561 / 684
31.サディスホユー
6.蠢く住人
しおりを挟む
「いたわね」
そっと静かに呟く。巨大な甲虫を刺激しないように、だ。
無駄な戦闘は避けた方がいい。それが今の認識だ。
「離れるぞ」
全員が頷いて、入口に向かった。懸念するべきなのは、ここが二階である点だ。階段の軋みで起こしてしまうかもしれないからだ。
エンドローゼに注目が集まる。こういう時にやらかす筆頭だからだ。エンドローゼは薄い胸を張った。何してんだ?
「ハップション!」
アレンがくしゃみした。そういえばアレンもやらかし大魔神だった。
巨大甲虫がくわりと目を開いた。そのまま角を突き出して突進してきた。
「危ねェ」
コストイラがアレンを突き飛ばし、刀で受けた。横からレイドが突進する。ドゥームビートルが横に押され、埃だらけの家具やぬいぐるみに倒れ込んだ。見ているのもつらくなるほど埃が舞った。
「今のうちに」
アレン達が階段に向かって走る。
ドゥームビートルが角をコストイラに当てる。離されることなく、押し付けられる。
「マジかよ」
そのまま巨大甲虫が突進すると、コストイラは家の壁を突き破った。
体が宙を舞う。踏ん張ることができないため、脱出ができない。
ズドンと地面に落ち、角で押し込まれた。肘が少し曲がる。むしろ、そちらの方が力が入りやすいので、好都合だ。
伸びていたら、骨で支えることができていたので、少し休むことができていたが、高望みはしまい。
「くそ、押し込む力が馬鹿強ェ」
コストイラは一瞬だけ筋肉を増強させて押し返す。その隙で脱出した。
背を打った時にできた呼吸の乱れを治していく。大きく息を吸い、肺に溜め込む。そして、一気に駆け出した。
巨大甲虫が角を振るう。刀を振るわれた炎のようにゆらりと躱し、一気に距離を詰めた。鋭い鉤爪のついた足を振るう。
コストイラの刀が閃き、前脚が消し飛んだ。
『ガッ!?』
驚愕する巨大甲虫を置き去りにして、武器を振るう。蟲の節々が簡単に切り落とされていく。
「こいつで終わりだ」
最後の一刀がドゥームビートルの角を捉えた。
『フム。知らなかったの。罪を重ねる者は、その分だけ不味くなる。よい発見をした。ということは、あの少年アレンはいかなる旨味を持っているのであろうな』
白と黒の女は積み重なった死体の山の上に座りながら、想い人のことを頭に浮かべた。
山から飛び出た腕を掴むと、思い切り引き千切り、口に入れた。
『いくら我と言えども、この量は多いな。全て食うには食うが、時間がかかる』
ゴリゴリと臼歯で磨り潰しながら、足元の死体を眺める。
その時、建物の壁が揺れ、扉が吹き飛んだ。
『ヌ?』
「ここか!? 通報があったっていう場所は!?」
「は!? アンタ、それを調べずにやったの!?」
非常識な声を聞きながら、女は食事を続ける。
「「ゼッタイここだぁー!?」」
男女の絶叫を聞きながら、指を差し示した。
『何じゃ、五月蠅いのぉ。見て分からんか? 我は食事中じゃぞ』
「テメェ何食っていやがる」
男の声音に怒気が孕んでいる。
正直な話、男の怒りの原因が分かっていない。男もお腹が空いているのだろうか。
「これを貴女一人でやったの?」
『ん? まぁ、そうじゃな。奴等が我に楽しいことをしようと誘ってきたのじゃ。そこで我も楽しいことをしたまでよ』
「楽しいこと、だと」
『あぁ、楽しく愛し合い、楽しい食事をしている。楽しすぎて、少し用意しすぎてしまった。貴君等も食うか?』
「「殺す!」」
またしても声が重なった。何とも仲の良いことだろうか。
『羨ましいのぉ。欲しくなってしまう』
そして、蹂躙が始まった。
そっと静かに呟く。巨大な甲虫を刺激しないように、だ。
無駄な戦闘は避けた方がいい。それが今の認識だ。
「離れるぞ」
全員が頷いて、入口に向かった。懸念するべきなのは、ここが二階である点だ。階段の軋みで起こしてしまうかもしれないからだ。
エンドローゼに注目が集まる。こういう時にやらかす筆頭だからだ。エンドローゼは薄い胸を張った。何してんだ?
「ハップション!」
アレンがくしゃみした。そういえばアレンもやらかし大魔神だった。
巨大甲虫がくわりと目を開いた。そのまま角を突き出して突進してきた。
「危ねェ」
コストイラがアレンを突き飛ばし、刀で受けた。横からレイドが突進する。ドゥームビートルが横に押され、埃だらけの家具やぬいぐるみに倒れ込んだ。見ているのもつらくなるほど埃が舞った。
「今のうちに」
アレン達が階段に向かって走る。
ドゥームビートルが角をコストイラに当てる。離されることなく、押し付けられる。
「マジかよ」
そのまま巨大甲虫が突進すると、コストイラは家の壁を突き破った。
体が宙を舞う。踏ん張ることができないため、脱出ができない。
ズドンと地面に落ち、角で押し込まれた。肘が少し曲がる。むしろ、そちらの方が力が入りやすいので、好都合だ。
伸びていたら、骨で支えることができていたので、少し休むことができていたが、高望みはしまい。
「くそ、押し込む力が馬鹿強ェ」
コストイラは一瞬だけ筋肉を増強させて押し返す。その隙で脱出した。
背を打った時にできた呼吸の乱れを治していく。大きく息を吸い、肺に溜め込む。そして、一気に駆け出した。
巨大甲虫が角を振るう。刀を振るわれた炎のようにゆらりと躱し、一気に距離を詰めた。鋭い鉤爪のついた足を振るう。
コストイラの刀が閃き、前脚が消し飛んだ。
『ガッ!?』
驚愕する巨大甲虫を置き去りにして、武器を振るう。蟲の節々が簡単に切り落とされていく。
「こいつで終わりだ」
最後の一刀がドゥームビートルの角を捉えた。
『フム。知らなかったの。罪を重ねる者は、その分だけ不味くなる。よい発見をした。ということは、あの少年アレンはいかなる旨味を持っているのであろうな』
白と黒の女は積み重なった死体の山の上に座りながら、想い人のことを頭に浮かべた。
山から飛び出た腕を掴むと、思い切り引き千切り、口に入れた。
『いくら我と言えども、この量は多いな。全て食うには食うが、時間がかかる』
ゴリゴリと臼歯で磨り潰しながら、足元の死体を眺める。
その時、建物の壁が揺れ、扉が吹き飛んだ。
『ヌ?』
「ここか!? 通報があったっていう場所は!?」
「は!? アンタ、それを調べずにやったの!?」
非常識な声を聞きながら、女は食事を続ける。
「「ゼッタイここだぁー!?」」
男女の絶叫を聞きながら、指を差し示した。
『何じゃ、五月蠅いのぉ。見て分からんか? 我は食事中じゃぞ』
「テメェ何食っていやがる」
男の声音に怒気が孕んでいる。
正直な話、男の怒りの原因が分かっていない。男もお腹が空いているのだろうか。
「これを貴女一人でやったの?」
『ん? まぁ、そうじゃな。奴等が我に楽しいことをしようと誘ってきたのじゃ。そこで我も楽しいことをしたまでよ』
「楽しいこと、だと」
『あぁ、楽しく愛し合い、楽しい食事をしている。楽しすぎて、少し用意しすぎてしまった。貴君等も食うか?』
「「殺す!」」
またしても声が重なった。何とも仲の良いことだろうか。
『羨ましいのぉ。欲しくなってしまう』
そして、蹂躙が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる