139 / 244
139 ー長い時ー
しおりを挟む
城を出て町を抜け、門をくぐった先、窓から覗く景色はいつも通りで、畑と遠目に見える山々は変わりばえのないものだった。
強いて言うなら緑が薄くなっただろうか。夏が終わり秋冬とのんびり進まず、こちらは途端に寒くなる季節の変わりを持つようで、その季節に追いつくためにさっさと葉の色を落とさねばならないのかもしれない。
山の上は緑を持ちながらもまばらに黄色の一角が見える。日陰になりやすいところは紅葉が見られた。
畑にある緑は既に黄色い。麦でも収穫しているのか、腰に藁のようなものを横にしてぶら下げている農民たちが目に入った。
実りの秋か、人の姿が畑で見られる。
馬車の近くを歩んでいた人々は、乗っている者が何者か知らずとも地面に平伏し頭を下げた。豪奢な馬車と伴う従者の数を見れば、とりあえず頭を下げるのだろう。下げて咎められることはない。
謂れの無いことで咎められたくないだろう。牧歌的でのどかな景色は平和に見えるが、それが当たり前でないことを皆知っている。
粗相はない方がいいわけだ。
とは言え、理音からすれば頭を下げられるのに抵抗感がある。仮初めの姿は敵だけが知ればいい。
理音は外を見るのをやめた。けれど馬車の中に話しかける相手もいないので、馬車の中で充電器を出してそれを窓に引っ掛け、今できることをすることにした。
ガタゴトと馬車は進んでいく、時折石に引っかかりガタリと大きく揺れるが、速さは一定で直線を進んでいるようだった。
スピードは体感で公道の車移動の速さ以下。四十キロメートルも出ていないだろう。さすがに誘拐された時のように猛スピードで走り続けるわけではない。
「この速さで十数日か…」
そう考えると、思ったより遠い場所ではないような気がする。
途中休憩もとるだろう。何せ馬車である。ガソリンで動いているわけではない。休憩もとりつつ、馬も交替させるかもしれない。何日もかけて同じ馬を走らせるのはさすがに負担がかかりすぎた。
地図をもらっておけばよかったな。と今更気付く。何と言っても前回のようなことになっては困るので、進みながらフォーエンに町の名前を聞くつもりだった。地図も持ってくると思っていたし、説明ももらえると思っていたので、すっかり失念していた。
「前回の二の舞はごめんだなあ」
馬車の中でフォーエンに教えてもらうつもりだったのがいけなかっただろうか。前勉強をしておけばよかったわけである。どうせ暇だからと思っていたのが仇になった。
長旅なのに一人。気楽だが、それはそれで寂しい。
普段ならばフォーエンに話しかけてはわからないものを教えてもらえるのに、それがないと何だかすぐに眠ってしまいそうだった。
揺れは車のそれとは違い、どちらかと言うとバスのタイヤの上の座席に座った気分。上下の揺れは時折お尻を浮かせてくれる。
お尻を浮かせる以外手持ち無沙汰でやることもないので、結局眠りに誘われるのは案外早かった。
フォーエンと一緒にエシカルへ行った時を夢うつつの中で思い出す。
あの頃は自分の言葉がフォーエンに通じなかった。それでも旅が楽しく感じたのだから、あの頃既にフォーエンに惹かれていたのかもしれない。
だからだろうか。一人で馬車に乗ることが、こんなにつまらないものだとは思わなかったのだ。
いくつかの集落を抜けて、荒野に戻る。それを過ぎて小さな町に入った時は既に夕闇で、門のあるそこをくぐれば一夜過ごすことになるのだとわかった。
町の中も馬車を走らせて辿り着いた宿は、宿でもその辺の宿ではなく、どちらかと言えばお屋敷。城とまではいかないが、この小さな町にある一番大きそうな建物に通されたので、一人でいてもフォーエンの連れとして扱われているのは間違いがなかった。
女官に連れられて部屋に入れば、そこは落ち着きのある部屋でありながら豪華さは保っている。
窓枠の細かな彫り、寝台の柔らかさや天幕の布の滑らかさはどこかの高級コテージさながら。テーブルランプの装飾は不思議な模様で辺りに光を届けており、異国情緒あふれる雰囲気が感嘆のため息をつけさせる。
けれど食事はそこに運ばれ、タライに入れられたお湯をいただいて、軽く湯浴みを済ませれば手洗い以外、外に出ることを許されなかった。
厳重に警備されていると言うよりは、閉じ込められている感。
いつも通りの扱いが囮を思い出させた。
「フォーエン、着いたのかなあ」
呟きはどこにも届かない。
部屋に女官はいない。着替えや食事の手伝いに三人がいたが、寝巻きに着替えさせられたらそのまま頭を下げて出て行った。
元々一人が知っている顔なだけで、話したことはない。彼女たちが無言で理音の世話をするものなので、彼女たちに何かを聞くのはやめておいた。余計なことを言って囮に気付かれたくないし、何かしら話してボロを出したくない。
しかし、そのお陰で、フォーエンがどうしているか聞くことはできなかった。
少し遅れて進む。それは少しではなく、一日。もしくは数日。まさかの中止の可能性もあった。
何せ理音は囮である。今回の旅はフォーエンが動く予定と謳っておきながら、自分だけが出発した。理音を人質として取られても良いのだから、可能性としてはフォーエンは来ないことの方があり得た。
「あり得すぎる」
呟きに頷く者はいないが、理音には納得するものがあった。
フォーエンがその時理音を本当に遅れて行くと思っていても、あとでコウユウに行くのを中止しましょうとでも言われれば、文句は言っても理音は王都を発っている。後の祭りだ。別々に行動するのならば、行くふりをして行かない方がフォーエンは安全。
自分がコウユウならそうする。
心臓に重みを感じるのは、それが現実であるからだろうか。
それが事実となれば、一体どこに向かうかもわからなくなってきた。もしかしたら捨てられる可能性も出てくるのだ。
最近の理音の行動に、コウユウは少なからず苛立っているだろう。
フォーエンを看病したことも、襲われてフォーエンに心配をかけたために、フォーエンに近い場所で働くことを許されたことも。そして極めつけの男色噂を知らしめた張本人である。
「殺すわ~」
殺られるかもとは思ったが、コウユウは本気で殺るかもしれないと、今更ながら首筋に寒気を感じた。
この場所がどこであるか、地図でもいただいておいた方がいいのだろうか。かと言って暗殺者でも出てきたら、地図云々言っていられる場合ではないのだが。
深く考えても答えは出ない。とりあえず睡眠不足は全ての敵だ。暗殺者が出てきても逃げられる体力は持っておきたい。
最近、普通に当たり前にそんなことを考えるようになった。環境に慣れている証拠だろう。
そう思って寝台に横になって、瞼を下ろす。瞼にうつる彼は憂いの顔を見せていた。
心配してくれるだろうか、自分の身を。そんな顔をしなくてもいいのに、けれどどこか嬉しさを感じたなんて言ったら、本当にコウユウに殺されそうだ。
子犬の目でこちらを見るのだから、大丈夫だよ、と頭を撫でてやりたくなる。やったら怒られて殴られそうだが。
これは特権だ。ほんのり心に暖かさを感じるくらい、許してもらいたい。
意地悪くフォーエンの憂い顔を思い出して、理音は一瞬で眠りに落ちた。
旅を始めてから二日目。
馬車の中から見える同じ風景は続き、手持ち無沙汰で一日を過ごす。
フォーエンには会えない。会うことはないかもしれない。
三日目。
二日目と同じく。
四日目。
同じく。
五日目…。
同じ日々が続き、十日目の夕方だった。それが起きたのは。
ああ、これを狙っていたのか、それとも偶然だったのか。それはわからない。
ただ起きた時にやはりと思い、けれどそれで終わりとは思いたくなかった。
あと数日で自分は帰れるだろうと考えていたからだ。
帰る日が来る。
それを望んでいたかはともかく、帰るつもりだった。
ガタン、と馬車が大仰に音をたてて止まった時、何事かと思う前に眠りの中で体重が前に動いて、座席からずり落ちて馬車の中で転げながら目が覚めた。
どこを打ったのか、身体中が痛い。数日の間馬車の中でじっとしていたことと、今の衝撃でどこぞかを打ったようで、あちこちが痛かった。
窓の外は少し日が陰って見えるか、西日と共に雲が流れて来ている。すんと鼻に水の匂いを感じた。雨が降っているのだろうか。微かに生臭い。
ゆっくりと起き上がろうとする間に、従者がばたばたと動き始める音が聞こえた。
何かおかしなことがあったのだろうか。何事が起きたのか考える前に、馬車の扉は勢いよく音を立てて開いた。
「お逃げください!賊です!」
男の焦った声とその仕草。理音をすぐにでも馬車から出そうとして、手を引いてくる。
その動作と言葉の意味に驚いている間に、ドガドガと地面を叩きつける音が耳に届いた。
何が響いたのかわからない。けれどそれは遠くから聞こえ、地鳴りのようにも思えた。それを遮るように従者が声高に叫ぶ。
「矢を番えた者が数十名!馬で追ってきます。岩陰に隠れここを離れます!この人数では相手に太刀打ちできません!」
裾を踏みつけそうになりながら従者に促されて馬車から降りれば、確かに馬の蹄の音が聞こえる。地面を叩く音は馬の走る音だ。遠くを見れば砂けむりも見える。弓矢を持っているかはよく見えなかったが、馬が走ってこちらに向かってきていた。
その馬へ向かって行く者たちの姿も見える。剣を片手に、砂けむりに立ち向かおうとしているようだった。
「兵が時間を稼ぎます。どうぞこちらへ!」
兵が時間を稼ぐ。けれど、さっき太刀打ちできないと言わなかっただろうか。
それにここから見ても人数が少なすぎる。一緒に来ていた兵士は十数人。砂けむりはそれ以上の人数に見えた。
ひゅうっと冷たい風が肌に突き刺さる。雨は降っていなかったが、首筋に水滴が滴った。
一瞬で身体中に汗をかいた気がした。これから起こることを想像しなくとも、背筋に汗が流れた。
強いて言うなら緑が薄くなっただろうか。夏が終わり秋冬とのんびり進まず、こちらは途端に寒くなる季節の変わりを持つようで、その季節に追いつくためにさっさと葉の色を落とさねばならないのかもしれない。
山の上は緑を持ちながらもまばらに黄色の一角が見える。日陰になりやすいところは紅葉が見られた。
畑にある緑は既に黄色い。麦でも収穫しているのか、腰に藁のようなものを横にしてぶら下げている農民たちが目に入った。
実りの秋か、人の姿が畑で見られる。
馬車の近くを歩んでいた人々は、乗っている者が何者か知らずとも地面に平伏し頭を下げた。豪奢な馬車と伴う従者の数を見れば、とりあえず頭を下げるのだろう。下げて咎められることはない。
謂れの無いことで咎められたくないだろう。牧歌的でのどかな景色は平和に見えるが、それが当たり前でないことを皆知っている。
粗相はない方がいいわけだ。
とは言え、理音からすれば頭を下げられるのに抵抗感がある。仮初めの姿は敵だけが知ればいい。
理音は外を見るのをやめた。けれど馬車の中に話しかける相手もいないので、馬車の中で充電器を出してそれを窓に引っ掛け、今できることをすることにした。
ガタゴトと馬車は進んでいく、時折石に引っかかりガタリと大きく揺れるが、速さは一定で直線を進んでいるようだった。
スピードは体感で公道の車移動の速さ以下。四十キロメートルも出ていないだろう。さすがに誘拐された時のように猛スピードで走り続けるわけではない。
「この速さで十数日か…」
そう考えると、思ったより遠い場所ではないような気がする。
途中休憩もとるだろう。何せ馬車である。ガソリンで動いているわけではない。休憩もとりつつ、馬も交替させるかもしれない。何日もかけて同じ馬を走らせるのはさすがに負担がかかりすぎた。
地図をもらっておけばよかったな。と今更気付く。何と言っても前回のようなことになっては困るので、進みながらフォーエンに町の名前を聞くつもりだった。地図も持ってくると思っていたし、説明ももらえると思っていたので、すっかり失念していた。
「前回の二の舞はごめんだなあ」
馬車の中でフォーエンに教えてもらうつもりだったのがいけなかっただろうか。前勉強をしておけばよかったわけである。どうせ暇だからと思っていたのが仇になった。
長旅なのに一人。気楽だが、それはそれで寂しい。
普段ならばフォーエンに話しかけてはわからないものを教えてもらえるのに、それがないと何だかすぐに眠ってしまいそうだった。
揺れは車のそれとは違い、どちらかと言うとバスのタイヤの上の座席に座った気分。上下の揺れは時折お尻を浮かせてくれる。
お尻を浮かせる以外手持ち無沙汰でやることもないので、結局眠りに誘われるのは案外早かった。
フォーエンと一緒にエシカルへ行った時を夢うつつの中で思い出す。
あの頃は自分の言葉がフォーエンに通じなかった。それでも旅が楽しく感じたのだから、あの頃既にフォーエンに惹かれていたのかもしれない。
だからだろうか。一人で馬車に乗ることが、こんなにつまらないものだとは思わなかったのだ。
いくつかの集落を抜けて、荒野に戻る。それを過ぎて小さな町に入った時は既に夕闇で、門のあるそこをくぐれば一夜過ごすことになるのだとわかった。
町の中も馬車を走らせて辿り着いた宿は、宿でもその辺の宿ではなく、どちらかと言えばお屋敷。城とまではいかないが、この小さな町にある一番大きそうな建物に通されたので、一人でいてもフォーエンの連れとして扱われているのは間違いがなかった。
女官に連れられて部屋に入れば、そこは落ち着きのある部屋でありながら豪華さは保っている。
窓枠の細かな彫り、寝台の柔らかさや天幕の布の滑らかさはどこかの高級コテージさながら。テーブルランプの装飾は不思議な模様で辺りに光を届けており、異国情緒あふれる雰囲気が感嘆のため息をつけさせる。
けれど食事はそこに運ばれ、タライに入れられたお湯をいただいて、軽く湯浴みを済ませれば手洗い以外、外に出ることを許されなかった。
厳重に警備されていると言うよりは、閉じ込められている感。
いつも通りの扱いが囮を思い出させた。
「フォーエン、着いたのかなあ」
呟きはどこにも届かない。
部屋に女官はいない。着替えや食事の手伝いに三人がいたが、寝巻きに着替えさせられたらそのまま頭を下げて出て行った。
元々一人が知っている顔なだけで、話したことはない。彼女たちが無言で理音の世話をするものなので、彼女たちに何かを聞くのはやめておいた。余計なことを言って囮に気付かれたくないし、何かしら話してボロを出したくない。
しかし、そのお陰で、フォーエンがどうしているか聞くことはできなかった。
少し遅れて進む。それは少しではなく、一日。もしくは数日。まさかの中止の可能性もあった。
何せ理音は囮である。今回の旅はフォーエンが動く予定と謳っておきながら、自分だけが出発した。理音を人質として取られても良いのだから、可能性としてはフォーエンは来ないことの方があり得た。
「あり得すぎる」
呟きに頷く者はいないが、理音には納得するものがあった。
フォーエンがその時理音を本当に遅れて行くと思っていても、あとでコウユウに行くのを中止しましょうとでも言われれば、文句は言っても理音は王都を発っている。後の祭りだ。別々に行動するのならば、行くふりをして行かない方がフォーエンは安全。
自分がコウユウならそうする。
心臓に重みを感じるのは、それが現実であるからだろうか。
それが事実となれば、一体どこに向かうかもわからなくなってきた。もしかしたら捨てられる可能性も出てくるのだ。
最近の理音の行動に、コウユウは少なからず苛立っているだろう。
フォーエンを看病したことも、襲われてフォーエンに心配をかけたために、フォーエンに近い場所で働くことを許されたことも。そして極めつけの男色噂を知らしめた張本人である。
