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30.月の船
13.超えてはならない橋
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シキは暗闇の中に立っている気になった。
「あれ?」
シキは不思議な感覚を得た。今、シキは森の中で、木の枝から監視していたはずだ。
それがいったいどうしてここにいる。
辺りを見ようとまず後ろを向いた。すると、そこには扉があった。
見るからに分厚いと予想できる木製の扉。その取っ手の輪は錆びた鉄でできている。周りを赤煉瓦の塀に囲まれており、ここは僅かな空間でしかない。
光源がないのに、扉が薄く照らされている。どこか誘導されている気がしてならない。
一刻も早くアレン達の元に戻りたいと願い、木扉に手を掛ける。鍵がかかっているかと思ったが、意外にも手応えなく、ギィィと低く軋むような音とともにゆっくりと開いた。
扉の向こうには何も存在しておらず、ただ真っ直ぐへと進む通路のみ。前へと進むごとに数度、シキが空間の変化を知覚した。
今にも寿命がつきそうな明かりに小さな光、耳朶に届いてくる水流の音。黴臭い暗闇。もしかしたらここは下水路か?
いよいよ厄介事になってきて、アレンとの再会が遠ざかるのを感じて、シキが焦り始める。
やや狭苦しい道を歩いていると、音を立てて水が流れる主水路に出た。
石材と木材で構築された隧道が垂直方向に伸びている。ここはちょうど十字路のようだ。
シキの前には橋が架かっている。この主水路を渡るためだろう。幅は十数メートルあり、大きな荷物の運搬もしているのだろう予想がついた。
左右に道がないため、この橋を渡るしかない。
シキが橋に足を踏み入れようとした瞬間、足を止めた。
駄目だ。これは渡ってはいけない橋だ。言うなれば、摂理の橋だ。今、シキがいる場所は自然の摂理に守られている場所だ。もしこの橋を越えてしまった時、おそらくシキは人間ではいなくなる。恐怖。
分かる。勘だが、分かってしまう。
しかし、シキは歩行の動作を再開させた。
シキは強くなりないという願いを込めた。もし皆を護れるのであれば構わない。シキは踏み出す足に力を込めた。
ゴン。
橋の真ん中で淡く光る『何か』が立っている。斧のような鉈のような刃物を地面につけて仁王立ちしていた。
シキには『何か』は『何か』にしか見えない。光のせいか元からか、輪郭がはっきりしないのだ。
「どいて」
シキの言葉に一切の反応を示さない。
「どいて」
二言目にも示さない。今も不動のままだ。
「どいて!」
怒気の籠った言葉とともに、シキがナイフを抜いた。そこでシキの目が見開かれる。いつもの感触ではなく、懐かしい感触だ。瞬時に武器を振りかぶり、ノータイムで振り下ろしてきた。
シキがナイフで受け止める。その時、シキは自身のナイフが見えた。いつもの然と闇の魔剣ではない。以前使っていたナイフだ。
ヴァヴィレイズはドラゴンマスターだ。しかし、学舎における生活で、一度、ドラゴン以外の魔物を使役したことがある。
雌蟷螂である。雌蟷螂は夢を見させる魔物だ。格下、格上関係なく、悪夢を見せる。
しかし、格上は夢であると気付いてしまうため、あまり意味をなさない。
とはいえ、一時的な足止めはできる。
「よくやった、レーシー」
『あ、るじ』
エンプーサは顔を明るくして、ヴァヴィレイズに抱き着き、胸板に頬擦りをした。ヴァヴィレイズは腹でグニグニと形を変えるエンプーサの胸を一通り堪能すると、少女の頭を撫でた。
「意識が戻ってくる前に殺す」
ヴァヴィレイズがナイフを抜く。少し小さな代物だが、動かない相手にはこれで十分だ。
その時、シキが動いた。無造作にナイフを振るったため、ヴァヴィレイズには届いていない。
「あ、危ねェ」
ヴァヴィレイズは顎まで伝った汗を手の甲で拭った。
シキは眠っている。これは確実なことだ。
だというのに、動いたのか? この少女は。
一体、どんな夢を見ているというのだ。
「あれ?」
シキは不思議な感覚を得た。今、シキは森の中で、木の枝から監視していたはずだ。
それがいったいどうしてここにいる。
辺りを見ようとまず後ろを向いた。すると、そこには扉があった。
見るからに分厚いと予想できる木製の扉。その取っ手の輪は錆びた鉄でできている。周りを赤煉瓦の塀に囲まれており、ここは僅かな空間でしかない。
光源がないのに、扉が薄く照らされている。どこか誘導されている気がしてならない。
一刻も早くアレン達の元に戻りたいと願い、木扉に手を掛ける。鍵がかかっているかと思ったが、意外にも手応えなく、ギィィと低く軋むような音とともにゆっくりと開いた。
扉の向こうには何も存在しておらず、ただ真っ直ぐへと進む通路のみ。前へと進むごとに数度、シキが空間の変化を知覚した。
今にも寿命がつきそうな明かりに小さな光、耳朶に届いてくる水流の音。黴臭い暗闇。もしかしたらここは下水路か?
いよいよ厄介事になってきて、アレンとの再会が遠ざかるのを感じて、シキが焦り始める。
やや狭苦しい道を歩いていると、音を立てて水が流れる主水路に出た。
石材と木材で構築された隧道が垂直方向に伸びている。ここはちょうど十字路のようだ。
シキの前には橋が架かっている。この主水路を渡るためだろう。幅は十数メートルあり、大きな荷物の運搬もしているのだろう予想がついた。
左右に道がないため、この橋を渡るしかない。
シキが橋に足を踏み入れようとした瞬間、足を止めた。
駄目だ。これは渡ってはいけない橋だ。言うなれば、摂理の橋だ。今、シキがいる場所は自然の摂理に守られている場所だ。もしこの橋を越えてしまった時、おそらくシキは人間ではいなくなる。恐怖。
分かる。勘だが、分かってしまう。
しかし、シキは歩行の動作を再開させた。
シキは強くなりないという願いを込めた。もし皆を護れるのであれば構わない。シキは踏み出す足に力を込めた。
ゴン。
橋の真ん中で淡く光る『何か』が立っている。斧のような鉈のような刃物を地面につけて仁王立ちしていた。
シキには『何か』は『何か』にしか見えない。光のせいか元からか、輪郭がはっきりしないのだ。
「どいて」
シキの言葉に一切の反応を示さない。
「どいて」
二言目にも示さない。今も不動のままだ。
「どいて!」
怒気の籠った言葉とともに、シキがナイフを抜いた。そこでシキの目が見開かれる。いつもの感触ではなく、懐かしい感触だ。瞬時に武器を振りかぶり、ノータイムで振り下ろしてきた。
シキがナイフで受け止める。その時、シキは自身のナイフが見えた。いつもの然と闇の魔剣ではない。以前使っていたナイフだ。
ヴァヴィレイズはドラゴンマスターだ。しかし、学舎における生活で、一度、ドラゴン以外の魔物を使役したことがある。
雌蟷螂である。雌蟷螂は夢を見させる魔物だ。格下、格上関係なく、悪夢を見せる。
しかし、格上は夢であると気付いてしまうため、あまり意味をなさない。
とはいえ、一時的な足止めはできる。
「よくやった、レーシー」
『あ、るじ』
エンプーサは顔を明るくして、ヴァヴィレイズに抱き着き、胸板に頬擦りをした。ヴァヴィレイズは腹でグニグニと形を変えるエンプーサの胸を一通り堪能すると、少女の頭を撫でた。
「意識が戻ってくる前に殺す」
ヴァヴィレイズがナイフを抜く。少し小さな代物だが、動かない相手にはこれで十分だ。
その時、シキが動いた。無造作にナイフを振るったため、ヴァヴィレイズには届いていない。
「あ、危ねェ」
ヴァヴィレイズは顎まで伝った汗を手の甲で拭った。
シキは眠っている。これは確実なことだ。
だというのに、動いたのか? この少女は。
一体、どんな夢を見ているというのだ。
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