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29.暴霊の傷跡
3.岩礁の遺跡の地下道
しおりを挟む少女説明中。
どこか訝しみながら、アストロは了承した。こんな海賊のアジトに少女が一人。怪しまないほど阿呆ではない。シキは単に悪意しか感じ取れなかった。だからこそ誘いを受けたのだ。アレンの前で格好いいところを見せるために!
「初めまして、マスコンディレートです」
「どうも、コストイラです」
少女マスコンディレートはエンドローゼ以下アレン以上の身長だ。小柄。高レベルなキングパイレーツの元に集まった、それなりのレベル帯の海賊が犇めく場所に一人。普通ではない。
力自慢、というわけではないだろう。アストロのような魔力を主とする人か、シキのように技巧派か。
どちらにせよ、この少女は強い。この海賊団は軽く百人を超えている。それを御するような魔術。広範囲もしくは高火力、もしくはその両方を持ったものの可能性がある。それを往なすような技術。四方八方から来る攻撃に対応しきる技術である可能性がある。
強者。小柄故に舐められがちだが、強者。
「こっちだよ」
軽業師のような身のこなしで、積まれた石に昇る。
身軽。魔術師にしろ、技術屋にしろ、身軽のようだ。固定砲台のようにどっしり構えるのではなく、移動しながら放つ移動砲台のようだ。
こういうタイプは両方をこなすことができる集中力を持っていることが多い。乱すのは容易ではないだろう。
技術屋だとしたら、それはもうシキだ。シキが上位互換なのか、下位互換なのかで、対応が著しく変わる。
少しでも不穏な行動をしたら殺す。
コストイラは無表情の下に、激情を隠していた。
アストロはコストイラに半眼を向ける。
コストイラは忘れている選択肢がある。
魔術師、魔法使い、技術屋の他に召喚士という線がある。
召喚士は自分以外のものを呼び出すことで、敵と戦わせたり、荷物を運んでもらったりする職のものだ。召喚するものは人間でも魔物でも道具でも構わない。何かは分からないが、この海賊をものともしない何かを召喚できるということだ。
いや、駄目だ、とアストロは自身の考えを落とすように頭を振る。
一つに絞るような思考は行動を制限してしまう。それは死に近づく行為だ。
アストロがマスコンディレートを観察する。
少女は気付かずに先を歩く。キョロキョロと周りを見ながら、迷路をものともしない。
なぜするすると進めるのかが謎だ。もしかしたら、ここに住んでいる海賊の一人なのかもしれない。
注意して、警戒して、神経をすり減らして。何て馬鹿なことをしているのだろうと思う。しかし、これが命を守る行為につながるのだ。
アストロは狂おうとしても狂えず、コストイラの気持ちが理解できない。この苦しみは解消されない。
シキは単純な女だ。あまり深く考えていない。
道は父が教えてくれた。しかし、その道は枝分かれしていて、父の示した道ではなく、もう一つの方の道を選んだ。
シキは考えることが苦手だ。父が示す道を選べなくなり、自分で考えることをしていかなくてはいけなくなった。今まで考えてこなかった少女に、いきなり考えることを強要するのは酷だ。
最近は自分で考えられるようになり、自分の意志で行動するようになった。
シキは単純な女だ。思考のプロセスがひどく単純なのだ。普段戦闘においては高度なやり取りをしているにもかかわらず、そのやり取りはひどく稚拙に物語ることさえできる。
見て往なす。見て躱す。見て駆け出す。見て、見て、見て、見て……。見て倒す。
異常なほど優れた動体視力で相手を見て、常外な程動く運動能力で対処する。
作中最速の母、作中屈指の暗殺者の父の間に生まれた娘は対処してしまう。
だからこそ、シキは単純に考えた。
今回も勝つ。
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