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第二章 使えない治療術師

思いがけない対面

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 ファンの町には、東西に分かれて大きな道具屋が存在する。
 それぞれに扱っている商品は大きく違い、東は寝袋やテント、携帯用調理器具などの冒険必需品を、西はポーションや毒消しなどの薬剤関連を主に置いているのだ。

 そして、今回我が訪れたのは西の道具屋。
 先ほど目に留まったパーティの少女……テトが向かった先である。

 勿論、店内でも彼女を尾けるつもりだったのだが……

「こ、これは……噂に聞く”激落ちウォッシャーポーション”……それにこっちは”万能救急セット”……我が天職を隠している関係上、これも是非欲しい……うむ……」

 西の道具屋に入ったのは初めてなのだが、やたらと品揃えが豊富で困ってしまう。
 今はそれどころでは無いというのに、手が……足が……勝手にカウンターへと運ばれてしまううううううううっ!

「きゃっ……」

 ……と、危ない危ない。
 興奮しすぎて、誰かと衝突してしまったのだ。

「す、すまぬ……前が見えていなくて――――」

 態勢を立て直して前を見た瞬間、我は言葉を失ってしまった。
 何故なら……

「こ、こちらこそ……申し訳ありません、不注意でした……怪我はありませんか?」

 間違いない……
 この低姿勢な感じ、白い髪を後ろで一つに縛り、弱々しさを更に引き立てる白い肌を持った少女。
 先程のテトと呼ばれていた彼女である……

 いや、しかし……意図せぬことだったが、接点を持てたのは幸いだ。
 ここは――――

「いや、今回は全面的に我が悪い……少し、謝罪をさせてくれぬか……?」

 我は一度冷静になって、外のコーヒー店を見た。
 何と言うか……ナンパ紛いの行為で余り気分は良くないが、これも仕方のない事だ……我慢しろよ、我……

 暫しの沈黙が続くが……
 少女もようやく、我の意図に気づいたようで――――

「えっ!? あっ、あの……本当に大丈夫です、わたし…………その、急いでいるので……!」

 顔を赤く染めたと思ったら突然勢いよく立ち上がり、すぐさまその場を去ろうとする少女。
 どうやら、本当に不埒な輩だと思われているらしい。

 ……こうなったら、もう恥は捨てるしかない!
 我はがっしりと少女の手首を掴んで、此方へ引き寄せた。

 そして――――

「頼む……このままでは我の気が済まぬのだ、どうか……この願いを受け入れてはくれぬか?」

 強引な誘いだ。
 全身の肌が鳥類のそれと同じものになっている。
 これでダメなら……潔く諦めて、キッパリと全て忘れよう……

 そんな、一世一代の告白をしているような心中でいると……

「……わかり……ました、少しだけ……なら」

 もじもじとしながらも、こちらの提案を受け入れてくれる少女。
 外面は平然を装いながらも、正直……


 我の寿命が縮まったのは確実だろう。



◇◆◇



「では、落ち着いたところで自己紹介といこうか。我が名はレギ、よろしく頼むぞ!」

 コーヒー店の一際目立たない席に腰かけて、第一声を放つ。
 少女は未だにもじもじしていたが、一つ、深呼吸をしてから口を開いた。

「あの、えと……わたしは、テト……といいます……コ、コーヒー……ご馳走さま、です……」

 うむ、名前がテトであることは勿論しっていた。
 それは置いとくとして……いくらなんでも弱々しすぎないだろうか?

 いや、我の強引な誘いに委縮してしまっているという事もあるだろうが……


 ……ここは一つ、切り込んでみるか。

「そういえば、お前はあの道具屋で何を探していたんだ?」

「え……? そ、その……ポーションを少し、パーティの皆様が足りないと言うので……」

「なるほどな、確かにポーションは冒険に重要な物だ。……しかし、その荷物に加えて更にポーションも、というのは些か重すぎるのではないか?」

「そっ、それは……ルー様……パーティメンバーの一人が、荷物持ちはわたしが適任だと……そう、仰っていたので……務めは、果たさないと……」

「荷物持ち、か……しかし、そこまでの大荷物を一人に預けるなど……同じパーティの”仲間”に対する対応とは思えんがな」

「……わたしが……悪いんです、わたしが……使えない”治療術師”だから……」

 ……やっと本人からもその言葉が出たか。
 使えない治療術師……別に、この少女を救ってやりたいとか……そんな聖人じみた事を言うつもりはない。
 ただ、目の前でうじうじされるのは無性に腹が立ってくるというだけだ……

 だから――――

「テト……お前は、今の状況を変えたいと思わんのか?」

「え……? ……それは――――」

「もし、もしもだ……少しでも、変えたい――いや、変わりたいと願うのならば……僅かではあるが、この我が助力する!」

 これは、こいつのためじゃない……
 どこか、昔の自分に言い聞かせているような気がしたのだ……
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