484 / 684
26.『黄昏の箱庭』
21.霧に咽ぶ夜
しおりを挟む
シキがこれに参加したのは、コストイラに煽られたからだ。
「あれ? シキは参加しないのか?」
と言われ、シキは燃えた。は? 私もやるし。
その意気込みのもと、シキは戦場に入っていった。
目の前にいる女は震えていた。この女は相当な実力者だと分かる。だからこそ、震えていた。
今はもうないクリープラントの斥候を務めていた女だ。一人で百人分の仕事をしていたとされる人物。その最期は主を護れなかったことに絶望し、自害したとされている。ゆえに、無敗。生涯無敗と銘打たれる女。
その姿は一般に知られていない。それが原因なのか分からないが、会場の熱はいまいちだ。
静かに佇む二人。その二人の瞳に宿るモノの違いに気付いた者は、果たしてこの場にいるのだろうか。
シキのそれは明確な殺気。生涯無敗の斥候を震え上がらせ、逃げたくさせる程のものだ。何かを見せつけようとする目。
エスシーオーのそれは明確な敵意。生かすか殺すかは置いておいて、あれを目の前から排除しなければならない。その意思が籠った目。
そして、意志と意志がぶつかり合う。
何かかっこいい風に書いたが、起こった事態は単純だ。両者のナイフが交わった。ただそれだけだ。
結果、エスシーオーのナイフが砕けた。驚異の動体視力で迫るナイフを躱す。しかし、腹筋に赤い筋が走った。この瞬間に悟った。まともに真正面から行ったら死ぬわ、これ。
すでに死を経験しているにもかかわらず、恐怖が生まれる。
とりあえず、まずは手の中に煙幕用のボムを仕込んでおく。
そこで、シキが動いた。反射的にボムを地面に叩きつける。
チュドッと煙幕が張られた。これで少しは足止めになる。欲を言えば騙されてくれるといい。
エスシーオーの戦い方は基本が嘘つきだ。強いと思わせることや武器、戦い方に至るまでの何もかもを嘘で翻弄して、いつの間にかで殺す。それこそが戦術。
だからこそ、最初の嘘が肝心。
最初の衝突での印象と煙幕で、逃げ、弱腰、そう思わせたところを一発叩き込む。その一発で終了。時間をかけてはいけない。この娘に時間を与えてはいけない。
煙幕に乗じて潰す。
エスシーオーが前に出ようとした瞬間だった。
サクッ。
その音が確かに聞こえた。敵の足音だ。しかも近づいている。
え? 警戒していない? 近づいている? え? マジで言ってる?
エスシーオーはもう一つのボムを地面に叩きつけた。今度のは特殊な液体達を巡り合わせたオリジナル。歯の中に仕込んだカプセル状解毒剤がなければ、確実に動きを封じられる。麻痺や催涙を促し、引き起こす代物だ。
足を止めた瞬間に殺る。
サクッ。
その音は止まっていない。
「ゴホ」
咳き込む声が聞こえた。ってことは効いている? 効いているのに止まらないの?
煙幕を割って白銀の悪魔が現れた。
その時、冥界で言われた一言を思い出した。
こいつが白銀の悪魔か。
白銀の悪魔がナイフを振った。倒れながら見えた悪魔の顔には涙が浮かんでいた。
「うっうっ」
シキは無表情のままえずき、涙を流し続ける。
医務室では、アストロの前で泣き続けている。シキが珍しい、と思いながら、アストロが涙を拭ってやる。
「止めて」
「目を洗ってみれば?」
「うん」
コストイラとアシドがベッドの中に籠っている。シキを見送ってから、そのベッドを見た。
めちゃくちゃにエンドローゼにキレられている。後で私も説教を食らうと考えると、少しブルッときた。
体は動くのだから、レイドの戦いでも見に行くか。
「あれ? シキは参加しないのか?」
と言われ、シキは燃えた。は? 私もやるし。
その意気込みのもと、シキは戦場に入っていった。
目の前にいる女は震えていた。この女は相当な実力者だと分かる。だからこそ、震えていた。
今はもうないクリープラントの斥候を務めていた女だ。一人で百人分の仕事をしていたとされる人物。その最期は主を護れなかったことに絶望し、自害したとされている。ゆえに、無敗。生涯無敗と銘打たれる女。
その姿は一般に知られていない。それが原因なのか分からないが、会場の熱はいまいちだ。
静かに佇む二人。その二人の瞳に宿るモノの違いに気付いた者は、果たしてこの場にいるのだろうか。
シキのそれは明確な殺気。生涯無敗の斥候を震え上がらせ、逃げたくさせる程のものだ。何かを見せつけようとする目。
エスシーオーのそれは明確な敵意。生かすか殺すかは置いておいて、あれを目の前から排除しなければならない。その意思が籠った目。
そして、意志と意志がぶつかり合う。
何かかっこいい風に書いたが、起こった事態は単純だ。両者のナイフが交わった。ただそれだけだ。
結果、エスシーオーのナイフが砕けた。驚異の動体視力で迫るナイフを躱す。しかし、腹筋に赤い筋が走った。この瞬間に悟った。まともに真正面から行ったら死ぬわ、これ。
すでに死を経験しているにもかかわらず、恐怖が生まれる。
とりあえず、まずは手の中に煙幕用のボムを仕込んでおく。
そこで、シキが動いた。反射的にボムを地面に叩きつける。
チュドッと煙幕が張られた。これで少しは足止めになる。欲を言えば騙されてくれるといい。
エスシーオーの戦い方は基本が嘘つきだ。強いと思わせることや武器、戦い方に至るまでの何もかもを嘘で翻弄して、いつの間にかで殺す。それこそが戦術。
だからこそ、最初の嘘が肝心。
最初の衝突での印象と煙幕で、逃げ、弱腰、そう思わせたところを一発叩き込む。その一発で終了。時間をかけてはいけない。この娘に時間を与えてはいけない。
煙幕に乗じて潰す。
エスシーオーが前に出ようとした瞬間だった。
サクッ。
その音が確かに聞こえた。敵の足音だ。しかも近づいている。
え? 警戒していない? 近づいている? え? マジで言ってる?
エスシーオーはもう一つのボムを地面に叩きつけた。今度のは特殊な液体達を巡り合わせたオリジナル。歯の中に仕込んだカプセル状解毒剤がなければ、確実に動きを封じられる。麻痺や催涙を促し、引き起こす代物だ。
足を止めた瞬間に殺る。
サクッ。
その音は止まっていない。
「ゴホ」
咳き込む声が聞こえた。ってことは効いている? 効いているのに止まらないの?
煙幕を割って白銀の悪魔が現れた。
その時、冥界で言われた一言を思い出した。
こいつが白銀の悪魔か。
白銀の悪魔がナイフを振った。倒れながら見えた悪魔の顔には涙が浮かんでいた。
「うっうっ」
シキは無表情のままえずき、涙を流し続ける。
医務室では、アストロの前で泣き続けている。シキが珍しい、と思いながら、アストロが涙を拭ってやる。
「止めて」
「目を洗ってみれば?」
「うん」
コストイラとアシドがベッドの中に籠っている。シキを見送ってから、そのベッドを見た。
めちゃくちゃにエンドローゼにキレられている。後で私も説教を食らうと考えると、少しブルッときた。
体は動くのだから、レイドの戦いでも見に行くか。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる