に大きな影響を受けている。
 その逆もまた然り、だ。月の海は地球の引力の影響を受けることになる。

 今、目の前にはアレン達の住んでいる星が見える。そこからの見えない力が作用して、月の海は満潮を迎えた。ここは、現在月面で最も地上に近い場所だろう。

「早く帰りたいですね」
「え?」

 アレンがポツリと呟いた。その声にエンドローゼが反応する。

「か、か、帰りたいのですか?」

 エンドローゼが顔を覗き込んでくる。答えを間違えたら殺されるのかもしれない。

 考えてみればエンドローゼの過去は知らないが、彼女にとってフォンはかなりの割合を占めている。ここはそのフォンの居城だ。もしかしたらずっとここにいたいのかもしれない。

「か、か、帰りたいのですね?」
「オレは帰りたいな。会いたい奴がいるからな」

 コストイラが故郷の星を見ながら、呟いた。アストロがコストイラの横顔を見る。

「アイケルス?」
「そうだな。セルン、カーベラ、テシメ。まだまだ会いたい奴がたくさんいるな」
「また知らない名前が」

 セルンもカーベラもテシメも知らない名前だ。全員が首を捻る。

「セルンはオレと同じ白い仮面を持っている奴。カーベラは時折家に遊びに来ていたバァ、お姉さんだ。テシメは近所の花畑にいた人だ」
「近所の花畑ってことは、オレ達も知っている可能性が魔レ存?」
「思い出してみましょ」

 アシドとアストロが頭を抱えて、思い出そうとする。

「というか、魔レ存って何ですか?」
「魔素レベルで存在している」
「魔素ってそこら辺にありません?」
「目に見えないだろ」
「なるほど?」

 アレンは理解できなかった。文脈的にはかなり低い確率ということだろうか。

「もしかしてユーメリ花畑?」
「いや、あそこって立ち入り禁止エリア」
「そうだぜ」
「え!? そうなの?」

 アストロ達が地元トークに花を咲かせている。アレン達は入り込む隙がない。アレンは一歩引いた。

「地元トークとかあります?」
「ウチは確かエンドローゼのところに統合されたのではなかったかな」
「え? そ、そうなのーですか?」

 レイドの一言にエンドローゼが目を丸くする。アレンも知らなかった。

「確かエンドローゼの生まれ育ったのはゴールの街だったな」
「はい」
「ゴール子爵家は一家で行方不明になってしまったため、現在はリリアス子爵家の支配下にあるはずだ」
「です、です」

 エンドローゼが頷く。アレンとしては孤児と聞かされていたのに街のトップを知っていることに驚きだ。

「私のクレア家は領地を手放した。それで、隣まで領地を広げていたリリアス家に渡したのだ」
「何者なのですか? そのリリアス家って」

 レイドが何かを言い渋る。

「……私のことを野蛮だといい始めた輩だ」

 アレンは無理に聞かなければよかったと後悔した。

「そういうアレンとシキは同郷であろう? 何かないのか?」
「……勇者生誕の地、みたいな売り出しをしていました」
「まぁ、仕方あるまい」

 レイドは眉間の皺を揉み解しながら、同情した。




 魔物の現れない海岸沿いを歩く。勇者に関係のある地には魔物が現れないが、ここは魔王の地だ。

 ディーノイに処理されたのかと思ったが、アストロに否定された。月宮殿の周りには最初から魔物がいなかったそうだ。

「でっけー。船か?」

 アシドが海に浮かぶ船を見つけた。見たことないほどに大きな船。アレンのサイズの人間なら1000人は乗り込めるだろう。

『ようこそ、月宮殿へ』

 アレン達が船を見ている間に、ディーノイが目に出てきたようだ。初めてディーノイの姿を見た。

 レイドと同じ長身に黒ずくめの姿。肌の露出がほとんどなく、見えている髪も宇宙の色に紛れてしまう。

「貴方がディーノイ」
『その通りだ』
「何で姿を見せなかったの?」
『最初に姿を見せなかっただろう』
「えぇ」
『あれでタイミングを失った』
「えぇ?」

 アストロが呆れたように見つめると、ディーノイは肩を竦めた。
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