メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
435 / 684
24.深層の備え

1.抑えられない衝動

しおりを挟む
 何か、頭の中に声が聞こえてきた気がした。意味の分からない3つの言葉。その言葉の意味が分からないまま、覚醒する。アレンが頭を押さえながら少し振る。

 隣にはアストロがいた。ノールックで質問する。

「僕が最後ですか?」
「そうね」
「どうして僕はいつも最後なのでしょうね」
「そうね。魔物、というか死が隣にあるという状況にまだ慣れていないのでしょうね。良くも悪くも」
「皆さんと旅するという意味では悪い意味では?」
「でも、それはもう私達が失ってしまった感覚でもあるわ。羨ましいわね」

 アストロがどこか慈しむような顔をしている。
 アレンの感覚は世間一般で言えば、普通のものだ。しかし、今は旅をしている。その中では異常な考え方になる。

 隣に立っていると、感覚を共有できない。

 それが、アレンにとって悲しいのだ。

「私も貴方目線で言えば、狂っているに分類されるわ。その狂いはコストイラに比べれば、平凡なのよ。私が狂人だと判別されるのなら、コストイラ達はそれを遥かに超えた”壊人”よ」

 納得してしまった。理解できてしまった。
 感覚を共有できない程離れているはずなのに、苦しみが分かってしまう。

「虚勢でもいいから、隣に立ち続けなさい」
「はい」

 空気が重くなるのを感じていると、ドンッと地面が揺れ、体が浮いた。

「な、な、何ですか!?」
「今、あそこでその”壊人”が戦っているわ」

 指差した先に視線を向けた途端、噴煙が上がった。

「ど、どんな奴と戦っているんですか!?」

 何も知らないアレンが焦りながら、アストロに抱き着こうとして殴られた。

「ジャイアントイエティっていたじゃない?」
「はぁ」
「あれから雪山の要素を抜いたような、緑の巨人よ」

 ズドンと上から何かが落ちてくる。衝撃で弾けた何かがアレンの頬に付着した。指でそれを拭うと、それは血だった。

「ブフゥ」

 落ちてきた肉の中から腕が生えてきた。何かが助けを求めるようにプラプラしている。

「引っ張ってきなさい」

 アストロに背中を押された。一応指を見る限り、肉の中にいるのはシキだ。なぜこんな姿に。ちゃんとおしゃれすれば可愛い見た目をしているのに、何とも台無しなことだ。
 シキを引っ張り出すと、シキはアストロの方に歩いて行った。

 森の奥にはコストイラ達がいた。緑の巨人の死体の上にコストイラは座っており、天を仰いでいた。アシドやレイドはそれぞれしたいときに背を凭れさせている。エンドローゼは忙しく動いている。

「僕が眠っている間に、こんなことに」
「ハッハッハッ。ぐっすりだったな」

 自分に呆れるアレンに、コストイラが高笑いする。

「どうせオレ達は戦いから逃れられない。進むたびに戦っているぜ」

 血でベタベタになっている手で、髪をかき上げる。そして、そのまま指を一点に向ける。

「未知はいいな。楽しい! だからこそ、あそこで佇む、光の柱が気になるんだろうな」

 心底楽しそうなコストイラと、光の柱を交互に見て、アレンは首を折った。どうせロクなことにならない。
 しかし、どうせ行く当てなどない。一行は光の柱に向かうことにした。



 大量の死体の山、その山の中で特に大きなものの上に、そいつがいる。

「ずいぶん辛そうね」

 金髪ロングの美女が日傘を杖のようにして立っている。それを一瞥した美女は溜息を吐いた。

『何の用さ、カーミラ』
「あら、せっかく訪ねた人に邪険ね」
『どうせ監視だろ』

 まったく取り合おうとしない姿勢に、カーミラは目を丸くして、すぐに弓なりに曲げた。

「確かに監視の意味もあるわ。貴方に死なれると大変だもの。でも、お話ししたいっていうのも本音よ、アイケルス」
『言ってろ、狸BBA』
「おい、お前の方が年上だろ」

 急にドスの利いた声になった。相当気にしているのだろう。確かにアイケルスの方が年上だが、ばあさんなのは変わらない。

『死なれると困るって、過去に私の贋作作って、挿げ替えようとしていた奴とは思えない発言ね』
「えぇ、そうね。でも、そんなことしたら、私はコストイラに殺されかねないわ」

 コストイラの名前を聞いて、アイケルスの眉がぴくぴく動く。やはり、今でも気にかけているようだ。

『コストイラはそんなことしないよ。身内には甘いもの』
「そんなに気になるなら、会いに行けばいいじゃない。貴女なら、ここから脱して会いに行くなんて、造作もないことでしょ」

 アイケルスは死体の山の上で体育座りをし、膝の中に自身の頭を隠す。

『確かにそうさ。君の言う通りだ、カーミラ。けど、なぜだか分からないけど胸がキューと苦しくなるんだ。何でなのか分からないけど、会いに行きたいとは思えない』

 カーミラは片眼を閉じた。

 かなり限界が来ている。それがカーミラの所見だ。保って1年あるかないか。そこで封印が解ける。使用した封印は重ね掛けができない。

 カーミラはアイケルスとフラメテに申し訳なく思いながら、立ち去ることにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...