「殺すわ~」
殺られるかもとは思ったが、コウユウは本気で殺るかもしれないと、今更ながら首筋に寒気を感じた。
この場所がどこであるか、地図でもいただいておいた方がいいのだろうか。かと言って暗殺者でも出てきたら、地図云々言っていられる場合ではないのだが。
深く考えても答えは出ない。とりあえず睡眠不足は全ての敵だ。暗殺者が出てきても逃げられる体力は持っておきたい。
最近、普通に当たり前にそんなことを考えるようになった。環境に慣れている証拠だろう。
そう思って寝台に横になって、瞼を下ろす。瞼にうつる彼は憂いの顔を見せていた。
心配してくれるだろうか、自分の身を。そんな顔をしなくてもいいのに、けれどどこか嬉しさを感じたなんて言ったら、本当にコウユウに殺されそうだ。
子犬の目でこちらを見るのだから、大丈夫だよ、と頭を撫でてやりたくなる。やったら怒られて殴られそうだが。
これは特権だ。ほんのり心に暖かさを感じるくらい、許してもらいたい。
意地悪くフォーエンの憂い顔を思い出して、理音は一瞬で眠りに落ちた。
旅を始めてから二日目。
馬車の中から見える同じ風景は続き、手持ち無沙汰で一日を過ごす。
フォーエンには会えない。会うことはないかもしれない。
三日目。
二日目と同じく。
四日目。
同じく。
五日目…。
同じ日々が続き、十日目の夕方だった。それが起きたのは。
ああ、これを狙っていたのか、それとも偶然だったのか。それはわからない。
ただ起きた時にやはりと思い、けれどそれで終わりとは思いたくなかった。
あと数日で自分は帰れるだろうと考えていたからだ。
帰る日が来る。
それを望んでいたかはともかく、帰るつもりだった。
ガタン、と馬車が大仰に音をたてて止まった時、何事かと思う前に眠りの中で体重が前に動いて、座席からずり落ちて馬車の中で転げながら目が覚めた。
どこを打ったのか、身体中が痛い。数日の間馬車の中でじっとしていたことと、今の衝撃でどこぞかを打ったようで、あちこちが痛かった。
窓の外は少し日が陰って見えるか、西日と共に雲が流れて来ている。すんと鼻に水の匂いを感じた。雨が降っているのだろうか。微かに生臭い。
ゆっくりと起き上がろうとする間に、従者がばたばたと動き始める音が聞こえた。
何かおかしなことがあったのだろうか。何事が起きたのか考える前に、馬車の扉は勢いよく音を立てて開いた。
「お逃げください!賊です!」
男の焦った声とその仕草。理音をすぐにでも馬車から出そうとして、手を引いてくる。
その動作と言葉の意味に驚いている間に、ドガドガと地面を叩きつける音が耳に届いた。
何が響いたのかわからない。けれどそれは遠くから聞こえ、地鳴りのようにも思えた。それを遮るように従者が声高に叫ぶ。
「矢を番えた者が数十名!馬で追ってきます。岩陰に隠れここを離れます!この人数では相手に太刀打ちできません!」
裾を踏みつけそうになりながら従者に促されて馬車から降りれば、確かに馬の蹄の音が聞こえる。地面を叩く音は馬の走る音だ。遠くを見れば砂けむりも見える。弓矢を持っているかはよく見えなかったが、馬が走ってこちらに向かってきていた。
その馬へ向かって行く者たちの姿も見える。剣を片手に、砂けむりに立ち向かおうとしているようだった。
「兵が時間を稼ぎます。どうぞこちらへ!」
兵が時間を稼ぐ。けれど、さっき太刀打ちできないと言わなかっただろうか。
それにここから見ても人数が少なすぎる。一緒に来ていた兵士は十数人。砂けむりはそれ以上の人数に見えた。
ひゅうっと冷たい風が肌に突き刺さる。雨は降っていなかったが、首筋に水滴が滴った。
一瞬で身体中に汗をかいた気がした。これから起こることを想像しなくとも、背筋に汗が流れた。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる