幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO

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 セドリックは早歩きで廊下を進む。手を握られていて、オレリアは小走りでその後を追った。
 突然、足を止めて、くるりと振り向く。そのセドリックの胸に、オレリアはぶつかりそうになった。

「セドリック様?」
「すまない。逆に目立たせてしまった」
「いえ、そんな」
「そんなつもりではなかったのだが、我慢できなくて」
 セドリックは頭を下げると、頬を赤らめながら、その頬を隠すように無造作に擦った。

 オレリアもかなり驚いた。あのセドリックの迫力よ。この顔で怒鳴られたカロリーナたちは、立ち直れないだろう。あのような場所で、公開処刑されたのも同然だった。身から出た錆とはいえ、王女の侍女を続けられるかどうかの騒ぎになった。
 けれど、それがなんだか嬉しかった。あの場でオレリアの誤解を、はっきりと晴らしてくれたからだ。自分でカロリーナを叱咤するつもりだったが、セドリックから言われた方が、何倍も衝撃だったはずだ。

 カロリーナは、局長とセドリックが同一人物だとわかっていない。セドリックがエヴァンのことや毒の犯人について、詳しく知っているとは思わなかったのだ。しかし、それが致命的だった。
 美形が怒鳴ると威力が違う。その怒鳴り姿ですら、絵になっていた。もとい、凛として、威厳のある姿だった。
 カロリーナだけでなく、侍女の二人にも衝撃的だっただろう。

「謝らないでください。セドリック様のおかげで、はっきりさせられたので、これ以上妙な噂は流せないでしょう。父も聞いていたので、助かりました」
 父親が顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。オレリアが反論するまで我慢していたようだ。オレリアが反論したので、少しは溜飲が下がっただろうか。セドリックも追って反論したので、目を丸くしていたが。

「ナヴァール大臣が見ていたか。後で、話す必要があるな。今日のことは伝えてはいたが」
「そうなんですか?」
「もちろんだ。俺のパートナーとして連れて行くことは、許可を得ている」
「いつの間に」

 その割に、父親は遠くから説明を求めていたが。セドリック相手に聞けなかったのかもしれない。きっとセドリックから連絡が来て、相当驚いたのだろう。
 急に血の気が引きそうになる。家に帰ったら、両親から説明を求められるどころではない。自分だって、まだ、セドリックとどんな関係なのか、よくわかっていないのに。

「オレリア。余計なことを、しただろうか」
 セドリックが、やけに小声になって、オレリアに近づいた。
 どうしてそんな顔をするのか。なぜかと思うのと同時、セドリックが近くて、オレリアは体温が上がるような気がした。

「その、啖呵を切ってしまった」
 それについては、謝る必要などない。そう言おうとして、ふと、セドリックのセリフを思い出した。私への侮辱と受け取る。オレリアへの悪質な噂を、セドリックへの侮辱とするならば、それは大切なパートナーであると言ったのも同然だった。

「あ、え、えと。セドリック様は、その、あんなことを言って、大丈夫なんですか?」
 誤魔化してしまったのはオレリアだが、セドリックが本気なのか、自信を持てなかった。どんなつもりで、オレリアをパートナーとしたのか。恋愛初心者のオレリアが、察することもできなかった。
 セドリックは再び顔を赤らめた。前髪がないおかげで、よく表情が見える。案外顔に出るのかもしれない。すごく新鮮だ。

「守る気もない女性を、パートナーにするつもりはない」
「セドリック様……」
「君は、母の手前、断れなかったかもしれないが」
「違います!」
 オレリアが、意味もなく恥ずかしくなって、曖昧にしただけだ。はっきり言うことが怖くて、事実を口にすることができなかった。

「セドリック様のパートナーになれて、すごく嬉しいです。私が、子供っぽいせいで、変な言い方をして。それに、さっきは、本当に助かりました。おかげで、彼女たちはもう大きな顔はできないでしょう。すっきりしました。すごくカッコよかったです!」

 力説すると、セドリックは更に赤面させた。その顔を見ているだけで、こちらも顔に熱がこもってくる。それでも、新鮮な照れた顔を見ていたかったが、脇を通る者たちがいて、セドリックは頬を擦ると、すぐに表情を戻した。残念に思っていれば、セドリックはオレリアの手を握って歩き始めた。

「そろそろ、帰ろう」
 そう囁くように言いながら、表情は戻っているのに、耳はまだ赤いまま。
(私、勘違いしていいのかしら。局長も、本気で私をパートナーにしたって、思っていいの?)

 握られたままの手の体温が、やけに気恥ずかしくて、けれど、その手を離したくなくて、オレリアはセドリックの手を握りしめたまま、寄り添いながら帰路に着いたのだ。
 







「それで、どうしてまた、ここに来たの?」
「パーティで、言い争いになったって聞いて」

 つまり、カロリーナからあることないことを聞いたのだろう。どう伝わっているのか、あまり聞きたくない。
 薬学植物園の警備から、外に騎士がうろついていると言われて出てみれば、やはりエヴァンだった。研究所の前をうろつかれるよりマシだが、エヴァンがここに来ては、カロリーナの思うつぼだ。
 移動には誰かと一緒に行動していたが、今、薬学植物園にはオレリアしかいない。長居されるのは困る。

「何があったのかと思って」
 騒ぎについてよくわかっていないのだと、エヴァンは眉を下げる。
「オレリアが、カロリーナを罵ったって話も聞いたんだけれど、本当なの?」
「なんでそうなるの? 罵られたのはこっちよ」
「オレリアにひどく言われたって、ずっと泣いていて。オレリアがなんで怒っているのか、聞きたいんだ。いつもカロリーナをひどく言うって、ずっと言っていて。みんなオレリアの話を信じているから、副大臣に怒鳴られたって泣き続けていて」

 話したいことはそれか。カロリーナは、全面的にオレリアが悪いと言い続けているようだ。
「それで、カロリーナさんは、王宮でずっと私の文句を?」
「カロリーナは王宮には来ていないよ。昨日、カロリーナの部屋で会っただけで」

 パーティの後、カロリーナは王宮に来ていないそうだ。心配になり屋敷に行けば、カロリーナが鳴き暮らしているという。
 パーティから数日経ち、何も言ってこないことに不思議だったのだが、さすがに王宮には来られなかったようだ。副大臣に止められたのかもしれない。

 エヴァンはなにも知らず、カロリーナの嘘を散々聞かされたのだろう。すべてオレリアが悪いと喚いているため、オレリアに確認しに来たのだ。

「それを信じているの?」
「そういうわけじゃ。でも、ずっと泣いていて」
 それで、さすがに気になったということだろうか。
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