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9−2 本棟
『僕のこと、気付いてなかったと思ったけど、違うのかな』
姿を消したままのトビアの声が、頭に響く。
精霊の気配を感じられるかどうかと問われれば、なんともいえない。ヴァレリアンがどの程度の力を持っているか知らない。魔法に長けた者でも、精霊の力に特化しているわけではなかった。
精霊使いは特別だ。もしトビアの気配を感じられるのならば、よほどの魔力を持った者か、精霊使いだ。
「あなたの部屋は、三階の奥になります」
メイド長から鍵を渡されて、部屋に案内される。
「ここを使いなさい。カメリアという子と同部屋よ。荷物を運び終えたら、すぐに仕事をしてもらいます」
「承知しました」
メイド長はさっさと部屋を出ていく。
まったく、面倒なことになった。
両親を王妃に殺されたのならば、ヴァレリアンも王妃に狙われているのかもしれない。王妃がヴァレリアンを狙っているのならば、王妃のスパイも公爵家をうろついているだろう。
まずいところに来てしまったようだ。公爵家は王宮では存在が薄いため、安全だと思っていたのに。むしろ、王妃から睨まれている場所だったとは。
後悔先に立たず。早まった決断に、ため息しか出ない。
昨日の今日。ヴァレリアンと街で会って、そのすぐ次の日がこれだ。
『王妃のスパイだと思われているのかねえ?』
「どうかしらね。でも、ここでおかしな真似をすれば、首を切られるでしょう」
それはもう、言葉通り、首が飛んでいく。
断ることはできない。だとしたら、気を抜かず気を付けるしかない。
離れにある自分の部屋に戻り、荷物をまとめる。カバン一つに入る程度の荷物だ。服や日用品だけで、特に物は多くない。ミシェル・ドヴォスの荷物として、ドヴォス家から持ってきたカバンではあるが、それ以外は新調した。公爵家にメイドとして入るためだ。特におかしなことなどない。
ラシェルの私物はいっさい持っていない。そんな物で素性が明らかになっては困るからだ。
カバンを持って、本棟に戻ろうとすると、同僚の一人に会った。事情は知っているのか、すぐに話を聞きにくる。
「何をしたの? 急に本棟に移動だなんて」
「わかりません。私が聞きたいくらいです」
朝呼ばれて、すぐに本棟に行くことになったのだ。ブルダリアス公爵の言ったことを鵜呑みにするつもりはないが、魔法の力が使えるからと言う必要もなかった。
同僚は疑り深い目を向けてくるが、ラシェルの方が理由を聞きたい。
「ただでさえ人が少ないのに、いきなり四人もいなくなるなんて、どうなっているのかしら」
「四人? 私の他に、三人本棟に移動したんですか?」
「三人は辞めさせられたのよ」
聞けば、あのラシェルに嫌がらせをしていた、三人のメイドが、急遽クビになったそうだ。その上、ラシェルが本棟に移動になったので、少なかったメイドがさらに減ってしまったという。
「どうして、また?」
「知らないわ。呼び出されて、そのまま荷物をまとめて出て行ったの。急に四人もいなくなるなんて、ってみんなと話していたところよ。まあ、彼女たちはいてもいなくても同じだけれど」
さぼってばかりで、ラシェルに仕事を押し付けていた三人だ。それがバレて辞めさせられたとしたら、もしかしなくとも、ヴァレリアンがクビにしたのではないだろうか。
真実はわからないが、急に追い出されたらしい。同僚も三人が仕事をしないと知っているので、彼女たちが追い出されても問題ないようだが、さらにラシェルもいなくなるので、不満に思っているようだ。
(人手不足で、仕事が忙しいものねえ)
あの三人がいなくなれば、仕事も捗るのに。などとラシェルは考えてしまう。いないのならば、こちらで残って仕事をしたいものだ。
「あっちはあっちで、大変らしいわよ」
「向こうって、警備厳しいですけど、理由ご存知ですか?」
「公爵が狙われてるっていう話、知らないの?」
本当に命を狙われているのか。それが王妃の仕業だとしたら、ヴァレリアンは、両親が殺されただけでなく、自身も狙われていることになる。
「本棟って、結構、侵入者多いのよ。だから、警備も多いのだけれど、それでも侵入してくるらしいわ。たまに人が死ぬから、気を付けてね」
「気を付けられるんですか、それ」
「死ぬのは侵入者だから、大丈夫じゃないかしら?」
さらりと言われて、ラシェルは脱力する。
「勘弁してよ……」
王妃の暗殺者が返り討ちに遭っているかもしれないなど、冗談のようだ。なんとも恐ろしい場所に来てしまった。
「これから、ブルダリアス公爵の身の回りの世話をすることになっているんですけれど」
「ご愁傷様ねえ。人が少なくても、私は本棟には行きたくないわ。まあ、頑張って」
