妹を殺そうとした毒姉になったので逃亡することにした

MIRICO

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23 想い

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 薄れゆく意識の中、アルヴェールが駆け寄ってジョアンナを抱き上げた。
 告白をすぐに受け入れず、答えを先延ばしにしていたせいで、二度と想いを伝えられないかと思った。
 だから、言葉を告げなければと、アルヴェールに想いを伝えたのだ。
 それで安堵したのか、ジョアンナは意識を失った。

「目が覚めましたか? すぐにお医者様を呼んで参ります」
 まぶたを上げると、見知らぬ女性が上からのぞくように声をかけてきた。ジョアンナがゆっくり瞬きをすると、女性は部屋を出て行ったか、すぐに姿を消した。

「ここは?」
 見覚えのない天井。起き上がれば見知らぬ部屋で、しかし前の時のような倉庫ではなく、柔らかなベッドで眠っており、美しい調度品の置かれた眺めの良い景色が見える部屋だった。
 誰かに、助け出されたのだ。

 体に痛みはない。やけどもなさそうだ。少しだけ頭が重いくらいで、吐き気などもない。
 炎のせいで煙と熱さでもうろうとしていた中、ブレスレットを握り締めれば、アルヴェールが来てくれたように思えた。

「まさか、本当に来てくれたの?」
 ならば、ここはギルメット家だ。アルヴェールが現れたのは夢だと思っていたのに。
「私、もしかして、本人に、」
 もしかしなくても、本人に告白してしまったのではないだろうか。

 急に熱がこもってくる。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。薄れる意識の中、呼ぶ声が聞こえた。その声が今でも耳に残っている。だから、言うべき言葉を伝えなければと。
 おぼろげなため、妙なことでも口走っていないだろうか。声がちゃんと出ていたかもわからないので、アルヴェールには聞こえていなかったかもしれない。

「アルヴェール様も、こんな気持ちで私に告白してくれたのかしら」
 マリアンに正直になっていいと言われてから、その心づもりであったのに。
 一人で恥ずかしくなって悶えていると、ノックの音が聞こえた。

「ジョアンナ!」
「アルヴェール様!」
 やはりここはアルヴェールの屋敷だったか。廊下を走ってきたのか、焦燥した姿で近寄ってくる。

「大丈夫か!? どこか痛いところは? 気分は??」
「大丈夫です。あの、助けていただいたみたいで」
「間に合ってよかった。いや、もっと早く気づくべきだった。馬車が通った時に、おかしいと思ったのに」

 アルヴェールは通りすぎた馬車を不審に思いながら、孤児院で話を聞くまで気づかなかったことを悔やんだ。そんなこと、すぐに追ってきてくれただけで嬉しいのに。

「犯人は今追っている。すぐにわかることだろう」
「私は一体、誰に狙われたのでしょう」
「まだなんとも言えないが、君が孤児院に通っていることを知っている者の仕業であることは、間違いないだろう」
「そうですよね……」

 思い当たる者など、誰がいるのか。考えて、気持ちが落ちていくのがわかった。家族か、レオハルトか。他にも令嬢たちがいるが、恨みをかった覚えはない。拉致をして、火を付けて放置しとうとする者など、覚えはない。
 だとしたら、

「今、調べを広げている。まだ犯人は見つかっていないから、ブティックへは」
「そうだわ。早く戻らなければ」
 どれくらい眠っていたのだろうか。窓の外はまだ明るいが、日が傾いている。モニカに孤児院へ行ってくるとは伝えたが、あまり遅い時間に戻れば心配する。

「戻る気か!? 犯人がまだ誰かわかってはいないが、ブティックも知られているかもしれない。今日はここに泊まっていきなさい。様子を見た方がいい」
「こちらに、ですか? そんな、ご迷惑を」
「迷惑なんかじゃない。君をこのまま帰す方が不安だ。ブティックに連絡はしておく。それならば良いだろう?」

 アルヴェールはまだ犯人がわかっていない状況で帰ることを止めた。ブティックが安全であるかは確かにわからない。しかし、その犯人がブティックに何かしようとしないだろうか。
 その不安がわかっているか、騎士を向けて様子を見てくれると言ってくれた。

「申し訳ありません」
「謝らないでくれ。ジョアンナ、もっと私を頼ってほしい」
「ですが、」
「意識を失う前に言ってくれた言葉は嘘だったのか?」
「え?」
「私を思ってくれるのならば、側にいて守らせてほしい」
 アルヴェールの言葉に、一瞬で体温が上がった。

「わ、わたし、聞こえて、アルヴェール様、」
「言ったことを忘れたとは言わないよな?」

 アルヴェールがいたずらっ子のような笑い方をしてくる。
 やはりあの時のことは夢ではなく、アルヴェールもジョアンナの言葉をしっかり聞いていたのだ。

「あの、その」
「ジョアンナ、もう一度言う。君を愛している。どうか、私の側にいてくれないか」
「アルヴェール様」

 真剣な面持ちにどきりとした。いたずらっ子の顔が消えて、いつもの冷静なアルヴェールの顔に戻っている。しかしその黒曜石の瞳に冷たさはなく、むしろ温かな、熱のこもった瞳だった。
 本当に、ジョアンナを求めてくれている。

「私、側にいたいです。アルヴェール様の」
「ジョアンナ」
「ですが、私は、家を出た身です。前にもお伝えしましたが、このような立場でアルヴェール様の側にいて良いのか、ずっと迷っていました」
「そんなこと、気にする必要など」
「それでも、側にいたいと思いました。あの時、煙に充満したあの部屋で、もしもあのまま朽ちることになってしまえば、アルヴェール様にお会いすることができなくなってしまう。どうして、告白の返事を、自分の想いを伝えなかったのだと、ひどく後悔して」

 だから、側にいたい。それを伝えたい。
 ジョアンナは顔を上げた。アルヴェールの向けた視線をしっかり真正面から受け止めて、見つめ返した。

「どうか、私をお側に置いてください。こんな身ですが、アルヴェール様と共にいたいのです」
「ジョアンナ!」

 アルヴェールがジョアンナを抱きしめた。あの時もうろうとした中で受けた腕と同じ温かさが、ジョアンナを包み込む。ジョアンナと違った硬い筋肉を持った腕が力強く抱きしめて、ジョアンナを引き寄せた。

 アルヴェールの顔が近づいて、その瞳に吸い込まれそうになった。
 そろりと触れられた唇に、アルヴェールの指がなぞる。そうしてそのまま、ゆっくりと引き寄せられるように、アルヴェールのそれと重なった。

 こんな風に、人を愛するとは思わなかった。自分が愛する人と思いが通じるとは思わなかった。
 アルヴェールの重ねた唇が熱くなってくる。一度離れてはまた触れて、何度目か繰り返して、恥ずかしくて俯きそうになったが、アルヴェールがもう一度、今度は深く、唇を重ね合わせた。
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