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30.月の船
2.魔石の人形
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『きついだろうなぁ、少年』
『理想と現実の狭間、か。理想・希望を持つからこそ、沈み絶望する。実績が積めれば、現実に生きられるのだが』
『それこそきついだろ。もう戦闘に関しては実績が積めないって本人が思っているんだから』
『他のもので補えればいいのだが、割り切れるのか? あの凡人が』
『それが厳しいんだよね。もう自信ダダ下がり。エンドローゼちゃんがシキをくっつけようとしているから、私もバックアップしたいんだけど。……本人の意志が弱すぎる』
『自信は実績によって形作られる。実績は行動によって保障される。しかし、行動が起こせず、実績が生まれず、自信は創出されない。アレンには頑張ってほしいものだな』
『そうだね』
『ところで』
『ウン?』
『なぜこんなところにいる?』
『いや! 待て待て待て! 怒るのはまだ早いんじゃないかなぁ~。だいたい、今は箱舟事件の捜索中だろ? 私だってここで推理していたんだよ?』
『では、そのチミリアの菓子は?』
『頭を使う時は甘い物、というか、糖分を欲するものさ!』
ゴンッ!
血の足跡を作っている。
別に誰かが怪我をしているわけではない。シキの体を色づけているヨルムンガンドの血を落としているだけだ。
川に沿って移動し、海に辿り着いたにもかかわらず、今は水場一つ見当たらない。
ピクリとシキの鼻とアシドの眉が動いた。両者が水を感じ取ったのだ。
「ところで、精霊襲来っていうか、大きな蛇と戦った時、シキはどこにいたの? あれ、とどめってシキでしょ?」
「ん。脳、美味しかった」
一行は黙った。え、食ったん? その反応の真意が分からず、シキの首が傾いた。
「そ、それよりも、シキは体を洗った方がいいな。体が血塗れすぎて、足跡すらできているしな」
「確かに」
「ていうか、その状態で不快じゃないの? ベタベタだろ?」
「不快」
分かりやすくコストイラが話題を変えた。アストロとアシドもそれに乗っかった。アシドの言葉に、シキは当然のように当たり前なことを即答した。
「とはいっても、洗い流せる場所なんて」
「「あっち」」
シキとアシドが指を差した。
「何で分かるんだよ」
「何でって言われても、水がある雰囲気ってのがあるだろ?」
「匂い」
「人外じみた感覚しているわね」
アシドがふんわりとした回答をし、シキが一言で答えを言った。アストロはあまりの異人絶人ぶりに天を仰いだ。
「なぁ、アストロ」
腕組みしているコストイラが今にも唸りそうな顔をしている。
「……何よ、コストイラ」
「よくお前が人外じみているって言っていたのが、ようやく理解で聞いたわ。オレの耳が水の音を聞いている」
「壊人」
「え、魁人?」
アストロはコストイラにも呆れた。
「水場まで行く」
シキがポタポタと未だに血を垂らしながら、方向を変えた。
その後、難なく水場に辿り着いたシキは何の躊躇なく、川に飛び込んだ。じわ~と川が赤くなっていく。綺麗なうちに汲んでおいた水があるが、もうこの水は飲めないだろう。
そんなことをすれば、もちろん怒る。誰が? 利用者が。
コストイラ達はてっきり鹿や狼のような獣が出てくると思っていた。
違った。全てが違った。想定していたような四足歩行でなければ、獣でもなかった。それどころか生き物かどうかも怪しい。
身長2m半でずんぐりとした、横幅が広く見える見た目。とはいえ、肩幅が広く、腕が太いのでそう見えているだけであろう。淡く幽かに光るオレンジの瞳を持った、モスグリーンの石の体。
石。そう石だ。岩やら何やらと他のもので表すより、石と表した方が無難だ。
モスグリーンの体の中に、透き通るような白銀が見える。その特徴を持つ鉱石をアレン達は知っている。
月天石。レイドの楯にも使われている、魔力を軽減させる効果のある鉱石だ。
「い、石って水を飲みのか……」
コストイラが衝撃を受けた。
『理想と現実の狭間、か。理想・希望を持つからこそ、沈み絶望する。実績が積めれば、現実に生きられるのだが』
『それこそきついだろ。もう戦闘に関しては実績が積めないって本人が思っているんだから』
『他のもので補えればいいのだが、割り切れるのか? あの凡人が』
『それが厳しいんだよね。もう自信ダダ下がり。エンドローゼちゃんがシキをくっつけようとしているから、私もバックアップしたいんだけど。……本人の意志が弱すぎる』
『自信は実績によって形作られる。実績は行動によって保障される。しかし、行動が起こせず、実績が生まれず、自信は創出されない。アレンには頑張ってほしいものだな』
『そうだね』
『ところで』
『ウン?』
『なぜこんなところにいる?』
『いや! 待て待て待て! 怒るのはまだ早いんじゃないかなぁ~。だいたい、今は箱舟事件の捜索中だろ? 私だってここで推理していたんだよ?』
『では、そのチミリアの菓子は?』
『頭を使う時は甘い物、というか、糖分を欲するものさ!』
ゴンッ!