同僚の無慈悲な応援に、ラシェルはただただ、大きく息を吐いた。
姿を消したままのトビアの声が、頭に響く。
精霊の気配を感じられるかどうかと問われれば、なんともいえない。ヴァレリアンがどの程度の力を持っているか知らない。魔法に長けた者でも、精霊の力に特化しているわけではなかった。
精霊使いは特別だ。もしトビアの気配を感じられるのならば、よほどの魔力を持った者か、精霊使いだ。
「あなたの部屋は、三階の奥になります」
メイド長から鍵を渡されて、部屋に案内される。
「ここを使いなさい。カメリアという子と同部屋よ。荷物を運び終えたら、すぐに仕事をしてもらいます」
「承知しました」
メイド長はさっさと部屋を出ていく。
まったく、面倒なことになった。
両親を王妃に殺されたのならば、ヴァレリアンも王妃に狙われているのかもしれない。王妃がヴァレリアンを狙っているのならば、王妃のスパイも公爵家をうろついているだろう。
まずいところに来てしまったようだ。公爵家は王宮では存在が薄いため、安全だと思っていたのに。むしろ、王妃から睨まれている場所だったとは。
後悔先に立たず。早まった決断に、ため息しか出ない。
昨日の今日。ヴァレリアンと街で会って、そのすぐ次の日がこれだ。
『王妃のスパイだと思われているのかねえ?』
「どうかしらね。でも、ここでおかしな真似をすれば、首を切られるでしょう」
それはもう、言葉通り、首が飛んでいく。
断ることはできない。だとしたら、気を抜かず気を付けるしかない。
離れにある自分の部屋に戻り、荷物をまとめる。カバン一つに入る程度の荷物だ。服や日用品だけで、特に物は多くない。ミシェル・ドヴォスの荷物として、ドヴォス家から持ってきたカバンではあるが、それ以外は新調した。公爵家にメイドとして入るためだ。特におかしなことなどない。
ラシェルの私物はいっさい持っていない。そんな物で素性が明らかになっては困るからだ。
カバンを持って、本棟に戻ろうとすると、同僚の一人に会った。事情は知っているのか、すぐに話を聞きにくる。
「何をしたの? 急に本棟に移動だなんて」
「わかりません。私が聞きたいくらいです」
朝呼ばれて、すぐに本棟に行くことになったのだ。ブルダリアス公爵の言ったことを鵜呑みにするつもりはないが、魔法の力が使えるからと言う必要もなかった。
同僚は疑り深い目を向けてくるが、ラシェルの方が理由を聞きたい。
「ただでさえ人が少ないのに、いきなり四人もいなくなるなんて、どうなっているのかしら」
「四人? 私の他に、三人本棟に移動したんですか?」
「三人は辞めさせられたのよ」
聞けば、あのラシェルに嫌がらせをしていた、三人のメイドが、急遽クビになったそうだ。その上、ラシェルが本棟に移動になったので、少なかったメイドがさらに減ってしまったという。
「どうして、また?」
「知らないわ。呼び出されて、そのまま荷物をまとめて出て行ったの。急に四人もいなくなるなんて、ってみんなと話していたところよ。まあ、彼女たちはいてもいなくても同じだけれど」
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真実はわからないが、急に追い出されたらしい。同僚も三人が仕事をしないと知っているので、彼女たちが追い出されても問題ないようだが、さらにラシェルもいなくなるので、不満に思っているようだ。
(人手不足で、仕事が忙しいものねえ)
あの三人がいなくなれば、仕事も捗るのに。などとラシェルは考えてしまう。いないのならば、こちらで残って仕事をしたいものだ。
「あっちはあっちで、大変らしいわよ」
「向こうって、警備厳しいですけど、理由ご存知ですか?」
「公爵が狙われてるっていう話、知らないの?」
本当に命を狙われているのか。それが王妃の仕業だとしたら、ヴァレリアンは、両親が殺されただけでなく、自身も狙われていることになる。
「本棟って、結構、侵入者多いのよ。だから、警備も多いのだけれど、それでも侵入してくるらしいわ。たまに人が死ぬから、気を付けてね」
「気を付けられるんですか、それ」
「死ぬのは侵入者だから、大丈夫じゃないかしら?」
さらりと言われて、ラシェルは脱力する。
「勘弁してよ……」
王妃の暗殺者が返り討ちに遭っているかもしれないなど、冗談のようだ。なんとも恐ろしい場所に来てしまった。
「これから、ブルダリアス公爵の身の回りの世話をすることになっているんですけれど」
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同僚の無慈悲な応援に、ラシェルはただただ、大きく息を吐いた。
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