427 / 684
23.大空洞
14.遺された意志
しおりを挟む
シキが糸の切れた人形のように腰を落とし、瓦礫に座った。
全力を超えた。ただの全力であれば勝てなかった。
座る姿勢すら辛くなって、床に突っ伏した。
シキは意識が残っているうちに、考えを纏めておこうとする。
なぜ全力を超えることができたのか?
爪とナイフが交わった時、ただの全力であれば、爪の破壊はできなかった。あの時、いつもと違ったのは何だった? 敵が身内だったこと? それともアレンの声掛け?
何だろう? 分からない?
駄目だ。意識が保てない。せめて安全が確保されるまでは保っておきたい。
アレンはまだか?
勇者を待たせているアレンは、未だ階下に行けていなかった。自分で放った矢の爆弾のせいで、階下へと繋がる階段が破砕されてしまったのだ。
アレンのレベルで、防御力で、耐久力であれば、一階分の高さくらいどうということはない。しかし、アレンは飛び降りることができない。
心理的な問題だ。そもそもアレンは高所恐怖症である。建物一階分高さでギリギリ意識を保っていられるが、飛び降りるのは無理だ。
いったん階段から離れて、シキが見える位置に移動する。シキが仰向けで倒れている。
駄目だ。僕しかいない。助けは来ないんだから、僕がやるしかない。
アレンは勇気を出して、飛び降りた。
着地と同時に足を捻る。明らかにやらかしたが、シキの方が優先だ。
「シキさん。今、病院に運びますからね!」
シキはお姫様抱っこをしてくれたアレンの顔をぼんやりと眺めると、ゆっくりと目を閉じた。
エンドローゼが足をパタパタさせながら、アップルパイを頬張っている。横ではコストイラが左手を見つめていた。
「スゲェな。穴が塞がっている。さすがすぎる」
「ほ、ほ、褒めても、ゆ、許しませんからね」
睨まれてしまった。コストイラは申し訳なさそうに首の裏を掻く。
サクッとパイ生地を歯で切りながら、アストロが髪を耳にかける。口元を手で覆いながら口を動かす。
「さっきの爆発は何だったのかしら。あれで怪我した人がいれば、この病院に来てもいい筈なのに」
「ウム。何事もないのは良いことだ。怪我人がいないということだからな」
奇抜すぎる格好をしている医者が出てきた。患者が同伴者との遊びで疲れて眠ってしまったので、外に出てきたらしい。
ピコンとエンドローゼにアホ毛が立った。今まで見たことない機能が出てきた。何があったのだ、エンドローゼ。
エンドローゼは食べかけのアップルパイをコストイラに押し付けると、パタパタと走り出した。
後ろをアストロとアシドとレイドが追う。コストイラは手に残された、エンドローゼの食べかけアップルパイと仲間を交互に見て、追いかけた。
捻挫してしまった足を引きずりながら、背に負ぶったシキを背負い直す。
周りの誰もが近寄ってこない。明らかに面倒ごとだとして、触れてこない。
あとどれくらいで病院に着くのだろう。
足がズキズキと痛みを発している。病院にまで辿り着けるだろうか? 足が痛すぎて、お姫様抱っこから背に負う方に移行したのだが、それでも辿り着けるかどうか不安になる。
アレンは根性や気合で何とかするタイプではない。それでも根性で耐える。
すると、前からエンドローゼが走ってきた。
「ろ、路地裏に」
アレンは足を引きずりながら、路地裏に入っていった。エンドローゼがローブを脱いで地面に敷いた。
「こ、こ、こ、こここ、ここに」
「は、はい」
アレンがエンドローゼと協力して、シキをローブの上に寝かせる。そこからはエンドローゼの時間だ。全力で回復魔法をかける。
アストロが追い着いた。
「え、シキ!?」
そこからぞくぞくと合流していく。
「シキがこんなに重症だなんて、何があったのよ」
アストロがアレンの足首に包帯を巻きながら問い詰める。そこにコストイラが答える。
「あれだろ。オレの左手貫通してきたやつ」
「コストイラ」
「あと、このアップルパイどうすればいいの?」
コストイラはアップルパイ片手に立ち尽くしていた。
「出会ったんですか?」
「殺されかけたわ。ハッハッハッ」
「笑い事じゃないですよ! 命の危機だったんですよね!!」
「んなこと言われてもな。事実だからな。な、アストロ」
「そうね」
高笑いするコストイラにアレンが大声を出す。コストイラは響くことなく、アストロにパスを出す。アストロは包帯を巻き終え、髪を耳にかける。
「あれは私の父」
エンドローゼの回復を受けながら、シキがポツと呟いた。
「え! お父さん!?」
「親父さん、めっちゃ強くね? オレの戦闘スタイルとは相性最悪だから勝てるかどうか分かんねぇぞ」
「そんなに凄かったのか?」
アシドの疑問にコストイラが肯定する。
「攻撃止めんので精いっぱいだったわ」
「でも、超えた」
寝転がりながらシキが発言する。いつもの無機質で無気力な目ではなく、決意に満ち溢れた目だった。
治療途中の状態で、シキが立ち上がる。
「あ」
「行かなきゃ」
エンドローゼの制止を聞かず、シキが走り出す。
「アレン! 戦っていたところに案内なさい!」
「は、はい!」
「オレが背負ってやる」
アシドがアレンを背負い、アレンの指差す先に走り出す。
辿り着くと、シキが父の死体を漁っていた。
「シキ。死体漁りはマズいんじゃ」
「あった」
アストロの言葉を無視し、シキが何かを見つけた。その何かを左手で摘まみ上げる。
何かがどうなっているのか、何も見えない。しかし、シキには見えているのか、ナイフを抜いた。
シキは魔剣ではないナイフを、左手スレスレに振るった。キンッと金属音。確かにそこに何かがある。
そこでナイフが光った。薄緑色をしていたナイフが闇色に変色していく。
「え?」
「何がどうしたんだ? それ?」
変化したナイフにアレンが驚きに声を上げ、コストイラがエンドローゼの食べかけアップルパイをどうすればいいのか当惑しながらナイフを見つめる。
「魔剣。父さんと戦った時に分かった。これは父さんが持っていた武器の一つ。不可視の魔剣」
「形見ってことですか。良いのではないですか? そうして人間の歴史は連綿と続いていくんです」
「うん」
シキは闇の魔剣となったナイフを、腰の鞘に収めた。
「行こうぜ。ここに留まっている時間は特にないだろう」
「ん」
「大丈夫? もう旅立って?」
「置いていくのか?」
「持っていけないから」
全力を超えた。ただの全力であれば勝てなかった。
座る姿勢すら辛くなって、床に突っ伏した。
シキは意識が残っているうちに、考えを纏めておこうとする。
なぜ全力を超えることができたのか?
爪とナイフが交わった時、ただの全力であれば、爪の破壊はできなかった。あの時、いつもと違ったのは何だった? 敵が身内だったこと? それともアレンの声掛け?
何だろう? 分からない?
駄目だ。意識が保てない。せめて安全が確保されるまでは保っておきたい。
アレンはまだか?
勇者を待たせているアレンは、未だ階下に行けていなかった。自分で放った矢の爆弾のせいで、階下へと繋がる階段が破砕されてしまったのだ。
アレンのレベルで、防御力で、耐久力であれば、一階分の高さくらいどうということはない。しかし、アレンは飛び降りることができない。
心理的な問題だ。そもそもアレンは高所恐怖症である。建物一階分高さでギリギリ意識を保っていられるが、飛び降りるのは無理だ。
いったん階段から離れて、シキが見える位置に移動する。シキが仰向けで倒れている。
駄目だ。僕しかいない。助けは来ないんだから、僕がやるしかない。
アレンは勇気を出して、飛び降りた。
着地と同時に足を捻る。明らかにやらかしたが、シキの方が優先だ。
「シキさん。今、病院に運びますからね!」
シキはお姫様抱っこをしてくれたアレンの顔をぼんやりと眺めると、ゆっくりと目を閉じた。
エンドローゼが足をパタパタさせながら、アップルパイを頬張っている。横ではコストイラが左手を見つめていた。
「スゲェな。穴が塞がっている。さすがすぎる」
「ほ、ほ、褒めても、ゆ、許しませんからね」
睨まれてしまった。コストイラは申し訳なさそうに首の裏を掻く。
サクッとパイ生地を歯で切りながら、アストロが髪を耳にかける。口元を手で覆いながら口を動かす。
「さっきの爆発は何だったのかしら。あれで怪我した人がいれば、この病院に来てもいい筈なのに」
「ウム。何事もないのは良いことだ。怪我人がいないということだからな」
