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五
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品子は、少女を自宅まで連れ帰っていた。布団に寝かせて、額の汗を拭き取る。ほかにやりようがあったのかもしれないが、考えるより先に体が動いていた。
幸い、少女はうなされている様子もなく、熱も徐々に引いていきそうだった。
もし、朝になって具合が悪くなるようなら早めに医者に連れて行かなくては、そう考えながら夜が明けていった。
品子は、はっと目を覚ました。看病しているうちにいつの間にか寝入ってしまったようだ。少女の方も寝たままのようで、すやすやと穏やかな寝息を立てている。額に触れてみるとどうやら熱はひいてしまったようだ。
品子は安心して、一息つこうと思った。台所で湯を沸かす。珈琲でも飲もうかと思ったが、あいにく切らしていた。代わりに紅茶を取り出し、二人分を淹れた。
紅茶を飲んでいると、床に投げ出してあった靴が目に止まった。あの子にあげた靴だ。昨日脱がせたっきりそのままになっていた。
その靴を手にとって見る。ところどころ擦れてはいるものの、路上で暮らしていたとは思えないほどキレイなままだった。大事に履いてくれていたらしい。思わず笑みが溢れる。
品子が靴を眺めていると、背後で扉のあく音がした。振り返ると、少女がこちらを見ている。目が合った。その眼は以前と違い、警戒心を感じさせなかった。
「靴の人?」その声は、笹の葉が揺れるような涼やかなものだった。
「ええ、そうよ」品子は、覚えてくれていたと嬉しくなる。
「あと、パンと、お菓子と、えっとそれから」色々と思い出してくれているようだった。「その……ありがとう」
品子は、一歩ずつ少女に近づいていった。今度は後ずさりもしていない。眼の前まで来て、体を屈める。同じ目線で見つめ合いながら手を伸ばして、少女の頬をなでた。「具合は悪くない?昨日は熱があったから」
「大丈夫」
それを聞いて安心し、思わず抱きしめていた。
「私は、品子。あなたの名前は?」
「ヨウカ、鷹に華で鷹華」
「そう。素敵な名前ね」
どこからともなく猫が現れ、二人の間で丸くなると、短く小さく鳴いた。
幸い、少女はうなされている様子もなく、熱も徐々に引いていきそうだった。
もし、朝になって具合が悪くなるようなら早めに医者に連れて行かなくては、そう考えながら夜が明けていった。
品子は、はっと目を覚ました。看病しているうちにいつの間にか寝入ってしまったようだ。少女の方も寝たままのようで、すやすやと穏やかな寝息を立てている。額に触れてみるとどうやら熱はひいてしまったようだ。
品子は安心して、一息つこうと思った。台所で湯を沸かす。珈琲でも飲もうかと思ったが、あいにく切らしていた。代わりに紅茶を取り出し、二人分を淹れた。
紅茶を飲んでいると、床に投げ出してあった靴が目に止まった。あの子にあげた靴だ。昨日脱がせたっきりそのままになっていた。
その靴を手にとって見る。ところどころ擦れてはいるものの、路上で暮らしていたとは思えないほどキレイなままだった。大事に履いてくれていたらしい。思わず笑みが溢れる。
品子が靴を眺めていると、背後で扉のあく音がした。振り返ると、少女がこちらを見ている。目が合った。その眼は以前と違い、警戒心を感じさせなかった。
「靴の人?」その声は、笹の葉が揺れるような涼やかなものだった。
「ええ、そうよ」品子は、覚えてくれていたと嬉しくなる。
「あと、パンと、お菓子と、えっとそれから」色々と思い出してくれているようだった。「その……ありがとう」
品子は、一歩ずつ少女に近づいていった。今度は後ずさりもしていない。眼の前まで来て、体を屈める。同じ目線で見つめ合いながら手を伸ばして、少女の頬をなでた。「具合は悪くない?昨日は熱があったから」
「大丈夫」
それを聞いて安心し、思わず抱きしめていた。
「私は、品子。あなたの名前は?」
「ヨウカ、鷹に華で鷹華」
「そう。素敵な名前ね」
どこからともなく猫が現れ、二人の間で丸くなると、短く小さく鳴いた。
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