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第二章 使えない治療術師
かけがえのない温もり
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治療術師が役立たずだというのは、最早世界の共通認識であろう。
しかし、その根っこの部分は意外と知られていない。
簡単な回復スキルしか使えない? 能力の伸びが悪い?
いいや、そんなものは序の口だ。
一番の問題点は、そう……
パーティに必ず一人は居るであろう、勇者の……ほぼ完全なる下位互換になってしまう事である。
初級回復スキル・治療が使える事が、治療術師の唯一の取り柄なのだが……
勇者が修行を積めば、治療はおろか……その更に上位の回復スキルまで習得できてしまうのだ。
ただ、勇者というのは攻撃の要でもある。
だからこそ、回復役が必要なのだが……
神の決めた初期パーティで、回復役が治療術師になってしまった場合……
他の有能な回復役がパーティ入りする事はほぼなくなってしまう。
これは、神がバランス良くパーティを選別するというシステム上……仕方のない話なのだが、治療術師が回復枠として選ばれてしまった結果、パーティがいつまでたっても昇格できない――といった事がざらにあるのである。
故に治療術師は疎まれ、追放される。
しかし……他の回復役――こと、”治癒師”に関しては話は別だ。
治癒師はありとあらゆる回復スキルを使いこなし、補助から多少の攻撃役まで担う事ができる……最高の万能回復役なのである。
攻撃寄りの回復役――聖天使と並んで、人々の間では当たり天職として有名になっている。
そして――――
目の前で俯く少女――自らを使えない治療術師だと語ったテトもまた……治癒師だったのだ……
「……テトよ、なぜ……貴様は治療術師などと……」
一番の疑問であった。
治癒師である彼女が、治療術師であると偽るメリットは無い。
パーティメンバーからしても、本人にしてみても……
だが、彼女は確かに……自分から言った。
――使えない治療術師、と……
「……わたしも……わたしも、最初の内は治癒師として歓迎されていたんです……ジン様も、エスラナ様も……わたしを褒めてくださいました……」
「ジンとエスラナ……確か、貴様の……」
「はい、パーティメンバーです。……でも、冒険者になって2日目のこと……わたしはスキルが使えなくなってしまいました……本当に、大したこと無い事だったのに…………わたしの頭からは、あの時の出来事が離れなくなってしまったんです……」
「……あの時、の?」
その疑問に、テトはしばらくの間口を噤んでいた。
だが、いつまでもこのままでは進まないと感じたのか、意を決したように話し始める。
「……一人でファンの町の裏通りを歩いていた時の事です……突然、後ろから人に襲われました……」
「なっ……!?」
「幸い……駆け付けたジン様たちのおかげで、何事も無く済んだのですが……」
「……そうか、フラッシュバック……だな……?」
フラッシュバックとは、過去のトラウマ体験などが突然、鮮明に呼び起こされる現象だが……これは職技の発動と深い関係がある。
そう、職技とは冷静な心を以て発動しなければ、効果が弱まるものなのだ。
そして、より重度なものとなると……職技は虚しく霧散し、発動する事すらできない。
「……あの事件の後も、幸い……治療だけは使う事ができました。でも……それが仇となってしまったのかもしれません……」
「そうか、それで……治療術師と……」
通常、治療しか使えない治癒師など存在しない。
だから、彼女はこう見られてしまったのだろう……
”治療術師”であるにも拘わらず、”治癒師”であると偽っていた……と。
確かにそれならば、パーティメンバーの印象は最悪な筈である……
勿論、だからといって彼女が受けてきた仕打ちが妥当とは思えないが。
うーむ……
「……ここまで聞いておいて何なのだが、貴様……先ほどは普通に完治を使えていたのだろう? もしや、過去のトラウマは拭いされたのか?」
「えっ!? そ、それは……さっきは、その……夢中で……わたしも怖かったけど……レギさんが死んでしまうのは、もっと……怖かったから……」
少し顔を赤らめて言葉を紡ぐテト。
別に恥ずべき事では無いと思うが……ともかく――――
「テト、貴様はもう……治癒師としてやっていけるのではないか?」
「…………それは……」
トラウマを乗り越え、治癒師としてのカンを取り戻したというのであれば、我にはもう……してやれる事がない。
……が、テトの表情にはまだどこか、陰が残っている気がした。
「……確かに、最近はもう……あの時襲われた記憶は去りつつありました……多分、レギさんのおかげでもあると思います……」
「別に我は何も――――」
「ふふっ、謙遜なんて……らしくないですよ? レギさんはいつも……わたしを楽しませようとしてくれていましたから……」
「ぬっ……そんなことは無い……が、しかし……あの時の記憶は去りつつある……という事は、まだ何か気になる事があるのか?」
訊いておきつつも、我には多少の心当たりがあった。
そう――――
「パーティメンバーの事……だな?」
今の彼女を最も苦しめているのは、間違いなく同じパーティの連中だ。
彼らの過剰な暴力やイビリは、確実に職技の発動を邪魔している事だろう……
「今のわたしが、パーティに戻って……最初と同じように、治癒師としてやっていくのは難しいかもしれません……でも、少しだけ……少しだけ、頑張ってみようと思います……ここまで付き合ってくれた、レギさんの為にも……」
少しの迷いと、強い決意の籠った言葉。
我としては快く送り出してやりたいところだが……
「待て、テト! どうせ……どうせここまで来たのだ、最後の一歩も……少しは協力させろ!」
テトの事を信じていない訳は無い。
ただ、未だパーティへの不安が拭えない彼女を一人で送り出すのは気が引けたのだ。
だから、ここは一つ……
この我が策を講じる事としよう!