奇抜すぎる格好をしている医者が出てきた。患者が同伴者との遊びで疲れて眠ってしまったので、外に出てきたらしい。
ピコンとエンドローゼにアホ毛が立った。今まで見たことない機能が出てきた。何があったのだ、エンドローゼ。
エンドローゼは食べかけのアップルパイをコストイラに押し付けると、パタパタと走り出した。
後ろをアストロとアシドとレイドが追う。コストイラは手に残された、エンドローゼの食べかけアップルパイと仲間を交互に見て、追いかけた。
捻挫してしまった足を引きずりながら、背に負ぶったシキを背負い直す。
周りの誰もが近寄ってこない。明らかに面倒ごとだとして、触れてこない。
あとどれくらいで病院に着くのだろう。
足がズキズキと痛みを発している。病院にまで辿り着けるだろうか? 足が痛すぎて、お姫様抱っこから背に負う方に移行したのだが、それでも辿り着けるかどうか不安になる。
アレンは根性や気合で何とかするタイプではない。それでも根性で耐える。
すると、前からエンドローゼが走ってきた。
「ろ、路地裏に」
アレンは足を引きずりながら、路地裏に入っていった。エンドローゼがローブを脱いで地面に敷いた。
「こ、こ、こ、こここ、ここに」
「は、はい」
アレンがエンドローゼと協力して、シキをローブの上に寝かせる。そこからはエンドローゼの時間だ。全力で回復魔法をかける。
アストロが追い着いた。
「え、シキ!?」
そこからぞくぞくと合流していく。
「シキがこんなに重症だなんて、何があったのよ」
アストロがアレンの足首に包帯を巻きながら問い詰める。そこにコストイラが答える。
「あれだろ。オレの左手貫通してきたやつ」
「コストイラ」
「あと、このアップルパイどうすればいいの?」
コストイラはアップルパイ片手に立ち尽くしていた。
「出会ったんですか?」
「殺されかけたわ。ハッハッハッ」
「笑い事じゃないですよ! 命の危機だったんですよね!!」
「んなこと言われてもな。事実だからな。な、アストロ」
「そうね」
高笑いするコストイラにアレンが大声を出す。コストイラは響くことなく、アストロにパスを出す。アストロは包帯を巻き終え、髪を耳にかける。
「あれは私の父」
エンドローゼの回復を受けながら、シキがポツと呟いた。
「え! お父さん!?」
「親父さん、めっちゃ強くね? オレの戦闘スタイルとは相性最悪だから勝てるかどうか分かんねぇぞ」
「そんなに凄かったのか?」
アシドの疑問にコストイラが肯定する。
「攻撃止めんので精いっぱいだったわ」
「でも、超えた」
寝転がりながらシキが発言する。いつもの無機質で無気力な目ではなく、決意に満ち溢れた目だった。
治療途中の状態で、シキが立ち上がる。
「あ」
「行かなきゃ」
エンドローゼの制止を聞かず、シキが走り出す。
「アレン! 戦っていたところに案内なさい!」
「は、はい!」
「オレが背負ってやる」
アシドがアレンを背負い、アレンの指差す先に走り出す。
辿り着くと、シキが父の死体を漁っていた。
「シキ。死体漁りはマズいんじゃ」
「あった」
アストロの言葉を無視し、シキが何かを見つけた。その何かを左手で摘まみ上げる。
何かがどうなっているのか、何も見えない。しかし、シキには見えているのか、ナイフを抜いた。
シキは魔剣ではないナイフを、左手スレスレに振るった。キンッと金属音。確かにそこに何かがある。
そこでナイフが光った。薄緑色をしていたナイフが闇色に変色していく。
「え?」
「何がどうしたんだ? それ?」
変化したナイフにアレンが驚きに声を上げ、コストイラがエンドローゼの食べかけアップルパイをどうすればいいのか当惑しながらナイフを見つめる。
「魔剣。父さんと戦った時に分かった。これは父さんが持っていた武器の一つ。不可視の魔剣」
「形見ってことですか。良いのではないですか? そうして人間の歴史は連綿と続いていくんです」
「うん」
シキは闇の魔剣となったナイフを、腰の鞘に収めた。
「行こうぜ。ここに留まっている時間は特にないだろう」
「ん」
「大丈夫? もう旅立って?」
「置いていくのか?」
「持っていけないから」
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる