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29.暴霊の傷跡
1.ご注文は宝箱ですか?
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アシドが服を絞る。かなりの水が服から飛び出してきた。
「火は要るかしら?」
アストロが尋ねてくる。何もない状態で火を起こすのは魔力の消費が激しい行為だ。
アシドはボリボリと胸のあたりを掻くと、申し出を断った。
「魔力消費が馬鹿になんねぇだろ」
「確かにそうね」
「しかも、この道を戻りゃ、海賊達の移住地があるんだ。そっちの方が火を点けやすいだろ」
「それもそうね」
「じゃあ、行くか。そのヤバそうな本拠地に」
アシドが不快感を覚えながら濡れた服を肩にかけた。
アレンは高いところから解放され、地球大好きしていた。
「行くぞ」
レイドがアレンのことを掴んで立ち上がらせた。
アレンは幽鬼のような足取りで皆に付いて行く。アレンのメンタルはかなりボロボロだった。必要にしているような言動を周りがしても、自分は何の役に立てていない。周りに気を遣わせてしまっている。エンドローゼやアストロなどの心の機微に敏感で、たびたびアドバイスをくれていた者どころか、これまで何もなかったシキにまで気を遣われるなんて。
シキは今もアレンの隣にいる。皆と一緒にいればいいのに、と思ったが、自分がいるからそれができないのかもしれない。そう思うと、何とも情けのない話だ。
「いいんですよ、シキさん。皆さんのところに行っても」
「……それは命令?」
「え、いいえ。違いますよ」
「そう」
シキは去らなかった。その事実はとても嬉しいことのはずなのに、気を遣わせてしまっていることに負い目を感じている。
少し遅れてアストロ達と合流する。アストロはすでに火を点けており、服を乾かしてた。
シキはトテトテとアストロの元へと歩いて行った。ほら、やっぱりすぐに離れていった。そんなに一緒にいたくなかったんだ。
面倒な彼女のように腐るアレンのことに気付かず、シキがアストロの評価を待つ。
アストロは腐るアレンと子犬のシキを見比べて、大きなバッテンを頭に浮かべた。片腕しかないアストロはバツを表すのが難しいため、とりあえず口だけで言うことにした。
「シキ、あれを見なさい。今のアレンが楽しそうか、悲しそうの二択だったら、どっちに属すると思う?」
唐突に出された問題にも真摯に向き合い、シキは本気でアレンの観察をする。驚異的な洞察力でアレンの一挙手一投足を見逃さず、丸裸にしていく。アレンの表面上に見えている表情だけでなく、皮膚の下に隠された筋肉の動きや、息遣い、血液の流れ方さえも看破していく。
「悲しんで、いる?」
「そうね。きっとすぐに貴女が離れたから不貞腐れているようね」
「私、どうすればいい?」
「もうちょっと構ってあげれば? まぁ、シキがもうちょっと感情を表に出せればいいんだけど」
「どうすればいいか、分からない」
アストロがシキに半眼を向けると、シキはシュンとしてしまった。今まで感情を出すことをよしとしていなかったのだ。父の呪縛が解けたところで、急にすべてを変えられるはずがない。これは徐々に矯正していくことが必要だ。
「というか、何で貴女もエンドローゼも私に相談するわけ?」
「ん?」
「いや、ほら。私以外にもいるじゃない。コストイラでもアシドでも。それこそアレンに直接言っちゃえば?」
アレンの名前が出た途端、頬に血が増えた。アレンは気付かないだろうほどの変化量だ。
「アレンは駄目。私が恥ずかしい。何か、うん。恥ずかしい」
「いつまでも恥ずかしがっちゃ仲良くなれないわよ」
「アストロはなんだか姉みたい」
「え」
アストロが呆れ、照れながら首裏を掻いた。家族のように見てもらえたのが、嬉しかった。今まで、家族が”家族”と思える相手ではなかったアストロには、望外の喜びなのだ。
「ま、私は二人よりも年上だけどさ」
「いや、体が」
アストロがチョイチョイと手招きすると、素直にシキは近づく。アストロがシキの肩に手を置くと、そのまま体を反転させた。急に後ろを向かされ、疑問に思うことなく従う。こめかみを両拳でグリグリやってやろうとしたが、腕がもう一本必要なことに気付いた。
「やるわね、シキ」
「何が?」
本気で分からないシキがアストロの顔を見ようとする。アストロはさらなる照れ隠しを実行した。完全なる空手チョップだ。
「ブ」
シキがちょうど上を向いたときに食らってしまい、いい空手チョップが入ってしまった。
「あ、ごめん」
「構わない」
アストロが魔法使いで、そこまで筋力がないため、さほどのダメージがなく済んだ。
「お~い、皆、宝箱があったぜ~」
コストイラが建物の一つから顔を出していた。どうやら海賊がいるかもしれないというのに、この拠点を探索していたようだ。
「火は要るかしら?」
アストロが尋ねてくる。何もない状態で火を起こすのは魔力の消費が激しい行為だ。
アシドはボリボリと胸のあたりを掻くと、申し出を断った。
「魔力消費が馬鹿になんねぇだろ」
「確かにそうね」
「しかも、この道を戻りゃ、海賊達の移住地があるんだ。そっちの方が火を点けやすいだろ」
「それもそうね」
「じゃあ、行くか。そのヤバそうな本拠地に」
アシドが不快感を覚えながら濡れた服を肩にかけた。
アレンは高いところから解放され、地球大好きしていた。
「行くぞ」
レイドがアレンのことを掴んで立ち上がらせた。
アレンは幽鬼のような足取りで皆に付いて行く。アレンのメンタルはかなりボロボロだった。必要にしているような言動を周りがしても、自分は何の役に立てていない。周りに気を遣わせてしまっている。エンドローゼやアストロなどの心の機微に敏感で、たびたびアドバイスをくれていた者どころか、これまで何もなかったシキにまで気を遣われるなんて。
シキは今もアレンの隣にいる。皆と一緒にいればいいのに、と思ったが、自分がいるからそれができないのかもしれない。そう思うと、何とも情けのない話だ。
「いいんですよ、シキさん。皆さんのところに行っても」
「……それは命令?」
「え、いいえ。違いますよ」
「そう」
シキは去らなかった。その事実はとても嬉しいことのはずなのに、気を遣わせてしまっていることに負い目を感じている。
少し遅れてアストロ達と合流する。アストロはすでに火を点けており、服を乾かしてた。
シキはトテトテとアストロの元へと歩いて行った。ほら、やっぱりすぐに離れていった。そんなに一緒にいたくなかったんだ。
面倒な彼女のように腐るアレンのことに気付かず、シキがアストロの評価を待つ。
アストロは腐るアレンと子犬のシキを見比べて、大きなバッテンを頭に浮かべた。片腕しかないアストロはバツを表すのが難しいため、とりあえず口だけで言うことにした。
「シキ、あれを見なさい。今のアレンが楽しそうか、悲しそうの二択だったら、どっちに属すると思う?」
唐突に出された問題にも真摯に向き合い、シキは本気でアレンの観察をする。驚異的な洞察力でアレンの一挙手一投足を見逃さず、丸裸にしていく。アレンの表面上に見えている表情だけでなく、皮膚の下に隠された筋肉の動きや、息遣い、血液の流れ方さえも看破していく。
「悲しんで、いる?」
「そうね。きっとすぐに貴女が離れたから不貞腐れているようね」
「私、どうすればいい?」
「もうちょっと構ってあげれば? まぁ、シキがもうちょっと感情を表に出せればいいんだけど」
「どうすればいいか、分からない」
アストロがシキに半眼を向けると、シキはシュンとしてしまった。今まで感情を出すことをよしとしていなかったのだ。父の呪縛が解けたところで、急にすべてを変えられるはずがない。これは徐々に矯正していくことが必要だ。
「というか、何で貴女もエンドローゼも私に相談するわけ?」
「ん?」
「いや、ほら。私以外にもいるじゃない。コストイラでもアシドでも。それこそアレンに直接言っちゃえば?」
アレンの名前が出た途端、頬に血が増えた。アレンは気付かないだろうほどの変化量だ。
「アレンは駄目。私が恥ずかしい。何か、うん。恥ずかしい」
「いつまでも恥ずかしがっちゃ仲良くなれないわよ」
「アストロはなんだか姉みたい」
「え」
アストロが呆れ、照れながら首裏を掻いた。家族のように見てもらえたのが、嬉しかった。今まで、家族が”家族”と思える相手ではなかったアストロには、望外の喜びなのだ。
「ま、私は二人よりも年上だけどさ」
「いや、体が」
アストロがチョイチョイと手招きすると、素直にシキは近づく。アストロがシキの肩に手を置くと、そのまま体を反転させた。急に後ろを向かされ、疑問に思うことなく従う。こめかみを両拳でグリグリやってやろうとしたが、腕がもう一本必要なことに気付いた。
「やるわね、シキ」
「何が?」
本気で分からないシキがアストロの顔を見ようとする。アストロはさらなる照れ隠しを実行した。完全なる空手チョップだ。
「ブ」
シキがちょうど上を向いたときに食らってしまい、いい空手チョップが入ってしまった。
「あ、ごめん」
「構わない」
アストロが魔法使いで、そこまで筋力がないため、さほどのダメージがなく済んだ。
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