しかし、その根っこの部分は意外と知られていない。
簡単な回復スキルしか使えない? 能力の伸びが悪い?
いいや、そんなものは序の口だ。
一番の問題点は、そう……
パーティに必ず一人は居るであろう、勇者の……ほぼ完全なる下位互換になってしまう事である。
初級回復スキル・治療が使える事が、治療術師の唯一の取り柄なのだが……
勇者が修行を積めば、治療はおろか……その更に上位の回復スキルまで習得できてしまうのだ。
ただ、勇者というのは攻撃の要でもある。
だからこそ、回復役が必要なのだが……
神の決めた初期パーティで、回復役が治療術師になってしまった場合……
他の有能な回復役がパーティ入りする事はほぼなくなってしまう。
これは、神がバランス良くパーティを選別するというシステム上……仕方のない話なのだが、治療術師が回復枠として選ばれてしまった結果、パーティがいつまでたっても昇格できない――といった事がざらにあるのである。
故に治療術師は疎まれ、追放される。
しかし……他の回復役――こと、”治癒師”に関しては話は別だ。
治癒師はありとあらゆる回復スキルを使いこなし、補助から多少の攻撃役まで担う事ができる……最高の万能回復役なのである。
攻撃寄りの回復役――聖天使と並んで、人々の間では当たり天職として有名になっている。
そして――――
目の前で俯く少女――自らを使えない治療術師だと語ったテトもまた……治癒師だったのだ……
「……テトよ、なぜ……貴様は治療術師などと……」
一番の疑問であった。
治癒師である彼女が、治療術師であると偽るメリットは無い。
パーティメンバーからしても、本人にしてみても……
だが、彼女は確かに……自分から言った。
――使えない治療術師、と……
「……わたしも……わたしも、最初の内は治癒師として歓迎されていたんです……ジン様も、エスラナ様も……わたしを褒めてくださいました……」
「ジンとエスラナ……確か、貴様の……」
「はい、パーティメンバーです。……でも、冒険者になって2日目のこと……わたしはスキルが使えなくなってしまいました……本当に、大したこと無い事だったのに…………わたしの頭からは、あの時の出来事が離れなくなってしまったんです……」
「……あの時、の?」
その疑問に、テトはしばらくの間口を噤んでいた。
だが、いつまでもこのままでは進まないと感じたのか、意を決したように話し始める。
「……一人でファンの町の裏通りを歩いていた時の事です……突然、後ろから人に襲われました……」
「なっ……!?」
「幸い……駆け付けたジン様たちのおかげで、何事も無く済んだのですが……」
「……そうか、フラッシュバック……だな……?」
フラッシュバックとは、過去のトラウマ体験などが突然、鮮明に呼び起こされる現象だが……これは職技の発動と深い関係がある。
そう、職技とは冷静な心を以て発動しなければ、効果が弱まるものなのだ。
そして、より重度なものとなると……職技は虚しく霧散し、発動する事すらできない。
「……あの事件の後も、幸い……治療だけは使う事ができました。でも……それが仇となってしまったのかもしれません……」
「そうか、それで……治療術師と……」
通常、治療しか使えない治癒師など存在しない。
だから、彼女はこう見られてしまったのだろう……
”治療術師”であるにも拘わらず、”治癒師”であると偽っていた……と。
確かにそれならば、パーティメンバーの印象は最悪な筈である……
勿論、だからといって彼女が受けてきた仕打ちが妥当とは思えないが。
うーむ……
「……ここまで聞いておいて何なのだが、貴様……先ほどは普通に完治を使えていたのだろう? もしや、過去のトラウマは拭いされたのか?」
「えっ!? そ、それは……さっきは、その……夢中で……わたしも怖かったけど……レギさんが死んでしまうのは、もっと……怖かったから……」
少し顔を赤らめて言葉を紡ぐテト。
別に恥ずべき事では無いと思うが……ともかく――――
「テト、貴様はもう……治癒師としてやっていけるのではないか?」
「…………それは……」
トラウマを乗り越え、治癒師としてのカンを取り戻したというのであれば、我にはもう……してやれる事がない。
……が、テトの表情にはまだどこか、陰が残っている気がした。
「……確かに、最近はもう……あの時襲われた記憶は去りつつありました……多分、レギさんのおかげでもあると思います……」
「別に我は何も――――」
「ふふっ、謙遜なんて……らしくないですよ? レギさんはいつも……わたしを楽しませようとしてくれていましたから……」
「ぬっ……そんなことは無い……が、しかし……あの時の記憶は去りつつある……という事は、まだ何か気になる事があるのか?」
訊いておきつつも、我には多少の心当たりがあった。
そう――――
「パーティメンバーの事……だな?」
今の彼女を最も苦しめているのは、間違いなく同じパーティの連中だ。
彼らの過剰な暴力やイビリは、確実に職技の発動を邪魔している事だろう……
「今のわたしが、パーティに戻って……最初と同じように、治癒師としてやっていくのは難しいかもしれません……でも、少しだけ……少しだけ、頑張ってみようと思います……ここまで付き合ってくれた、レギさんの為にも……」
少しの迷いと、強い決意の籠った言葉。
我としては快く送り出してやりたいところだが……
「待て、テト! どうせ……どうせここまで来たのだ、最後の一歩も……少しは協力させろ!」
テトの事を信じていない訳は無い。
ただ、未だパーティへの不安が拭えない彼女を一人で送り出すのは気が引けたのだ。
だから、ここは一つ……
この我が策を講じる事としよう!
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