メグルユメ

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26.『黄昏の箱庭』

19.死せる戦士達

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 アシドの前に現れたのは軽装の戦士だった。名前はセファニュス=ティファニュス。駿足の壁の異名を持つ男だ。この世にいる回避楯はすべてこの男に憧れた者だと言われているほどの偉人である。

 コストイラが倒れた。

 つまりはそれだけの相手が出てくるということだ。

 アシドは目の前で余裕の表情をしている男を知らない。巨匠といわれても、知らないものは知らないのだ。

速攻。それがアシドのできる唯一にして最高の戦術だ。地面を抉るほどのスタートダッシュ。観客のほとんどが見えない程のスピードの槍。それに対応してしまうファニュス。振るわれるのはフェイント。

 ファニュスは目を張った。この速度でフェイントか。

 片手剣は振り終わっている。剣で防ぐことはできない。
 しかし、ファニュスは諦めない。ファニュスは歴代最高の回避楯なのだ。足の親指に力を込めて跳んだ。
 槍を、アシドの体ごと飛び越える。アシドは左足を軸にして一回転する。ファニュスは身を低くして槍を躱した。
 腕を伸ばしながら、アシドに蹴りを入れた。肋骨が二本折れた。何て簡単に骨を折ってくれるのだろう。
 ファニュスがナイフを投げる。アシドは目を張りながら槍で打ち落とす。目の前にファニュスがいた。

 メガゴキュッ!!? アシドの鼻頭に膝が豪快に入った。顔面の骨だけでなく、首の骨まで罅が入った。
 目の前がチカチカする。鼻血が出そうで出ない。鼻が折れてしまい、手が出る隙間がそこに存在していなかった。

 ファニュスが顔の上がったアシドの胸を蹴飛ばした。

 ゴキンと首の骨が鳴った。首の位置が元に戻った。痛みが残るが、もう大丈夫だ。

 ブバリと鼻から血が噴き出る。鼻が通った。

 鉄臭い空気を肺いっぱいに吸い込み、溜め込んだ。空気が全身を駆け巡らせて、力に変える。

 最速。自身史上最高傑作。それを自称できる程の突き。
 しかし、その突きでさえ、躱された。

 ファニュスは右頬を裂かれ、血を噴き出してなお笑った。

 成る程? 自称最高傑作? なればまだまだ発展途上。お前は成長できる余白がある。

 ファニュスは自称最高傑作、自分史上最速の一振りをアシドに浴びせた。




 アストロは嫌な脂汗を掻いていた。別にコストイラやアシドの事ではない。誤解を恐れずに言うのなら、二人のことはどうでもいい。フォローするなら信頼している。

 では、何に汗を掻いているのか? 答えは左腕だ。今はもうなくなってしまった左腕があるように錯覚してしまっている。

 幻肢痛だ。なくなってしまっていると目で見えているにもかかわらず、脳が理解してくれない。ズキズキと痛みを発している。消えろ、と念じているが、千切られるような痛みは消えてくれない。

 対人の戦闘の調節がしたかった。しかし、それどころではない。幻肢痛に苦しみながらの状態での戦い方を調整しなければならなくなった。

「結構、楽観できないわね」

 タオルで顔を拭いながら、戦場へと足を向けた。




 戦場に足を入れる直前、眼を見開いた。

「嘘でしょ」

 その顔に見覚えがあった。直接会ったわけではない。しかし、幼少の頃より見ていた絵の中にいた人物だ。少し白髪の目立つ頭をしているが、間違いない。

「レンオニオール」

 最強の魔術結社グランセマイユの一角がそこにいた。
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