メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
520 / 684
29.暴霊の傷跡

1.ご注文は宝箱ですか?

しおりを挟む
 アシドが服を絞る。かなりの水が服から飛び出してきた。

「火は要るかしら?」

 アストロが尋ねてくる。何もない状態で火を起こすのは魔力の消費が激しい行為だ。
 アシドはボリボリと胸のあたりを掻くと、申し出を断った。

「魔力消費が馬鹿になんねぇだろ」
「確かにそうね」
「しかも、この道を戻りゃ、海賊達の移住地があるんだ。そっちの方が火を点けやすいだろ」
「それもそうね」
「じゃあ、行くか。そのヤバそうな本拠地に」

 アシドが不快感を覚えながら濡れた服を肩にかけた。
 アレンは高いところから解放され、地球大好きごたいとうちしていた。

「行くぞ」

 レイドがアレンのことを掴んで立ち上がらせた。

 アレンは幽鬼のような足取りで皆に付いて行く。アレンのメンタルはかなりボロボロだった。必要にしているような言動を周りがしても、自分は何の役に立てていない。周りに気を遣わせてしまっている。エンドローゼやアストロなどの心の機微に敏感で、たびたびアドバイスをくれていた者どころか、これまで何もなかったシキにまで気を遣われるなんて。
 シキは今もアレンの隣にいる。皆と一緒にいればいいのに、と思ったが、自分がいるからそれができないのかもしれない。そう思うと、何とも情けのない話だ。

「いいんですよ、シキさん。皆さんのところに行っても」
「……それは命令?」
「え、いいえ。違いますよ」
「そう」

 シキは去らなかった。その事実はとても嬉しいことのはずなのに、気を遣わせてしまっていることに負い目を感じている。
 少し遅れてアストロ達と合流する。アストロはすでに火を点けており、服を乾かしてた。

 シキはトテトテとアストロの元へと歩いて行った。ほら、やっぱりすぐに離れていった。そんなに一緒にいたくなかったんだ。

 面倒な彼女のように腐るアレンのことに気付かず、シキがアストロの評価を待つ。

 アストロは腐るアレンと子犬のシキを見比べて、大きなバッテンを頭に浮かべた。片腕しかないアストロはバツを表すのが難しいため、とりあえず口だけで言うことにした。

「シキ、あれを見なさい。今のアレンが楽しそうか、悲しそうの二択だったら、どっちに属すると思う?」

 唐突に出された問題にも真摯に向き合い、シキは本気でアレンの観察をする。驚異的な洞察力でアレンの一挙手一投足を見逃さず、丸裸にしていく。アレンの表面上に見えている表情だけでなく、皮膚の下に隠された筋肉の動きや、息遣い、血液の流れ方さえも看破していく。

「悲しんで、いる?」
「そうね。きっとすぐに貴女が離れたから不貞腐れているようね」
「私、どうすればいい?」
「もうちょっと構ってあげれば? まぁ、シキがもうちょっと感情を表に出せればいいんだけど」
「どうすればいいか、分からない」

 アストロがシキに半眼を向けると、シキはシュンとしてしまった。今まで感情を出すことをよしとしていなかったのだ。父の呪縛が解けたところで、急にすべてを変えられるはずがない。これは徐々に矯正していくことが必要だ。

「というか、何で貴女もエンドローゼも私に相談するわけ?」
「ん?」

「いや、ほら。私以外にもいるじゃない。コストイラでもアシドでも。それこそアレンに直接言っちゃえば?」

 アレンの名前が出た途端、頬に血が増えた。アレンは気付かないだろうほどの変化量だ。

「アレンは駄目。私が恥ずかしい。何か、うん。恥ずかしい」
「いつまでも恥ずかしがっちゃ仲良くなれないわよ」
「アストロはなんだか姉みたい」
「え」

 アストロが呆れ、照れながら首裏を掻いた。家族のように見てもらえたのが、嬉しかった。今まで、家族が”家族”と思える相手ではなかったアストロには、望外の喜びなのだ。

「ま、私は二人よりも年上だけどさ」
「いや、体が」

 アストロがチョイチョイと手招きすると、素直にシキは近づく。アストロがシキの肩に手を置くと、そのまま体を反転させた。急に後ろを向かされ、疑問に思うことなく従う。こめかみを両拳でグリグリやってやろうとしたが、腕がもう一本必要なことに気付いた。

「やるわね、シキ」
「何が?」

本気で分からないシキがアストロの顔を見ようとする。アストロはさらなる照れ隠しを実行した。完全なる空手チョップだ。

「ブ」

 シキがちょうど上を向いたときに食らってしまい、いい空手チョップが入ってしまった。

「あ、ごめん」
「構わない」

 アストロが魔法使いで、そこまで筋力がないため、さほどのダメージがなく済んだ。

「お~い、皆、宝箱があったぜ~」

 コストイラが建物の一つから顔を出していた。どうやら海賊がいるかもしれないというのに、この拠点を探索していたようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...