血の足跡を作っている。
別に誰かが怪我をしているわけではない。シキの体を色づけているヨルムンガンドの血を落としているだけだ。
川に沿って移動し、海に辿り着いたにもかかわらず、今は水場一つ見当たらない。
ピクリとシキの鼻とアシドの眉が動いた。両者が水を感じ取ったのだ。
「ところで、精霊襲来っていうか、大きな蛇と戦った時、シキはどこにいたの? あれ、とどめってシキでしょ?」
「ん。脳、美味しかった」
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「そ、それよりも、シキは体を洗った方がいいな。体が血塗れすぎて、足跡すらできているしな」
「確かに」
「ていうか、その状態で不快じゃないの? ベタベタだろ?」
「不快」
分かりやすくコストイラが話題を変えた。アストロとアシドもそれに乗っかった。アシドの言葉に、シキは当然のように当たり前なことを即答した。
「とはいっても、洗い流せる場所なんて」
「「あっち」」
シキとアシドが指を差した。
「何で分かるんだよ」
「何でって言われても、水がある雰囲気ってのがあるだろ?」
「匂い」
「人外じみた感覚しているわね」
アシドがふんわりとした回答をし、シキが一言で答えを言った。アストロはあまりの異人絶人ぶりに天を仰いだ。
「なぁ、アストロ」
腕組みしているコストイラが今にも唸りそうな顔をしている。
「……何よ、コストイラ」
「よくお前が人外じみているって言っていたのが、ようやく理解で聞いたわ。オレの耳が水の音を聞いている」
「壊人」
「え、魁人?」
アストロはコストイラにも呆れた。
「水場まで行く」
シキがポタポタと未だに血を垂らしながら、方向を変えた。
その後、難なく水場に辿り着いたシキは何の躊躇なく、川に飛び込んだ。じわ~と川が赤くなっていく。綺麗なうちに汲んでおいた水があるが、もうこの水は飲めないだろう。
そんなことをすれば、もちろん怒る。誰が? 利用者が。
コストイラ達はてっきり鹿や狼のような獣が出てくると思っていた。
違った。全てが違った。想定していたような四足歩行でなければ、獣でもなかった。それどころか生き物かどうかも怪しい。
身長2m半でずんぐりとした、横幅が広く見える見た目。とはいえ、肩幅が広く、腕が太いのでそう見えているだけであろう。淡く幽かに光るオレンジの瞳を持った、モスグリーンの石の体。
石。そう石だ。岩やら何やらと他のもので表すより、石と表した方が無難だ。
モスグリーンの体の中に、透き通るような白銀が見える。その特徴を持つ鉱石をアレン達は知っている。
月天石。レイドの楯にも使われている、魔力を軽減させる効果のある鉱石だ。
「い、石って水を飲みのか……」
コストイラが衝撃を受けた。
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