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26 協力
オーグレン伯爵は娘の命を守るために、ヴァレリアンに庇護を求めた。
すべてを信じるわけではないと言いながら、オーグレン伯爵が持って来た資料に目を通す。
『なに書いてあるんだろうね』
トビアが興味深げにして現れると、ヴァレリアンの後ろから資料をのぞく。
「主人より遠慮がないな。文字は読めるのか?」
『バカにするなよ。文字くらい読めるもん!』
「それは失礼した」
『人の名前が載ってただけだよ。それどうするの?』
「さて、どうすべきなのか、考えている」
ヴァレリアンはパラパラとめくりながら何かを書いて、コンラードに渡す。手紙を書いているようだ。
「謀反でも起こすおつもりですか?」
「どうしてそう思う?」
「他に方法がないからです」
王太子殿下であるクリストフが権力を握ったとして、クリストフが今後行うことなど、期待するに値しない。虐殺を良しとした王など、国を殺すようなものだからだ。
王の座がクリストフのものになろうとも、すぐに終わりが来る。独裁者の統治など、推して知るべし。長く続いたとしても、簡単には死ねないだろう。
クリストフは大罪を犯した。裁判も行わず、多くの者を、しかも弱き女性を、殺したのだから。
「他の者たちも黙ってはいないでしょう。婚約者候補の令嬢たちも殺されたとあれば、その両親たちは黙っていません。オーグレン伯爵のように、離脱しはじめる」
「そうであれば、誰を担ぎ上げる?」
「第二王子です」
「ほとんどの者が、姿を見たことがないのに?」
だが、生きている。死んだという噂は聞かない。死んでいるかもしれないという不安はあるが、第二夫人は健在だ。
クリストフを廃太子にし、第二王子を担ぎ上げることになるだろう。
「普通ならば、そう考えます。クリストフが冷静さもなく、ただ愚行を犯しただけならば、王になる気があるのかわかりませんが、そうでなくとも、第二王子が無事であることを確認し、退陣を迫れば良いと考えるでしょう。まずは、第二夫人を取り込もうと」
けれど、オーグレン伯爵はヴァレリアンに助けを求めた。第二夫人の力が弱すぎるからだ。
第二夫人の父親は王妃の父親と同じ、侯爵の身分を持っているが、第二夫人は第二王子を産んでも、王宮の端にある宮に住んでいることから、彼女を擁護する者は少ない。王宮では王妃の力が強すぎて、進んで第二夫人を助けようと思う者は少ない。
肩身の狭い思いをしているのは間違いなく、父親の侯爵が王宮に文句を言いたくとも、王は出てこない。受けるのは王妃で、その声が王に届いているかもわからない。
決定権は王妃に委ねられているため、表立って王妃に立ち向かおうとする貴族はいない。
「だから、まずは公爵様に助けてほしいと言い、そこに協力者を集めるつもりではないですか」
「正解だ。オーグレン伯爵は、仲間になれそうな者の一覧を出してきた。同じく令嬢を殺された者以外に、クリストフの愚行を疑問に思っている者たち。あの短期間で、よく繋ぎをつけたものだ。それほど、王宮が困窮しているのだろうが」
「なにか、気になることがあるのですか?」
「これに簡単に食いつくと、逆に潰される」
「それは、そうですけれど」
謀反ともなれば、それは相手にヴァレリアンを捕えるきっかけを与えてしまうようなものだ。もし、計画途中にクリストフの耳にでも入れば、さすがにクリストフでも対処してくるだろう。
それに、まだ王は健在だ。国自体に、王族に反旗を翻すことは難しい。訴える相手が健常であるかわからないとはいえ、王は生きていることになっている。
(本当に生きているかなんて、わからないけれど)
「公爵様にその旗振りをさせるのは、あまりにも失礼なのでは? 今まで王妃を持ち上げてきた者たちが行うべきでしょう」
「ははっ」
キッパリ言いやれば、ヴァレリアンが吹き出した。
時折、そうやって笑うが、いつも笑えるような話はしていないのだが。
頬杖を突きながら、苦笑いのような、けれどどこか喜んだような笑い方をする。
「そこで、失礼と言うのは、君ならではだな」
「そうですか?」
「好ましいと言う話だ」
さらりと言われて、つい口を閉じる。突然何を言い出すのか、この男は。
『どうでもいいけど! それで、どうするって!?』
トビアがラシェルの目の前に飛び出してきて、踏ん反り返った。トビアはラシェルの周りをぐるりと回ると、水をまといながら怒ったようにくびれのない腰に手を当てて、怒った仕草をする。
「そ、そう。そうですよ。それで、どうなさるつもりですか!?」
「ふむ。考えていることはある。だが、まだ連絡が来なくてな。もしかしたら……」
なにか問題でもあったのか、ヴァレリアンは言葉を濁した。公爵領に戻らず、都に留まっている理由があるのだから、何かを待っているのだろうが。
「オーグレン伯爵に関しては、もう少し誠意を見せてほしいところだな。オーグレン伯爵ほど娘を守りたいという者が、そこまでいるのかもわからない。次期王を前にして、果たして、裏切ることができるのか。王妃とクリストフを陥れられるほどの材料を手にしてもらわなければ、信用もできない」
オーグレン伯爵は問題ないかもしれない。だが、他の者たちは?
