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第二章 使えない治療術師

踏み込めない理由

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 全身の痺れが消えてきたと思ったら、今度は途轍もない衝撃が身体を襲っていた。

 どうやら、勇者の一撃がかなりオーバーキル気味で分身の巨人形ゴーレムへ直撃したらしい……
 ここまでは全て演出な訳だが……流石にやりすぎだろう……

 くっ……テトの奴にもう一人の自分スワンプマンの詳細を伝えなかったのは失敗だったな……

 ……と、悔やんでいても仕方が無い。
 巨人形ゴーレムが倒されたという事は、それ即ち……テトを認めさせるための我が作戦が成功したという事だ!

 まあ、この痛みが代償だというのなら安いものだろう。
 遠目から、パーティメンバーが次々とテトへ頭を下げているのが見えるため……その後の対応も上手くやっているようだ。

 本当に……よかっ――――

「ちょおおおおおおおっとおおおおおおおっ! アンタ達、待ちなさいよおおおおおお!」

 そんな感動は、ある一人の女の絶叫によって全て掻き消されてしまう。
 奴は確か……ルーと言ったか……

 思い返すと、いつだってテトへのいじめの先頭に立っていたのはあの女だった。

 少し……嫌な予感がするな。

「アンタ達っ! そんな簡単にこのクソ女を認めていいと思ってるのっ!? こいつは……あたしらを騙していたのよ!? 使えない治療術師の癖に……生意気にも治癒師だなんて語りやがって!」

「い、いや……ルー、君は初めから・・・・そう言っていたけど……さっきも見たでしょ? テトが治癒師のスキルを使ったところを――――」

「うるさいっ! エスラナ、アンタ……今更になってその女に肩入れするつもりっ!?」

「お、おいっ! ルー、お前……さっきからどうかしてるぞっ!? 一旦冷静に――――」

「うるせえええええええええええっ!!!!! どいつもこいつも……こんなクソ女の色香に騙されやがって…………こうなったら……もう一回スキル使えなくしてやる・・・・・・・・・・・・・・・……!」

 最後の方は小声で、完全には聞き取れなかったが……
 あの言い様……まるで、自分がテトのスキルを使えなくしたかのような……

 ……などと思考を巡らせている間に、事態は急変していた。

「きゃっ……!? や……やめて……ください、ルー……様」

「うるせえ……てめえなんてこの鞭で、もう二度と……見られねえ顔にしてやるよおおおおおお! うらあああああっ! 鞭壊クラッシュ・ウィップ!」

 明らかに殺意の籠ったスキルが、ルーの手元から放たれた。
 他のメンバーも咄嗟に止めようと動き始めるが、鞭スキルは速さが命……勿論、間に合う訳も無かった。

 ――――だが!

 バシッ!

「なっ……!? なんだ……てめえっ!?」

 ギリギリだった……

 テトの顔面に攻撃が当たる……そのほんの寸前で、鞭は動きを止めた。
 我が手に掴まれたことによって!

「……レギ……さん……?」

「はあ……はあ……なん、とか……間に合ったようだな」

「てめえ……赤の他人の癖に…………他所のパーティの事に首突っ込んでじゃねえよっ!」

 相変わらず凄まじいルーの怒号。
 全く……思わず耳を塞ぎたくもなるのだが、一つ……奴の言葉に聞き逃せない部分があった。

「……赤の……他人、だと……? 貴様、本気でそう言っているのか……?」

「あぁん? 意味わかんねえよ、てめえ! 本気とか何とか関係無く……てめえはあたしらのパーティにとって他人だって言ってるんだよっ!?」

「ふっ……そうか、貴様のような下賤な輩には理解もできんだろうな」

「……んだと?」

「パーティの事なんてどうだっていいし、貴様らは確かに我にとって他人かもしれない……だが…………こいつは……テトは我の同志ともだ! その同志ともを助けるのに、一々貴様からとやかく言われる筋合いは……無いっ!」



◇◆◇









 ……と、派手に啖呵を切ったはいいものの……我が体力にもかなりの限界が来ていた。

 何分、フウのおかげで今朝は一睡もすいていないのだ。
 そこに加わる分身の代償と麻痺毒……

 最早、ピンピンしている方が異常というものだ。
 僅かに残っていた力も、あの女の鞭を受け止めるために全て費やしてしまった……

 と、なれば。
 残された選択肢はただ一つ……

 我は一瞬の隙を見計らって、テトの脇腹へ手を通す。

 そして――――

「えっ!? レギさっ――――」

「テト……! …………逃げるぞおおおおおおおおっ!」

「て、てめえっ!? 待ちやがれっ!」

 もうこれ以上は無い、というレベルの見事なとんずら。
 あの女も必死で追いかけてくるが……何せ、舞台は見通しの悪い森の中だ。

 ある程度撒けてしまえば、あとは逃げる側が圧倒的に有利。
 この隙に――――

「レ、レギさん!? い、いきなり何なんですかっ!?」

「ちょ、貴様っ! 暴れるな、落としてしまうだろう!?」

 逃げるだけでも必死だというのに、テトの奴ときたら……いきなり手足をバタバタさせて、もがき始めた。
 たたでさえ片手で抱きかかえるのはきついのだ、こんな事をされてはいつ落としてもおかしくないな……

 仕方が無い、もう少し遠くまで逃げるつもりだったが……
 この辺りで一旦身を隠そう。

 そう思って木の影にテトをちょこんと座らせると、今度は顔を真っ赤にして我が胸をポンポン殴ってきた。

 痛みは全く無いが、何もそこまで怒る事は無かろうに……
 隠れているという状況は理解しているのか、声は出さないものの……テトは若干涙目で、明らかな敵意をこちらに向けてきていた。

 だが、このままお怒り状態が続くのはまずい。
 だから、出来るだけ小声で……説得を試みる事にした。

「あ、あの……だな、テトよ……その、いきなり抱きかかえてしまったのはすまな――――」

「もう知りませんっ……!」

 どうやらダメみたいである。
 うーむ……テトに回復してもらって、あの女と対峙する算段でいたのだが……思わぬ誤算である。

 こうなっては最早手段を選んではいられない。
 余り使いたくなかったが……仕方あるまい。

 我が一つの決意を固めたその時……
 辺り一帯に、不快な金属音が響いた。

 そして――――

「あー! もうめんどくせええええええっ!」

 続いて聞こえてきたのは、間違いなく……あの女――ルーの声であった。
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