メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
492 / 684
26.『黄昏の箱庭』

29.聖魔融合

しおりを挟む
 ペテロシウス。”天界の使徒”に属する存在。獲物は大きなハンマーであり、戦闘ではあらゆるものを破壊することから、天界の壊し屋と呼ばれている。
 その思想は良くも悪くも”天界の使徒”そのものだった。”天界の使徒”の考えをかなり濃縮させた、超過激派だ。同じ”天界の使徒”でも煙たがられていた。レベルはすでに五百に達しており、ゴイアレよりも高いとされている。

 戦は量か質か。そんな議論がある。
 現在の戦闘は質を重視する傾向にある。魔力を獲得してから、人類は個の力が膨大になっていった。

 だが、それでも量が必要になっている。
 
 今がまさにそうだ。

 質を極めんとするペテロシウスの前に、コストイラはつばを飲み込んだ。相手は魔王ではないが、それでも満足だ。こいつは強い。

 ペテロシウスがハンマーを振り下ろす。ゴイアレが大剣で防ぐが、戦神はパワーで圧し潰そうとする。
 大剣を両手で持ち耐えようとする。両足が地面に埋まり、プルプルと膝が笑ってしまう。
 コストイラが即座に後ろに回り、刀を振るおうとする。

 パワー型は速度がない。そう思っていた。しかし、コストイラが刀を振るう前に脚が出ていた。

「ブッ!?」

 コストイラが鼻から血を流しながら吹き飛ばされた。元魔王城に体を突っ込んだ。
 瓦礫が音を鳴らして崩れ、コストイラの体が向こうに消える。

「かぁ~~、まだ一対一タイマンは張れねぇか」

 コストイラが額を覆う。

「つーか、オレの横、何か通らなかったか?」





 セプオクの右腕がくるくると回転しながら、高速で飛来してくる。それはペテロシウスに向かっていた。
 とはいえ、ペテロシウスの速さであれば避けることが可能だ。だからこそ、余裕をもって躱そうとした。
 そこにアシドが割って入った。槍を大きく振るい、足を縫い留めた。

 動けない。いや、力を籠めれば動けるか。

 そう考えた一瞬、セプオクの右腕が右脇腹に当たった。その少し前にアシドが逃げた。

 爆発。

 レイドが楯を構え、後ろの者達を護ろうとする。しかし、爆風は不定形だ。流れる水流を楯一つで防ぐことができないように、爆風は防げない。
 エンドローゼが丸まり、その上にアストロが覆いかぶさる。その上にアシド。
 レイドが奥歯を噛み締める。信用されていない。その事実がレイドを苦しめる。

 レイドの体を覆う影が現れた。

 ゴイアレだ。

『協力関係だからな』

 その後は風で何も分からなくなった。

『ゴ、ア』

 ペテロシウスはまだ死んでいない。体の右側はほとんど消失している。右腕はもちろん、下顎も臓器も右側がなくなっている。右の目玉はドロリと飛び出しており、鼻はねじ曲がっていた。目は虚ろで口からは血とともに何かをブツブツと呟いている。

『まだ死んでいないか』

 ゴイアレがその巨体を起こす。何があったのか、右腕の一部が白骨化していた。

「腕が……」
『天使の命の残滓に当たったのだ。これぐらいは覚悟をしていた』

 ゴイアレは受け入れているが、レイドは飲み込めない。それはエンドローゼも同じだ。
 回復の本質はくっつくることだ。消失したものを生み出すことできない。

『バ、』

 その言葉を遺して、ペテロシウスが倒れた。

『出てきたか』
『フーム。随分な姿になったものよな、父よ』
「ち、」
「父!?」

 驚愕するアストロ達の前に現れたのは、全身が白黒の縞模様になっている者だ。

『フム。我が力が戻ってくるのを感じるよ。父よ! 礼を言おう! 我は強くなれた! 父の計画通りにな! ま、父の計画通りに動いてやるつもりはないがな! ハハハハハッ!!』

 言うだけ言って、子はどこかへ飛び去って行った。





「ありゃ何だ? 天使とも悪魔とも言いづれぇ奴だったぞ」
「あの方はポラリスさん、魔王ゴイアレのお子さんですね。ただ、天使を食べることで天使の力を取り込んだと考えられます」
「それは視た情報。聞いた情報、どっちからの推測。このうちどれだ? アレン」

 コストイラの問いを受け、左目に手を添えた。

「視た情報です」
「そうか」

 アレンの柔らかい笑みに、コストイラは爽やかな笑みで返す。
 アレンが戻ってきたことに喜んでいるが、どう表現したらいいのか分からず、もじもじしたり近づこうとして離れたりしているシキに苦笑を送りつつ、コストイラは親指を立てた。

「戻ってきてよかったぜ」
「はい。ところで」
「ん?」

 話の転換を行おうとするアレンに、コストイラがキョトンとする。

「何で逆さになっているんですか?」

 コストイラは戦いで転がされたままの姿勢だ。戦いの状況を知らないアレンにどう説明したらいいのか考えて、途中で面倒になった。

「あ~~、ま、いいじゃん」
『では、我々も合流しましょう』
「えっ!? あっ!? ま、魔物!?」
「味方だぞ? アレン」

 いつの間にか後ろにいたリュリュレに、初対面のアレンはビビってしまった。コストイラは逆さのまま手をひらひらさせて誤解を解く。
 シキがその手を掴んで立ち上がらせる。

「ありがと、ありがと」

 コストイラは腰と尻を叩き、砂を落とす。

「さて、どこに行こうか」
『それならゴイアレ様にお聞きしましょう。きっといいアドバイスをしてくださるに違いありません』
「おぉ、いいね」

 何か仲良さげにしている、というか、この魔物何者だ?




 魔王の側近だった。

 アレンの汗が止まらないが、リュリュレは何も気にしていない。

『フム。魔王にはもう会ったか? 私以外の魔王に』
「オレ達が会ったのは、インサーニア、ジャスレ、ンッナンシリス、フォン、でアンタだな」
『フム。そんなに会っているのか? では、魔王の最後の一人、グレイソレアの元に行けるようにしよう。あの河に沿っていくといい。魔物が強力だが、あの淑女であれば歓迎してくれるだろう』

 素直に教えてくれた。

「じゃあ、向かうか、原初の元へ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...