ヴァレリアンが気にしているのはそちらのようだ。それもそうだろう。クリストフがもし、本当に、独裁を強いる気ならば、今立たなければ、芽は潰されるだけ。少しでも遅れれば、裏切り者が出てもおかしくない。
この先、どうなってしまうのだろう。クリストフは、一体何を望むのか。
「ラシェル」
「はい!?」
嫌なことを考えたせいで、変な声で返事をしてしまった。ヴァレリアンが目をすがめてくる。
「なんでしょうか?」
その、なんでも見通すような目で見ないでほしい。ヴァレリアンは無言のまま、ラシェルを手で招いた。
ヴァレリアンの側まで近寄ると、机を回って椅子の方に来るように招く。
「な、なんでしょう、か!?」
ヴァレリアンの目の前に行くと、ヴァレリアンがいきなり腰に手を回して、ラシェルを抱きしめた。
なにごとか。勢い余ってヴァレリアンの胸元にぶつかり、行き場のない手が宙をかく。
『ちょ! おい! 離れ! ろ!!』
「トビア、少し静かにしていろ。真面目な話だ」
耳元で、ヴァレリアンの声が届き、顔を向けることもできない。
ヴァレリアンはラシェルを抱きしめたまま、その腕に力を入れる。
「クリストフに渡すつもりはない。あのバカが、狂って君を手に入れようとしても、その手に渡すことはないだろう。たとえ、なにがあろうとも、そんなことが起きれば、必ず取り返しに行くから、安心するといい」
ヴァレリアンも同じことを考えたか。クリストフが強行し、ラシェルを望むとしても、そうはなさないと、ヴァレリアンは口にする。
ゆっくりと離された手は、最後に指先をなでて、そうして口元に運ばれた。
「約束する」
握られた指先から熱が灯るように、顔まで熱くなってくる。
茶化すことのない、真剣なその言葉に、ラシェルは静かに頷いた。
すべてを信じるわけではないと言いながら、オーグレン伯爵が持って来た資料に目を通す。
『なに書いてあるんだろうね』
トビアが興味深げにして現れると、ヴァレリアンの後ろから資料をのぞく。
「主人より遠慮がないな。文字は読めるのか?」
『バカにするなよ。文字くらい読めるもん!』
「それは失礼した」
『人の名前が載ってただけだよ。それどうするの?』
「さて、どうすべきなのか、考えている」
ヴァレリアンはパラパラとめくりながら何かを書いて、コンラードに渡す。手紙を書いているようだ。
「謀反でも起こすおつもりですか?」
「どうしてそう思う?」
「他に方法がないからです」
王太子殿下であるクリストフが権力を握ったとして、クリストフが今後行うことなど、期待するに値しない。虐殺を良しとした王など、国を殺すようなものだからだ。
王の座がクリストフのものになろうとも、すぐに終わりが来る。独裁者の統治など、推して知るべし。長く続いたとしても、簡単には死ねないだろう。
クリストフは大罪を犯した。裁判も行わず、多くの者を、しかも弱き女性を、殺したのだから。
「他の者たちも黙ってはいないでしょう。婚約者候補の令嬢たちも殺されたとあれば、その両親たちは黙っていません。オーグレン伯爵のように、離脱しはじめる」
「そうであれば、誰を担ぎ上げる?」
「第二王子です」
「ほとんどの者が、姿を見たことがないのに?」
だが、生きている。死んだという噂は聞かない。死んでいるかもしれないという不安はあるが、第二夫人は健在だ。
クリストフを廃太子にし、第二王子を担ぎ上げることになるだろう。
「普通ならば、そう考えます。クリストフが冷静さもなく、ただ愚行を犯しただけならば、王になる気があるのかわかりませんが、そうでなくとも、第二王子が無事であることを確認し、退陣を迫れば良いと考えるでしょう。まずは、第二夫人を取り込もうと」
けれど、オーグレン伯爵はヴァレリアンに助けを求めた。第二夫人の力が弱すぎるからだ。
第二夫人の父親は王妃の父親と同じ、侯爵の身分を持っているが、第二夫人は第二王子を産んでも、王宮の端にある宮に住んでいることから、彼女を擁護する者は少ない。王宮では王妃の力が強すぎて、進んで第二夫人を助けようと思う者は少ない。
肩身の狭い思いをしているのは間違いなく、父親の侯爵が王宮に文句を言いたくとも、王は出てこない。受けるのは王妃で、その声が王に届いているかもわからない。
