メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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23.大空洞

14.遺された意志

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 シキが糸の切れた人形のように腰を落とし、瓦礫に座った。

 全力を超えた。ただの全力であれば勝てなかった。
 座る姿勢すら辛くなって、床に突っ伏した。

 シキは意識が残っているうちに、考えを纏めておこうとする。

 なぜ全力を超えることができたのか?

 爪とナイフが交わった時、ただの全力であれば、爪の破壊はできなかった。あの時、いつもと違ったのは何だった? 敵が身内だったこと? それともアレンの声掛け?
 何だろう? 分からない?

 駄目だ。意識が保てない。せめて安全が確保されるまでは保っておきたい。

 アレンはまだか?

 勇者を待たせているアレンは、未だ階下に行けていなかった。自分で放った矢の爆弾のせいで、階下へと繋がる階段が破砕されてしまったのだ。

 アレンのレベルで、防御力で、耐久力であれば、一階分の高さくらいどうということはない。しかし、アレンは飛び降りることができない。

 心理的な問題だ。そもそもアレンは高所恐怖症である。建物一階分高さでギリギリ意識を保っていられるが、飛び降りるのは無理だ。

 いったん階段から離れて、シキが見える位置に移動する。シキが仰向けで倒れている。

 駄目だ。僕しかいない。助けは来ないんだから、僕がやるしかない。

 アレンは勇気を出して、飛び降りた。

 着地と同時に足を捻る。明らかにやらかしたが、シキの方が優先だ。

「シキさん。今、病院に運びますからね!」

 シキはお姫様抱っこをしてくれたアレンの顔をぼんやりと眺めると、ゆっくりと目を閉じた。




 エンドローゼが足をパタパタさせながら、アップルパイを頬張っている。横ではコストイラが左手を見つめていた。

「スゲェな。穴が塞がっている。さすがすぎる」
「ほ、ほ、褒めても、ゆ、許しませんからね」

 睨まれてしまった。コストイラは申し訳なさそうに首の裏を掻く。

 サクッとパイ生地を歯で切りながら、アストロが髪を耳にかける。口元を手で覆いながら口を動かす。

「さっきの爆発は何だったのかしら。あれで怪我した人がいれば、この病院に来てもいい筈なのに」
「ウム。何事もないのは良いことだ。怪我人がいないということだからな」

 奇抜すぎる格好をしている医者が出てきた。患者が同伴者との遊びで疲れて眠ってしまったので、外に出てきたらしい。

 ピコンとエンドローゼにアホ毛が立った。今まで見たことない機能が出てきた。何があったのだ、エンドローゼ。
 エンドローゼは食べかけのアップルパイをコストイラに押し付けると、パタパタと走り出した。

 後ろをアストロとアシドとレイドが追う。コストイラは手に残された、エンドローゼの食べかけアップルパイと仲間を交互に見て、追いかけた。




 捻挫してしまった足を引きずりながら、背に負ぶったシキを背負い直す。
 周りの誰もが近寄ってこない。明らかに面倒ごとだとして、触れてこない。

 あとどれくらいで病院に着くのだろう。

 足がズキズキと痛みを発している。病院にまで辿り着けるだろうか? 足が痛すぎて、お姫様抱っこから背に負う方に移行したのだが、それでも辿り着けるかどうか不安になる。

 アレンは根性や気合で何とかするタイプではない。それでも根性で耐える。

 すると、前からエンドローゼが走ってきた。

「ろ、路地裏に」

 アレンは足を引きずりながら、路地裏に入っていった。エンドローゼがローブを脱いで地面に敷いた。

「こ、こ、こ、こここ、ここに」
「は、はい」

 アレンがエンドローゼと協力して、シキをローブの上に寝かせる。そこからはエンドローゼの時間だ。全力で回復魔法をかける。

 アストロが追い着いた。

「え、シキ!?」

 そこからぞくぞくと合流していく。

「シキがこんなに重症だなんて、何があったのよ」

 アストロがアレンの足首に包帯を巻きながら問い詰める。そこにコストイラが答える。

「あれだろ。オレの左手貫通してきたやつ」
「コストイラ」
「あと、このアップルパイどうすればいいの?」

 コストイラはアップルパイ片手に立ち尽くしていた。

「出会ったんですか?」
「殺されかけたわ。ハッハッハッ」

「笑い事じゃないですよ! 命の危機だったんですよね!!」
「んなこと言われてもな。事実だからな。な、アストロ」
「そうね」

 高笑いするコストイラにアレンが大声を出す。コストイラは響くことなく、アストロにパスを出す。アストロは包帯を巻き終え、髪を耳にかける。

「あれは私の父」

 エンドローゼの回復を受けながら、シキがポツと呟いた。

「え! お父さん!?」
「親父さん、めっちゃ強くね? オレの戦闘スタイルとは相性最悪だから勝てるかどうか分かんねぇぞ」
「そんなに凄かったのか?」

 アシドの疑問にコストイラが肯定する。

「攻撃止めんので精いっぱいだったわ」
「でも、超えた」

 寝転がりながらシキが発言する。いつもの無機質で無気力な目ではなく、決意に満ち溢れた目だった。

 治療途中の状態で、シキが立ち上がる。

「あ」
「行かなきゃ」

 エンドローゼの制止を聞かず、シキが走り出す。

「アレン! 戦っていたところに案内なさい!」
「は、はい!」
「オレが背負ってやる」

 アシドがアレンを背負い、アレンの指差す先に走り出す。

 辿り着くと、シキが父の死体を漁っていた。

「シキ。死体漁りはマズいんじゃ」
「あった」

 アストロの言葉を無視し、シキが何かを見つけた。その何かを左手で摘まみ上げる。
 何かがどうなっているのか、何も見えない。しかし、シキには見えているのか、ナイフを抜いた。

 シキは魔剣ではないナイフを、左手スレスレに振るった。キンッと金属音。確かにそこに何かがある。
 そこでナイフが光った。薄緑色をしていたナイフが闇色に変色していく。

「え?」
「何がどうしたんだ? それ?」

 変化したナイフにアレンが驚きに声を上げ、コストイラがエンドローゼの食べかけアップルパイをどうすればいいのか当惑しながらナイフを見つめる。

「魔剣。父さんと戦った時に分かった。これは父さんが持っていた武器の一つ。不可視の魔剣」
「形見ってことですか。良いのではないですか? そうして人間の歴史は連綿と続いていくんです」
「うん」

 シキは闇の魔剣となったナイフを、腰の鞘に収めた。

「行こうぜ。ここに留まっている時間は特にないだろう」
「ん」
「大丈夫? もう旅立って?」
「置いていくのか?」
「持っていけないから」
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