決定権は王妃に委ねられているため、表立って王妃に立ち向かおうとする貴族はいない。
「だから、まずは公爵様に助けてほしいと言い、そこに協力者を集めるつもりではないですか」
「正解だ。オーグレン伯爵は、仲間になれそうな者の一覧を出してきた。同じく令嬢を殺された者以外に、クリストフの愚行を疑問に思っている者たち。あの短期間で、よく繋ぎをつけたものだ。それほど、王宮が困窮しているのだろうが」
「なにか、気になることがあるのですか?」
「これに簡単に食いつくと、逆に潰される」
「それは、そうですけれど」
謀反ともなれば、それは相手にヴァレリアンを捕えるきっかけを与えてしまうようなものだ。もし、計画途中にクリストフの耳にでも入れば、さすがにクリストフでも対処してくるだろう。
それに、まだ王は健在だ。国自体に、王族に反旗を翻すことは難しい。訴える相手が健常であるかわからないとはいえ、王は生きていることになっている。
(本当に生きているかなんて、わからないけれど)
「公爵様にその旗振りをさせるのは、あまりにも失礼なのでは? 今まで王妃を持ち上げてきた者たちが行うべきでしょう」
「ははっ」
キッパリ言いやれば、ヴァレリアンが吹き出した。
時折、そうやって笑うが、いつも笑えるような話はしていないのだが。
頬杖を突きながら、苦笑いのような、けれどどこか喜んだような笑い方をする。
「そこで、失礼と言うのは、君ならではだな」
「そうですか?」
「好ましいと言う話だ」
さらりと言われて、つい口を閉じる。突然何を言い出すのか、この男は。
『どうでもいいけど! それで、どうするって!?』
トビアがラシェルの目の前に飛び出してきて、踏ん反り返った。トビアはラシェルの周りをぐるりと回ると、水をまといながら怒ったようにくびれのない腰に手を当てて、怒った仕草をする。
「そ、そう。そうですよ。それで、どうなさるつもりですか!?」
「ふむ。考えていることはある。だが、まだ連絡が来なくてな。もしかしたら……」
なにか問題でもあったのか、ヴァレリアンは言葉を濁した。公爵領に戻らず、都に留まっている理由があるのだから、何かを待っているのだろうが。
「オーグレン伯爵に関しては、もう少し誠意を見せてほしいところだな。オーグレン伯爵ほど娘を守りたいという者が、そこまでいるのかもわからない。次期王を前にして、果たして、裏切ることができるのか。王妃とクリストフを陥れられるほどの材料を手にしてもらわなければ、信用もできない」
オーグレン伯爵は問題ないかもしれない。だが、他の者たちは?
ヴァレリアンが気にしているのはそちらのようだ。それもそうだろう。クリストフがもし、本当に、独裁を強いる気ならば、今立たなければ、芽は潰されるだけ。少しでも遅れれば、裏切り者が出てもおかしくない。
この先、どうなってしまうのだろう。クリストフは、一体何を望むのか。
「ラシェル」
「はい!?」
嫌なことを考えたせいで、変な声で返事をしてしまった。ヴァレリアンが目をすがめてくる。
「なんでしょうか?」
その、なんでも見通すような目で見ないでほしい。ヴァレリアンは無言のまま、ラシェルを手で招いた。
ヴァレリアンの側まで近寄ると、机を回って椅子の方に来るように招く。
「な、なんでしょう、か!?」
ヴァレリアンの目の前に行くと、ヴァレリアンがいきなり腰に手を回して、ラシェルを抱きしめた。
なにごとか。勢い余ってヴァレリアンの胸元にぶつかり、行き場のない手が宙をかく。
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「クリストフに渡すつもりはない。あのバカが、狂って君を手に入れようとしても、その手に渡すことはないだろう。たとえ、なにがあろうとも、そんなことが起きれば、必ず取り返しに行くから、安心するといい」
ヴァレリアンも同じことを考えたか。クリストフが強行し、ラシェルを望むとしても、そうはなさないと、ヴァレリアンは口にする。
ゆっくりと離された手は、最後に指先をなでて、そうして口元に運ばれた。
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